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【読書感想】生きていてもいいかしら日記

生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫)

生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫)


Kindle版もあります。

生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫)

生きていてもいいかしら日記 (PHP文芸文庫)

中年で独身、親と同居。最強の酒飲みにして最悪のほら吹き。
大爆笑必至につき人前では読まないで下さい。「サンデー毎日」大好評連載エッセー。

 40代、独身。好きなもの「昼酒」。座右の銘は「好奇心は身を滅ぼす」。
 この本のカバーに書いてある北大路さんの紹介の一節です。
 この人、どうやって生計を立てているのだろう?などと思ってしまうところはあるのですが、こうやってエッセイを書いたりして、気が向いたらお昼に近所の回転寿司屋でボタン海老を食べたりしながら生きていく、という人生も「あり」なんだなあ、と読んでいるだけでちょっと気分がラクになるエッセイ集です。

 これを読んでいると、北大路さんの日常っていうのも、冷静に考えると、そんなにラクなことばっかりでもないと思うんですよ。

 昼間の回転寿司で一人楽しくビール飲んでたら、となりに座った見知らぬじいさんに説教された。原因は座右の銘。「座右の銘は何ですか」と尋ねられたので「ありません」と答えたら、そのまま説教に移行したのだ。

 昼酒飲むのも、なかなかめんどくさいものなんだな、と。女性の場合はとくに。
 このじいさんだって、相手がぶっ壊れたオッサンとか強面の男だったら、こんな説教モードにはならないわけで。
 こういうのをネガティブにならずに、軽く読めるネタにしてしまうのが北大路さんの凄さなんですよね。

 某日。行きがかり上、セールス電話相手に人妻を演じる。「奥様でいらっしゃいますね」「は、はい(反射的に)」「奥様はインターネットを利用なさいますか?」「い、いいえ(本当は利用するが、正直に告げたら話が長くなりそうな気がして)」「では、どなたがご利用ですか?」「えーと、あの……お、男が(夫もしくは主人と言おうとしたが、今まで口にしたことのない単語なので思わず動揺して)」そうですか、では男様は今日はご在宅ですか?」。プロ根性なのか人の話を聞いていないのか、彼女の淡白さは一体どちらか。

 これって、たぶんマニュアルで「相手が行った言葉をそのまま使うように」って指導されていると思うのです。
 一緒に生活している男性が「夫」とは限らないのがいまの世の中ですし、そういうひとつの言葉で、相手が機嫌を損ねてしまうリスクもあるから。
 でも「男様」って、すごいですよね。
 これって、どこまで適用されるのか試してみたいなあ。

「ジョニー・デップは今、家をあけておりまして……」「ルフィは、ちょうど旅に出ていて……」それでも、相手は「ルフィ様は、いつならご在宅ですか?」って聞いてくるのだろうか。
 まあ、こういう電話って、「人の話をちゃんと聞かないと失礼」と思って、きちんと対応しようとしていると、どんどんつけ込まれてしまうような怖さがあるので、あまり遊ばないほうが身のため、ではあるのですけど(北大路さんの「男」は不慮の事故ですし)。

 北大路さんは、ものすごく耳がいい人なんだな、と。
 何気ない周囲の会話の再現力がすごい。

 あの件で揉めたのは、確か居酒屋だった。となりのテーブルには若い女の子が二人いて、「一度会っただけの男が、なぜか自分の名前を知っていた」としきりに騒いでいた。「エリカ絶対言ってないんだって。エリカはマユとフツーに話してたの。で、その男はマユの知り合いで、横に立ってただけ。

エリカ、営業スマイルでにっこりしたけど、でも名前は教えてないの。なのに次に会ったら、いきなりエリカちゃんって呼んだの。なんで? なんでよ? 調べた? 怖い!」って、そりゃオマエの一人称がエリカだからだよ! 自分で名前ダダ漏らしてんだよ! と私は中腰になったものだった。五年ほど前のことだ。女の子は長い髪を一つにまとめていた。

 このエッセイ集、何気ない日常が書かれているようで、本当に「何気ない日常しか書かれていない」のです。
 これは凄いことで、いわゆる「面白いエッセイ」を書く人も、ときどき、サザンオールスターズのアルバムの中のバラード曲のような「泣かせる」「ちょっと感動的な」回があることがほとんどです。

 「お気楽なだけじゃないんだよ」って、言いたくなることもありますよね、そりゃ。たまには、「感動しました!」って読者からの反応だって欲しくなるはず。
 ところが、北大路さんは、徹頭徹尾「バカバカしいこと」を書き続けているのです。

 巻末のインタビューで、北大路さんは、こんな話をされています。

 最初に日記を書き始めたときからずっと、自分でもものすごくバカみたいなことを書いていると思ってまして。でも、最初はバカバカしいことを書いてた人も、段々バカバカしくなくなってくることがあるでしょ……人生について語り始めたり。その気持ちもよくわかるんですけど、自分は「この人はいついかなるときもバカバカしいことを書いている」と思われたいと思ってます。積極的に思うことはそれぐらいかな……(さらに小声で)。

 世の中の人は皆、いろいろなことがあると思うのよ。悲しかったり嬉しかったり、挫折したり転機があったり。でも、ふと思い出したときに私の書いてるものを読んで、相変わらずバカバカしいことを書いてると思ったら、少しは安心してもらえるんじゃないかと。だから変わらずバカバカしいことを書いていこうを思います。あとは何も考えていません。

 これを貫くって、本当にすごいことだと思うんですよね。
 読んでいると、「ほんと、くっだらないなこれ!」って、妙に清々しい気分になるのです。

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