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【赤木智弘の眼光紙背】子供たちは何を取り上げられたのか

 SMAPの中居正広が宮城県石巻市の避難所に慰問に訪れた際に配ったゲーム機などが「避難所以外の子供に配られた」という苦情があったとして、石巻市は避難所外の子供たちからゲームを回収したという。(*1)


 このニュースを聞いて、「公権力の行使」という重大なことに対して、まったく歯止めがかかっていないことに、まずは驚いた。

 考えてもみて欲しい、これを一般の人が「あいつは避難所にいる子供じゃないから、あいつがもらったゲーム機を取り上げてもいい」と考えて子供たちからゲーム機を取り上げれば、それは脅迫か窃盗である。誌面が空いていれば、地元の新聞に犯罪者として実名が載るだろう。それが役所の人間だからと、何の処分もされないままに許されようとしている。

 市民からのクレーム1本で公権力が暴走したという事件の重大さに比して、役所側はあまりにのほほんと構えているように、私には思える。


 クレームの原因は、記事を見るに、中居君からのプレゼントにあった「ニンテンドー3DS」の多くを、ボランティアとして慰問に来ていた同市のバレエ教室の子供たちが受け取ってしまい、その避難所の子供があまり受け取れなかったということらしい。

 中居君が避難所に訪れ、ゲーム機などを配った理由は、避難所にいる被災者の子供たちにそれで遊んでもらいたかったからだろう。この場合の「避難所」はあくまでも「被災者の子供」に出会うための窓口でしかない。だからそこにいた避難所外のバレエ教室の子供たちにもゲーム機を配った。その子たちもまた被災者であり、そのことにはなにも問題はないはずだ。

 しかし、一部の大人は「そのゲーム機はこの避難所に配られたものだから、この避難所以外の子供が受け取るのはおかしい」と考え、役所にクレームを入れた。そしてそのクレームを飲んだ市職員が公権力を振りかざし、子供からゲーム機を取り上げるという事態になってしまった。

 確かに「きちんと分けなかった」ということ自体に問題は含まれるのかも知れないが、問題のベースは線引きがあまりに杓子定規過ぎていることだろう。被災者の中には、被災しながら自宅や、無事だった倉庫などといった、避難所以外で生活している人も少なくないということを忘れるべきではない。


 また、記事中の「ボランティアで訪れた子供が高価なプレゼントをもらうのはおかしい」という論理にも引っかかるものがある。

 ここからは仮定の話になるが、もしバレエ教室の子供たちが、たとえば関西地方からやってきた被災者でない子供たちだったとして、子供たちはプレゼントを受け取るべきではなかったのだろうか?

 私はそれでも子供たちにはプレゼントを受け取る権利があったと思う。


 震災が発生した当初、ネット上では「ボランティアに行くのはいいが、被災地で配られる食べ物などを消費してはならない。なぜならそれは被災者のための物資だからだ」といった書き込みが盛んにされていた。

 それは確かにボランティアに向う人たちに対する、必要な戒めであったと言えよう。しかしそれは決して「絶対」ではない。不変の真理でもないし、道徳でもない。それは「ボランティアがよりよく被災者の役に立つための心構え」でしかないと、私は考えている。

 今回、バレエ教室の子供たちは、バレエの披露というボランティアを行なった。子供たちが被災者でなかったとしても、テレビで津波の様子や地震の被害が幾度となく放送されるのを見て、また放射線の被害に脅える大人たちの様子を見て、子供たちにもさまざまなストレスが溜まっているだろう。

 そうした子供たちが「被災者」と「そうでない人」という区分けの中で、被災者がゲーム機などを受け取っている状況を見て「自分たちは被災者じゃないからもらわなくて当然」と考えるのが当たり前であるべきなのだろうか?

 子供たちが色々な苦悩を抱える中で、ボランティアでバレエを披露する。そしてそこにたまたま来ていた中居君から、ゲーム機をもらう。それは本当に批判され、ゲーム機を没収されなければならないような行為なのだろうか?


 私はそうだとは思わない。

 以前にも書いた(*2)が、今回の震災で傷ついている人は、直接的な被災者だけではない。

 日本にかかわる多くの人たちが、間接的にも傷ついている。

 そうした子供たちが、ボランティアという行為を通して、多くの人と直接的に触れ合う。そして感謝されたりする。子供たちのボランティアは、被災者の慰問だけではなく、そうした経験という意味合いを含む。そして、そうした当たり前の交流から自身のストレスを解消し、人間として成長して行く。それはボランティアのみならず、被災した子供たちも含めた、すべての子供にとって必要な成長のステップであろう。

 特にテレビで見る中居君とのコミュニケーションは子供たちにとって、強烈で幸福な思い出になったはずである。しかしそれも市職員の暴走によって、「その後にゲーム機を取り上げられた」という子供たちの失意や怒りや戸惑いという気持ちとセットになってしまった。


 今回、役所の人たちが奪いっとったのは、2万5千円相当のニンテンドー3DSなどというモノではない。

 「被災者とボランティア」や「避難所の子供か否か」や「ゲーム機の金銭的価値」という杓子定規な判断基準を軽やかに飛び越えるための、信頼という羽根である。

 その羽根を失った子は「あの子はこの避難所にいないのに、避難所のモノを持っていってズルイ」という、大人びた考え方に突き進んでしまう。

 大人の行為は子供の手本なのだ。大人が杓子定規な規定で、誰かからモノを奪い取ることを善しとするのであれば、子供は大人になろうとして、それを真似する。そうした子供たちは、他者に対する寛容さを失って行く。

 役所の人たちが子供に返さなければならないのは、3DSなどというモノではない。彼らが持っていたはずの羽根なのだ。

*1:中居正広の善意の贈り物、石巻市が回収…避難所以外の子供の手に渡り父母から抗議(スポーツ報知)http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20110628-00000019-sph-soci
*2:【赤木智弘の眼光紙背】見ている方だって苦しいんだ(BLOGOS)http://news.livedoor.com/article/detail/5438927/

■プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「若者を見殺しにする国 (朝日文庫)」など。

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