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家族ぐるみの“共謀”明るみに、ロシア・ゲートが新段階 - 佐々木伸 (星槎大学客員教授)

 トランプ政権のロシア・ゲートはトランプ大統領の長男ジュニア氏が大統領選挙中の昨年6月、ロシア関係者からクリントン元国務長官に不利な情報提供を持ちかけられて積極的に応じたことを明らかにしたメールを公表し、家族ぐるみでロシア側と“共謀”しようとしていた事実が初めて暴露された。「反逆」という物騒な批判が出るなど、事件は新たな段階に入った。

追い込まれたジュニア

 今回も事態はめまぐるしく展開した。ジュニア氏を追い込んだのは米紙ニューヨーク・タイムズだ。同紙はジュニア氏が昨年6月9日、ニューヨークの選対本部があったトランプ・タワーで、ロシア人弁護士ナタリヤ・ベセルニスカヤ氏と会談した事実をつかみ、それに先だって同氏と弁護士との会談を仲介した男性とのやり取りのメール内容を入手した。

 同紙がジュニア氏に取材を申し込んだところ、ジュニア氏は当初、弁護士とはロシア人の養子問題で話をしただけ、と言い逃れようとした。しかし、同紙の報道とメールのコピーを元にした追及に、回答を二転三転させ、最終的に対立候補である民主党のクリントン氏に不利な情報を提供する、と事前に持ち掛けられていたことを認め、遂には7月11日にメールの公表に追い込まれた。

 メールで仲介者が提案したのは、「驚くべき内容」(米紙)だった。「ロシア検事総長がクリントン氏に打撃を与える公文書や情報を提供する用意がある」「非常に高度な機密情報で、ロシア政府によるトランプ氏支援の一環」「ロシア政府の弁護士がモスクワから向かうので面会を設定してほしい」。

 これに対してジュニア氏は「素晴らしい。もし本当なら今夏の後半だと、とりわけ好ましい」と返信し、会談には義弟のジャレッド・クシュナー氏(現大統領上級顧問)と選対本部長のポール・マナフォート氏の2人も同席するだろう、と伝えた。

 このメールやり取りから明確になったのは、トランプ陣営が敵性国家のロシア政府からの支援の一環であることを認識しながら、積極的に協力を受け、前向きに“結託”しようとしていたことだ。通常なら警戒しなければならないのに、「素晴らしい」と前のめりになった上、選挙に有利に働くよう、「夏の後半」とわざわざ持ち掛けてもいる。ロシアとの“結託”についてはこれまで、トランプ陣営の幹部が東欧でロシア当局者と会談したことなどが伝えられていたが、これほど明確にはなっていなかった。

 ロシア人弁護士からは、クリントン氏に不利になるような情報はもたらされなかったとされているが、ジュニア氏は「敵」に関する情報と言われれば、聞く必要があったとし、公開したのは「完全な透明性を確保するため」だったと苦しい弁明に終始している。

 トランプ氏は7月12日、この会談については数日前に聞かされるまで知らなかったとし、「息子は潔白であり、政治史上、最大の魔女狩りだ」などと持論のメディア批判を展開した。また7日の米ロ首脳会談に言及し、プーチン大統領に「(選挙干渉を)あなたがやったのか」と問い質したが、絶対にやっていないとの返答を得た、と説明。あくまでもロシアの干渉は事実無根と主張した。

 トランプ氏はこれまで大統領選挙でのロシアとの結託や共謀の疑惑について、「ねつ造」「でっち上げ」などと非難、ジュニア氏も「むかつくでっち上げ」と否定していた。しかし実際には、家族ぐるみで進んでロシア側と接触していたことがメールのやり取りから判明したわけで、トランプ氏の弁明は事実隠しの疑いが濃厚だ。

反逆との声も

 米国のアナリストらは特に、ジュニア氏とロシア人弁護士との会談に、ホワイトハウスの陰の実力者にのし上がったクシュナー上級顧問が同席していたことを重視している。同顧問は駐米ロシア大使との別の会談にも同席していたことが分かっており、今後、ロシア・ゲートの捜査を指揮するモラー特別検察官の聴取を受けるのは確実だろう。

 今回のジュニア氏のメール問題に対し、民主党や一部の共和党員からも相次いで批判の声が上がっている。民主党の副大統領候補として、クリントン氏と昨年の選挙を戦ったケイン上院議員は「捜査対象は今や司法妨害を超えたものになっている。偽証や虚偽の発言、そして反逆の可能性も浮上してきた」と厳しい姿勢を見せた。

 ロシア・ゲートのこれまでの捜査の中心はトランプ大統領が解任した米連邦捜査局(FBI)のコミー元長官に対し、捜査に手心を加えるよう圧力を加えたという「司法妨害」容疑だった。しかしジュニア氏のメール問題で、「外国からの選挙支援を禁じた」法律に抵触する疑いが浮上、「敵に援助及び便宜を与え、これに加担する行為」という憲法に定める「反逆罪」も取り沙汰される事態に変わってきたといえる。

 共和党が懸念しているのは、このメール問題が最後の新事実ではないのではないか、ということだ。つまり、ロシア・ゲートの疑惑を裏付けるような証拠がまだまだ暴露される可能性が高いということだろう。

 トランプ大統領は今月のドイツで開催されたG20首脳会議に出席した際、プーチン氏から選挙に干渉していない、という言質を取ることで、政権を覆うロシア・ゲートの暗雲を取り払いたかったはずだ。だが、現実は、欧州からの帰国途上のエアフォース・ワン(大統領専用機)の機内で、ジュニア氏の弁明声明の立案に悩まされるという結果になった。

 大統領のイライラは募り、側近らを罵倒することも多くなったという。米メディアによると、大統領の法律顧問団とクシュナー顧問とのあつれきも激化している。政権を覆うこの危機の中で、ペンス副大統領はロシア・ゲートから距離を置こうとしている。副大統領報道官はペンス氏が大統領の政策遂行に引き続き取り組んでいるとし、副大統領候補になる前の話は重視していない、との声明を発表した。同氏が副大統領候補になったのはジュニア氏のロシア人弁護士との会談から1カ月後のことだった。ロシア・ゲートの火の粉をかぶりたくないという思惑が見え隠れしているようだ。

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