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話す人で伝わり方が180度違う理由

「オレが話しても耳を傾けないのに、外部のコンサルが話すことは聞くんだよな……」。そんな上司の悩みを解決する方法がある。どんな上司であれば、部下の「動機づけ」に成功するのか。連載3回目は上司のもつべき「人間性」について解説する――。

■「誰」が言うかで動機づけが変わる

営業のコンサルティングで担当者たちに指導をしていたときの話です。 指導の様子を見ていたマネジャーが、なんとも複雑な表情で私たちにこう言いました。

「おかしいな。あなたたちが指導していることは、いつも私が部下に言っていることと同じだ。私が言ってもみんな聞き流すのに、外部のコンサルタントが言うと真剣に聞いている。いったいどうしてなのか」

『動機づけのマネジメント』(プレジデント社刊・横田雅俊著)


実はコンサルティング先のマネジャーからこのように言われた経験は一度や二度ではありません。いつも一緒にいる上司が指導しても伝わらないのに、これまで接点がない私たちが同じことを伝えると、現場の社員たちがきちんと受け止めてくれるという現象が起こるのです。

上司からすると、これはあまり愉快な気分ではないでしょう。しかし、こう考える上司は大事なことを忘れています。 それは「何を」言うかと同じくらい「誰が」言うかが重要だということです。

私たちはコミュニケーションにおいて、どのようなメッセージを伝えるのかということに意識を奪われがちです。確かにメッセージの中身は大切です。しかし、同じメッセージでも、発信者の立場や人柄によって意味合いが変わってくることがあります。そのことを考慮せず発信すると、正論を言っていても相手に伝わりません。

例えば人材育成について、次のような発言があったとします。

「当社は研修より、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)重視だ」

OJTとは、研修などの集合教育と違い、現場で実際の仕事を通して必要なことを教えていく教育法のことです。

このセリフを言ったのが直属の上司なら、社員は、「上司は研修まかせにせず、自身が積極的に関与しようとしている」 というニュアンスを感じ取るでしょう。指導のスタイルにもよりますが、一般的に上司の積極的な関与はポジティブな姿勢の表れであり、部下にも歓迎されるはずです。

一方、同じことを経営層が言ったならどうか。おそらく多くの社員は次のように感じるはずです。

「うちの会社は教育にお金をかけるつもりがないのか。OJTといって格好つけているが、結局はただ現場まかせにしているだけじゃないか」

言っていることは全く同じですが、受け取られ方は180度逆です。このように発言者の立場が違えば、メッセージの意味合いも変わります。

営業強化でも同じことがいえます。客観的な視点を持った第三者であるコンサルタントが伝えたほうが素直に受け止められる場合もあれば、普段から一緒に汗をかいている上司が熱い言葉で伝えたほうが心に響く場合もあります。内容が正しければ誰が言っても同じではないのです。

■動機づけに必要な上司の「人間性」とは

動機づけにおいても、「誰が」言うかは無視できない要素です。何を言っても部下がやる気にならないのは、メッセージが間違っているからではなく、そもそも上司が「メッセージを発信するのにふさわしい人物」ではないからだという可能性があります。
後者の場合、部下を変える以前に、上司自身がマネジメントするにふさわしい人物にならなければなりません。多くの上司は、その現実と向かい合いたくないがゆえに、無意識のうちに「何を」言うかばかりに注目してしまうのです。

では、部下を動機づけするとき、いったいどのような上司なら言葉が胸に届くのでしょうか。

まず思い浮かぶのは「実績がある上司」です。しかし、実績と動機とあまり関係しません。多くの上司は、もともと若手の部下に比べて実績のある人たちです。それでもメッセージが届かないケースがあるということは、実績があれば部下が耳を傾けてくれるわけではないことを示しています。 また、役職定年の増加により、年上の部下が増加する傾向にあります。部下の中には、上司より輝かしい実績を持っている人もいます。そのような人に実績を振りかざしても心は動きません。

動機づけに関係するのは、上司の「実績」よりも「人間性」です。部下が上司を認めていなければ、どのような正論も響きません。「この人の言うことなら信じてもいい」と思わせる関係性があって、初めて動機づけのメッセージが力を持ちます。

では、どのような人間性を持つ上司なら、部下は素直に耳を傾けるのか。 コンサルティング先の社員に「信頼できる上司」についてアンケートをとった結果、上位二つの回答は次のとおりでした。

「言っていることと、やっていることが同じ上司」
「保身のために動かない上司」

■「言行一致」「保身に走らない」上司が信頼される

言行一致のほうから考えてみましょう。 言行が一致しない上司の多くは、視線が内向きです。内向き(社内)になっていると、あるときは経営陣の顔色をうかがい、また別のときは部下の機嫌を取るというように、まわりに振り回されてどんどん言行不一致になります。

それに対して、言行一致の上司の視線は外、つまり市場(顧客や競合)のほうを向いています。多少の流行はあるものの、競争優位を生み出すためにやるべきことは普遍的なことがほとんどです。そのためしっかり外を向いていれば、語ることや行動は、そう簡単にブレません。だからこそ部下も安心してアクセルを踏めるのです。

保身に走る上司も部下から信頼されません。 上司が保身に走る人物なのかどうかが如実に表れるのは、部下が大きな失敗をしたときです。普段、「好きなようにやれ」と言っているのに、いざ失敗をすると、「事前に報告がなかった」といって責任回避をする上司は最悪です。「好きなようにやれ」という指示の裏には「責任は自分が取る」という意味合いがあるはずですが、失敗すると手のひらを返して部下を責めるのです。これでは部下が心を開くはずがありません。上司が何を言っても聞き流すだけでしょう。

言行を一致させることも、保身に走らないということも、人として守るべき基本的なことです。この二つが上位に入るのは、現実には基本的なことさえできていない上司が多いということの裏返し。気をつけたいものです。

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カーナープロダクト代表取締役 横田雅俊(よこた・まさとし)
長野県生まれ。 工学部にて設計を専攻。設計士として活躍。その後、外資系ISO審査機関にて営業職を経験。「最年少」「最短」「最高」記録を更新し、世界8カ国2300人のトップセールスとなる。東京本社マネジャーに就任し、三年で同機関を日本有数のISO審査登録機関(単年登録件数日本No.1)へと急成長させる原動力として活躍。その後、営業に特化したコンサルティングファーム、株式会社カーナープロダクトを設立し、代表取締役に就任。主な著書に『営業は感情移入』『諦めない営業』など。近著に『動機づけのマネジメント』(プレジデント社)がある。

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(カーナープロダクト代表取締役 横田 雅俊)

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