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明治、大正、昭和天皇 健康と長寿を願う医療体制の歴史


【特別な医療体制が組まれる(写真:アフロ)】

 国民が陛下の健康と長寿を願うなか、「象徴」である天皇は常に特別の医療体制が組まれてきた。皇室ジャーナリストの神田秀一氏が“玉体”の医療の歴史に迫る。

 * * *
 明治時代は天皇といえどもその医療体制は脆弱でした。明治天皇には5人の男子が生まれましたが、4人は亡くなり、生き残ったのは後の大正天皇だけでした。

 明治初期には現在のように専属で天皇、皇族に付く侍医はおらず、そのつど外部から医師が宮城に駆けつけて診察をしていたといいます。医師には漢方医と和方医が混在しており、どちらかというと漢方医に主導権があったようです。

 1889年(明治22年)に大日本帝国憲法の発布とともに、旧皇室典範が制定されると、宮中の医療体制が一変します。常駐する侍医が設けられて東京帝国大学(現・東京大学)医学部出身の医師が務めるようになります。西洋医学の導入です。この前年までに漢方医は全員解任されています。宮城内に侍医寮も作られました。

 当時の侍医はモーニング姿で診察したという話があります。医師が白衣姿になるのは、患者からの飛沫感染や血液感染を防ぐためです。そのような格好で陛下に接するのは失礼だという考えがあったようです。

 侍医がいたからといって、必ずしも現代のような科学的医療が行われたわけではありません。明治天皇は晩年に糖尿病を患い、慢性肝炎を併発しました。そして1912年(明治45年)7月、食事中に倒れ発熱、尿毒症と診断されます。ところが、その後も主に食事を中心とした生活改善にとどまりました。危篤状態になってから、侍医は科学的医療を決断したと言われています。

 近代医療の普及に熱心だったと伝えられる明治天皇に、その近代医療が施されなかったことは皮肉なことです。

◆病名は告知されなかった

 生来虚弱体質で病弱だった大正天皇は、誕生直後から治療を受け続けていました。のちに流行性感冒、肋膜炎、腸チフス、肺炎、尿毒症などにかかり、一時は危険な状態にも陥ります。

 その後、ご静養の効果があったのか、皇太子時代に一時は全国を巡啓されるまでになりますが、天皇に即位後、再び体調が悪化します。そして宮内省は大正天皇のご病状を国民に公表します。

 当時の新聞は、「御脳力は日を逐ひて衰退あらせらるゝ」「御幼少の時御悩み遊ばされたる御病気に原因するもの」(『東京朝日新聞』)などとかなり詳細に報じています。裕仁皇太子(後の昭和天皇)が摂政になる事情を国民に説明する必要があったためと思われます。1926年(大正15年)12月、大正天皇は葉山御用邸にて崩御しました。カルテに病名は記されていないと言われています。

 昭和になると医療への取り組みが一気に加速します。侍医長を含む5名の侍医が24時間体制で待機する形は昭和天皇の時に確立されました。

 そして宮内庁病院が1926年に東京・赤坂に「宮内省互助会診療所」として開設されます。現在の施設は、1964年(昭和39年)に建てられました。内科・外科・産婦人科などの8科を持つ総合病院です。天皇陛下と皇族方のほかに、宮内庁職員や皇宮警察職員、その家族、彼らから紹介を受けた人が受診できます。

 天皇の基本検診は日々の拝診です。起床後、侍医が「昨夜は眠れましたか」とお声がけをして、脈を調べます。「おぬる(体温)」を計り、「お東(便)」も確認しました。

 1988年(昭和63年)9月19日夜、突如、天皇が大量吐血をされます。12月には、すでに陛下はほとんどお話ができない状態となりました。当時、侍医たちの表情からは疲労困憊と張り詰めた重い空気が伝わってきました。

 ある侍医を自宅前で取材待ちしていた時のことです。彼はレコードをいっぱいに抱え込んで帰宅しました。自宅で好きな曲を聴き、気を紛らわせているとのことでした。さすがに高木顕侍医長が自宅近くのパチンコ店にいたことには驚きましたが、患者は天皇陛下であり、四六時中、報道の監視付きの行動ですから気分転換の居場所探しは理解できました。

 1989年(昭和64年)1月7日午前6時33分、昭和天皇は皇居・吹上御所2階の寝室で皇后ら皇族方や医師が立ち会う中、崩御しました。後に発表された病名は「十二指腸乳頭周囲腫瘍(腺がん)」でしたが、昭和天皇には最後まで伏せられていました。がん告知がまだ一般的ではなかった時代です。ですが、陛下はうすうす感づいていたかもしれません。

【プロフィール】かんだ・ひでかず/1935年生まれ。テレビ朝日にて1978年から宮内庁担当記者。1995年退社後、フリーの皇室ジャーナリストとして活動。

※SAPIO2017年8月号

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