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【佐藤優の眼光紙背】鉢呂経産相の『放射能をつけちゃうぞ』発言を野田佳彦首相が放置してはならない

眼光紙背

2011年09月10日 07:49

 鉢呂吉雄経産相が、報道陣の1人に「放射能をつけちゃうぞ」と述べ、防災服をなすりつけるようなしぐさをしたというにわかには信じられないスキャンダルが発覚した。朝日新聞の報道を引用する。

鉢呂氏「放射能つけちゃうぞ」 防災服で帰宅時、記者に
 鉢呂吉雄経済産業相が8日夜、記者団の1人に「放射能をつけちゃうぞ」と述べ、防災服をなすりつけるようなしぐさをしていたことがわかった。この日は野田佳彦首相らと東京電力福島第一原発の周辺自治体を視察。防災服のまま東京都内の衆院議員赤坂宿舎に帰宅した際に、取り囲んだ5、6人の記者団に視察模様を振り返りながらこうした行動をとった。
 鉢呂氏は、9日に原発周辺の自治体を「死のまち」と表現し、撤回、陳謝している。原子力政策や原発事故の補償問題を所管している経産相として、資質が問われることになりそうだ。(9月10日asahi.com)

 本件について、9日夜問い糾された鉢呂経産相は、<発言について記者団に「(記憶が)ちょっと定かではない」と語った。防災服をすりつけた行為に関しては「(相手に)近づいていったのは事実だ」と述べた>(9月9日共同通信)ということだ。深刻なのは、鉢呂氏が「(記憶が)ちょっと定かではない」と述べたことだ。ここには2つの問題がある。

 第1は、マスメディアは公器であるという認識が鉢呂氏に決定的に欠けていることだ。鉢呂氏は、記者団と友だち感覚で付き合っている。普段から気軽に冗談を言い合う仲なのだろう。しかし、記者はそのような冗談やオフレコで述べた政治家の発言をメモにして上司に報告する。このメモの内容は、瞬時に他の政治家や官僚に伝わる。オフレコメモは外部に流出しないという建前になっている。しかし、実際には、会社によってメモの扱いに関する厳しさの差異はあるものの、外部(特に政治家)に流出している。ときどき筆者のところにも政治家や記者からこのようなオフレコメモが回ってくる。
 マスコミは、本質において権力監視の機能を持っている。特に閣僚になると、記者との間で適用されるゲームのルールが変化する。それまでは、事実上、オフレコと見なされていた冗談や酩酊したときの発言であっても、ニュース性があれば報道される。こういうメディアの本質について無自覚な人に危機管理はできない。

 第2は、鉢呂氏が「放射能をつけちゃうぞ」と発言したことについて、「(記憶が)ちょっと定かではない」と答えたことだ。鉢呂氏が、実際は記憶しているがこういう返答をしたとするならば、不誠実な人間ということになる。当然、国民を代表する政治家としての適性に欠けるということになる。本当に記憶が定かではない場合は、「放射能をつけちゃうぞ」という発言が持つ意味の重要性を鉢呂氏がまったく認識していないということになる。これは福島第1原発事故に深く関わる経産相の最高責任者としての資質に欠けることになる。

 「死の町」発言といい「放射能をつけちゃうぞ」発言といい、撤回して謝罪すれば済まされる問題ではない。閣僚は国益を人格的に体現する。鉢呂経産相の発言の報道を読んだ諸外国政府が、日本国家の能力と誠実さに疑念を抱かぬようにするための措置を野田佳彦首相が取るべきだ。野田首相が可及的速やかに鉢呂経産相を首相官邸に呼び、事情聴取を行った上で、厳重に注意し、その事実を国際社会に発信すべきと思う。(2011年9月10日脱稿)


佐藤優

佐藤優(さとう まさる)

1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。
2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「予兆とインテリジェンス」(扶桑社)がある。

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