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【佐藤優の眼光紙背】一川防衛相の失言問題 全員草野球では国家が崩壊する

一川保夫防衛相の失言は、日本の国益に深刻な影響を与える。朝日新聞の報道を引用しておく。

一川防衛相「素人だから文民統制」

 一川保夫防衛相は2日、正式に就任する直前に一部の記者に対して「私は安全保障の素人だが、それが本当のシビリアンコントロール(文民統制)だ」と述べ、朝日新聞の取材にもそう発言したと認めた。これに対し自民党の石破茂政調会長(元防衛相)は「閣僚解任に値する。任命した野田佳彦首相の見識も問われる」と批判。国会などで追及する考えを示した。

 文民統制は本来、国民から選ばれた政治家が軍隊を統制するという考え方。一川氏は朝日新聞に「私は軍事の専門家ではないし、銃器を扱ったこともない。国民目線で判断しながら、国民に防衛政策や安全保障を理解してもらったうえで政策を推進しなければいけない、という気持ちで言った」と説明した。(9月3日asahi.com)


 たとえ、防衛相に正式に就任する前であっても、この発言は防衛相になる人の国防・安全保障に対する基本認識を示すものなので、実に深刻な失言だ。なぜなら、中国、ロシア、北朝鮮、韓国が、自ら素人と公言する防衛相が就任した隙を突いて自国の権益を拡大しようとするからだ。失言をしたときは、素直に謝ることが重要だ。日本の政治家に防衛・安全保障問題の専門家は少ない。ただし防衛相のポストに就いてから、防衛・安全保障問題の基本的な考え方を勉強するというのが実情だ。防衛相として必要とされるのは、防衛・安全保障政策に関する技術的知識ではなく、どのようにして日本国家と日本国民を守るために必要とされる政治の機能に対する理解だ。国防哲学と言い換えてもいい。その際、「国民目線」で判断しては、結果として国家と国民を守ることができなくなる。田中真紀子氏が「国民目線」での外交を展開し、どれだけの混乱が引き起こされたかについて、思い出してみよう。どうも一川防衛相は、失言をした場合、それを素直に認めて、誤ることが苦手な性格のようだ。この頑固さが国益を毀損することになるのではないかと筆者は危惧する。

 至急、防衛官僚が一川防衛相に、これまでに確立している文民統制についての政府の基本的立場、そして、日本を取り巻く国際環境の厳しさについてブリーフ(説明)すべきだ。自民党の石破氏が、「閣僚解任に値する。任命した野田佳彦首相の見識も問われる」と批判するのももっともなことだ。ただし、本件を政争の具にする余裕は現下の日本にはないと筆者は認識している。外交についても、玄葉光一郎外相は、素人である。一川防衛相と同じ危うさを抱えている。

 率直に言うが、筆者は、野田佳彦、一川保夫、玄葉光一郎という固有名詞にまったく関心がない。民主的手続きによって選ばれた国民の代表として国家を統括する内閣総理大臣(首相)、国防・安全保障問題を担当する防衛大臣、外交問題を担当する外務大臣を、元外交官として全力をあげて支援しなくてはならないと考える。外交官やインテリジェンス担当官は、その職から離れても、生涯、国家のために奉仕するというのは国際基準だ。東日本大震災以後、弱った日本をつけねらう中国、ロシア、韓国の動きは、外交専門家の目から見ると尋常ではない。この国家的危機を乗り切るためには、日本の国家体制を強化する以外の方策はない。どんなに不愉快な政府であっても、政府を強化するために全力を尽くすことが外交や安全保障の専門家のモラルと思う。

 野田内閣の全員野球は、少なくとも外交、安全保障の分野においては全員草野球である。全員草野球の状態が半年続くと国家が崩壊する。1人1人の選手(閣僚)は、中国やロシアなどのプロ野球選手を相手にすることを十分認識し、力をつけてほしい。日本人は優秀な民族である。日本人の代表である政治家が、国民の水準から極度に劣っていることはない。「政治家はダメだ」というニヒリズムから脱却し、国民が一丸となって政治家を強化していくという方向転換が必要とされている。(2011年9月3日脱稿)


佐藤優

佐藤優(さとう まさる)

1960年生まれ。作家。1985年に外務省に入省後、在ロシア日本大使館勤務などを経て、1998年、国際情報局分析第一課主任分析官に就任。
2002年、鈴木宗男衆議院議員を巡る事件に絡む背任容疑で逮捕・起訴。捜査の過程や拘留中の模様を記録した著書「国家の罠―外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社、第59回毎日出版文化賞特別賞受賞)、「獄中記」(岩波書店)が話題を呼んだ。
2009年、懲役2年6ヶ月・執行猶予4年の有罪判決が確定し外務省を失職。現在は作家として、日本の政治・外交問題について講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。近著に「予兆とインテリジェンス」(扶桑社)がある。

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