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新人時代、月に200時間も残業し“プチプチ”にくるまって寝ていた。“やりがい”や“大義名分”以前に食べていくことで精一杯だった - 「賢人論。」第42回村上憲郎氏(前編)

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2008年までGoogle日本法人の代表取締役を務めるなど、敏腕の経営者として米国系ICT企業を渡り歩いてきた村上憲郎氏。敗戦後の貧しい戦後日本に生まれ落ちて以来、急速に豊かになってゆく日本を氏は見つめてきた。前編は、苦労を重ねた新人時代のエピソードを皮切りに現代の雇用環境や若者の働き方について思うところを語ってもらった。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

原子炉を検査するエンジニアとしてキャリアをスタートした

みんなの介護 村上さんは2008年までGoogle日本法人の代表、兼アメリカ本社の副社長を務められましたが、キャリアのスタートはエンジニアだったそうですね。

村上 日立電子という会社に務め、原子力発電所の振動試験とかを担当していました。当時は月に200時間も残業していましたね。ちょうどその頃オイルショックがあり、原子力発電所以外に日本のエネルギーを支えられないからということで膨大な仕事が課されていたんです。

みんなの介護 残業だけで200時間…!具体的にはどんな作業だったんですか?

村上 完成した原子炉を振動発生装置で揺すって、耐震性の検査をするんです。十分に頑丈であるということでつくってはいるんですが、配管などは構造が複雑なので地震波に特有な周波数との“共振”という現象が起こらないことをチェックしていくという業務です。

共振というのは、例えば「一休さん」のエピソードで有名な現象です。京都の「知恩院」というお寺には、日本有数の大きさを誇る釣鐘(※直径2.8メートル、高さ3.3メートル、重さ60トン)があります。これを一休さんは、共振を利用して指一本で動かしたというんです。物体はそれぞれ“固有振動数”という決まった振動数を持っていて、それに合うリズムで突いていると巨大な釣鐘でさえ揺れ始める。

みんなの介護 事故が許されない原子力発電所にとって、そんな共振現象は脅威ですね。

村上 私は“高速フーリエ変換”というコンピュータープログラムを使って、その振動試験の解析をしていました。原子炉に600個くらいのセンサーを付け、地震に特有の周波数帯域で揺する。すると共振現象が起こったところだけ大きく揺れるので、そういう箇所を少しずつ補強していくんです。

そんな仕事をしていた頃がだいたい残業200時間。土日出勤や徹夜が当たり前の世界でしたね。睡眠時間はせいぜい3~4時間で、家には寝に帰るだけ、という感じでした。事務所や工場の中で寝ることもありました。その代わり残業代がたっぷり出て、本給の3倍くらい給料をもらっていましたよ。

包装用のビニールにくるまって寝ていた新人時代

みんなの介護 家に帰ることができず、包装用のビニールシート…いわゆる「プチプチ」にくるまって寝たこともあった、という衝撃的なお話も著書に書かれていました。

村上 機械のハード部分を担当する人が手直しを終えると「今度はソフトの番だ」と言われて私たちが起こされ、それが終わると「今度は別のところがおかしい」と言ってまたハードの人を起こして…ということの繰り返しでしたから、きちんと寝る暇がないんですよ。

ですから、机の上でプチプチにくるまって寝るしかなかった。プチプチは結構、保温性があるんですよ(笑)。精神的に限界を迎える人も出るくらい、過酷な環境でした。当時といえども、さすがに労働基準監督署の査察が入りましたね。

みんなの介護 査察が入って労働環境はいくらか改善されましたか?

村上 されませんよ。仕事は、待ったなしで、あるんですから。

みんなの介護 それに比べれば遥かにましだと思いますが、今の日本人も休みは取れないし、残業は多いし、働きすぎだと言われています。

村上 そもそも未だに時間で管理しているんですか、と私は思いますね。これからは、仕事の成果で評価する仕組みをきちんと導入していかなければいけません。編集部で言えば、素晴らしい原稿を書き上げさえすれば朝の11時ころにのんびり出社して14時には帰ることができる。そんな働き方を許していくべきです。

残業代が何時間だから労働基準監督署が取り締まるとか、問題になって社長が交代させられるとか、そういうことを相変わらずやっているのはおかしいですよ。チャップリンの『モダン・タイムズ』に描かれたような機械的な労働ならまだしも、知的産業に携わる人を時間で管理してもしょうがない。こういう成果主義の考え方は決して新しいものではないんですが、なかなか実現しませんね。

みんなの介護 どうすれば、そんな成果型の働き方が日本に浸透していくのでしょうか。

村上 どうでしょうね。残業が多いのは、帰れないのではなくて空気を読んで帰らない場合が多いわけですから、会社として「無駄な残業はしません!」という宣言をしていくべきなんじゃないでしょうか。

最近ではいろんな会社がフレックスタイムを取り入れ始めていますが、それもまだまだ浸透しそうにない。出勤時間が集中していますから、通勤電車の混み具合にしたって最悪です。お互いにグーッと押し合わなければ乗り込めませんよね。

みんなの介護 介護士さんなどもそうですが、低賃金かつ重労働という過酷な環境で働いている人は今でも多いかと思います。つらい仕事の中でうまくやりがいを見つけていくコツなどはあるでしょうか。

村上 介護士さんに関しては、本当に申し訳ない状況になっていると思います。非常にストレスフルで体力も要る仕事だと思いますから、介護士さんの給料を一定以上の水準に保つための施策を、政府は率先してやるべきだろうと思いますよ。

とはいえ、“この仕事は社会のためなんだから”とか、そういう大義名分を無理に探そうとする必要はないと思うんです。そういうものは、持てる人だけ持っていれば良いんじゃないでしょうか。綺麗事の前にまずは「食うために働くんだ」そして「自分がのし上がるために働くんだ」と思うことが一番のモチベーションになると思います。

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