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ロシアにただで譲歩したトランプ、シリア反政府穏健派への支援を終了 - 佐々木伸(星槎大学客員教授)

 トランプ政権がシリアの反政府穏健派を支援する米中央情報局(CIA)の秘密作戦の終了を決めたことが米メディアの報道で明らかになっているが、これには「ロシアにただで譲歩した」(米元当局者)との批判が強い。穏健派を見捨てた代償は意外に大きく、ロシアの影響力拡大を許すことになるのは確実だ。

プーチンとの追加会談の意味

 シリアの武装組織への米国の支援は2つのルートで行われてきた。1つはアサド政権に対して内戦を挑んでいる自由シリア軍など反政府穏健派へのCIAによる秘密援助。もう1つは、ISの事実上の首都ラッカの解放を目指すクルド人とアラブ人の「シリア民主軍」(SDF)への国防総省による援助だ。

 今回打ち切られたCIAの秘密作戦は2013年、オバマ前政権がアサド政権を打倒ないしは、アサド大統領に退陣を迫るために開始した支援だった。内容は「シリア自由軍」など穏健派に武器を供与し、訓練することが中心で、ヨルダンやトルコなどで訓練し、戦場に戦闘員を送り込んだ。

 しかし、2015年にロシアがシリアに軍事介入し、過激派を掃討するという名目で、実際には反政府勢力を攻撃したことから、一時は優位に立っていた同勢力が劣勢に追い込まれた。同勢力は米国に対して、携行用の対空ミサイルの供与を強く要求したが、かなえられず、北部アレッポの敗北により大きく弱体化した。

 トランプ大統領は選挙期間中から「他国の政権を変えるようなことには反対」などとして、反政府勢力を支援するオバマ政権を非難し、シリア内戦には関わらないとの方針を示してきた。トランプ氏は3カ月前、アサド政権が化学兵器を使用した時こそ、シリアの空軍基地にミサイル攻撃を実施したものの、今回の決定はこの方針を具体化し、トランプ政権が「アサド政権の存続とシリア支配」という現実を承認したものである。

 問題はこれがロシアの要求を事実上全面的に呑んだ形になったことだ。アサド政権を支えてきたロシアはかねてから米国に対してCIAの支援をやめるよう求めてきたが、「トランプは何の見返りもなく、ロシアの要求に屈した。シリアをプーチンに無料でくれてやるようなもの。少なくとも、ロシアの譲歩を引き出す取引材料にできたはずだった」(ベイルート筋)という批判は現米当局者の間からも強い。

 トランプ氏は7月7日にドイツ・ハンブルクで開かれたG20首脳会議の際、プーチン氏と当初の予定を大幅に上回る2時間15分に渡って初会談した。しかもその後の首脳夕食会の際、トランプ氏はプーチン氏の隣の席に移動して約1時間に渡り、予定にない2回目の会談を行った。

 1回目の会談後、シリア南西部のダルアーなど3カ所での停戦が発表されたが、反政府勢力への支援の打ち切りについては明らかにされなかった。一部ではこの支援終了がロシアとの停戦の条件ではないかとの憶測も出たが、米側はこれを否定している。

 トランプ氏はこの支援終了については、ポンペオCIA長官、マクマスター補佐官(国家安全保障)と協議の上、1カ月前に決断を下したとされる。このタイミングでの決断に「プーチンへの手土産だった」(ベイルート筋)との見方も出ている。

穏健派が過激派に

 「IS以後」のトランプ政権のシリア政策はまだ固まってはいないが、この停戦により、目指すところは見え始めている。停戦後、トランプ氏はロシアとの間で別の停戦を協議中であると述べ、「このように順次停戦を積み上げていけば、シリアから銃声が途絶えることになる」と指摘、各地で部分停戦を実施して全土の停戦につなげたい、との戦略を明らかにした。

 しかし、シリアでISを壊滅し、内戦の停戦を成立させた後、トランプ政権がシリアから全面的に手を引くことには、戦略上の観点から国防総省などが猛反対するだろう。ロシアとイランの影響力があまりに強くなることはロシアとの協調路線を鮮明にしているトランプ氏にとっても好ましいことではない。

 こうしたことからもトランプ政権には、長期のシリア・中東戦略を早急に策定することが求められるが、今回の支援終了のリスクの1つは、「米国に裏切られ、見捨てられた」(反政府組織指導者)との思いを強める反政府勢力の戦闘員らがアルカイダ系の過激派、旧ヌスラ戦線などに合流する懸念があることだ。

 シリアでは、ラッカ解放後も、ISの戦闘員がユーフラテス川渓谷を中心にゲリラ活動を続行する可能性が高い上、反政府勢力が過激派に加わるようなことになれば、今度は米国に対して牙を向く。トランプ氏が描くようなシリア停戦の実現は困難になるかもしれない。
 

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