記事

弱気漏らした文在寅大統領、G20から帰国し「韓国には力ない」 - 澤田克己 (毎日新聞記者、前ソウル支局長)

 ドイツでの主要20カ国・地域(G20)首脳会議から帰国した韓国の文在寅大統領が7月11日の閣議で弱気な発言をした。北朝鮮の核問題と関連して「私たちが肝に銘じるべきなのは、私たちが最も切迫した状況にある朝鮮半島の問題であっても、現実的には私たちに解決する力はなく、私たちに合意を引き出す力もないという事実だ」と述べたのだ。

 6月末の米韓首脳会談で「当事者である韓国の主導的役割が認められた」と語っていた高揚感とのギャップが大きいだけに、目につく発言だった。

 「韓国の主導的役割」へのこだわりは前回のコラムに書いたので詳しくはそちらを参照していただきたいが、これ自体は歴史的な背景を考えれば理解できる感情だ。こうした気持ちは、文大統領の支持基盤である韓国の進歩派(革新)に広く共有されている。

 ただし、現実はそれほど簡単ではない。北朝鮮が核実験を繰り返し、大陸間弾道ミサイル(ICBM)の発射実験成功を誇示するようになっているからではない。北朝鮮はそもそも、米国を核問題の交渉相手として見ているのであって、韓国のことを相手にしてこなかった。国際社会の対応にしても米国が中心にならざるをえないのである。

北朝鮮問題を巡る日米と中露の溝を埋められず

 文大統領の発言は「北朝鮮の核とミサイルに対する韓国政府の立場について全ての国から支持を受け、もともとG20の議題ではなかったのに北朝鮮核問題を取り上げて国際的な共感を取り付けたことは成果だった。韓米日による初の首脳会談で北朝鮮の核・ミサイルに対する共同対応を協議したことも成果だ」と述べたうえでのものだった。

 文大統領はドイツで、日韓、日米韓、中韓、韓露などさまざまな首脳会談をこなした。ICBM発射成功を誇示する北朝鮮に対する当面の圧力強化と将来的な対話の必要性を国際社会に訴え、日米とは当面の圧力強化で連携していくことを確認した。東西ドイツ統一の象徴的な地であるベルリンで行った演説では、北朝鮮との対話への意欲も見せた。

 冷戦終結とともに分断を克服したドイツは、韓国にとって特別な思い入れのある国だ。金大中、朴槿恵の両氏も大統領としての演説で大規模支援や交流拡大を北朝鮮に呼びかけた。南北統一へ向けた長期的ビジョンを打ち出す演説だから、対話への意欲が前面に出るのは自然なことだ。

 トランプ政権にしても「最大限の圧力と関与」というのが対北朝鮮政策であり、関与というのは「対話」を意味する。マティス米国防長官らの発言を見る限り、軍事攻撃を現実的な選択肢だと考えている節はない。ただ、それでも北朝鮮が挑発的行動を繰り返す現状を考えると、今は圧力を強化すべき時だ。文大統領もそうした現実的な判断をしたことになる。

 一方で、中露両国は依然として圧力路線に消極的だ。この溝をなんとか縮めないと事態を前に進められない。文大統領にはそうした思いが強くあったのだろうが、結局、韓国が「主導的役割」を果たして国際社会をまとめるという展開にはならなかった。当然のこととして予測できたようにも思うのだが、文大統領としては不本意だったのだろう。

保守派メディアは、現実的外交につながると期待

 翌日の保守系紙「東亜日報」社説は、韓国の主導的役割を強調してきた文大統領による「国際政治の場に韓国の居場所はなかった」という悲観論とも聞こえる告白であり、「小さくない認識の変化だ」と指摘した。同じく保守系の「朝鮮日報」社説は「国民の大部分はかなり前から持っていた認識だ」と皮肉を利かせながら、「冷静で正確な現実認識だ」と書いた。

 朝鮮日報はさらに、北朝鮮によるICBM発射後に断固たる姿勢を文大統領が見せたことや日米韓首脳会談で「日米韓の安保協力」に初めて合意したことを肯定的に評価した。一方で、文大統領が側近として仕えた盧武鉉元大統領が打ち出した「バランサー論(米中の間で仲介者になるという主張)」を「幻想に近い考え」と切り捨て、文大統領をけん制した。

 バランサー論は、韓国の自主外交を志向するという意味で「主導的役割論」に通じる。どちらも、民族主義的な色の濃い韓国の進歩派には受けのいい考え方なのだが、バランサー論はかつて米韓関係を極度に悪化させる一因になった。だから保守派には強い警戒感を持たれるのである。

 実際には、文在寅政権の外交安保ブレーンは大統領選中から、日米両国との良好な関係を維持する必要性を強調していた。盧政権の時に日米との関係を悪化させたことへの反省を語りつつ、対日関係については慰安婦問題で全てを止めた朴槿恵政権前半期を強く批判しながらである。

 だから、米国との懸案である終末高高度防衛(THAAD)ミサイルの在韓米軍への配備問題では、文大統領は訪米中に配備を進める考えを明確に表明した。訪米前には、国内支持層からの突き上げや中国からの圧力を受けて揺れていると取られかねない姿勢を見せて心配されたが、なんとか踏みとどまった印象だ。

 日本との関係についても慰安婦合意の「再交渉」という公約は封印している。日本側から気になる点を指摘すればきりがないのだが、現在も「再交渉とは言わない」という線は守ろうとしているようだ。今後も、慰安婦問題で日本を刺激する動きは出てきそうだが、少なくとも一足飛びに「再交渉」と言い出すことはないだろう。

 それでも本当に現実路線を守っていけるのだろうかという疑念は残る。だからこそ、初の訪欧で文大統領が「限界」を認識したのならば、その意味は大きい。自らの限界を認識することは現実的な外交路線につながると期待できるからだ。

「力が足りない国は知恵を持たねば」

 朝鮮日報の社説には「力が足りない国は、情勢がどのように動いていくのか注視しなければならず、なによりも知恵を持たねばならない」と説く一節がある。それが歴史的現実なのだが、前回のコラムでも指摘した通り、その現実が「韓国の主導的役割」への渇望を生んだ背景でもある。

 ただ、外交的な影響力に限界があるというのは韓国に限った話ではない。北朝鮮の核問題では、日本の役割も極めて限定的である。冷徹な自己認識は日本にも求められているものだ。

あわせて読みたい

「文在寅」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    野田聖子氏の文春砲を扱わないTV

    小林よしのり

  2. 2

    北におびえ足並み乱す韓国大統領

    NEXT MEDIA "Japan In-depth"

  3. 3

    iPhone iOS更新で使える11の裏技

    ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)

  4. 4

    「米は北攻撃できない」は本当か

    自由人

  5. 5

    松本人志マッチョ化は典型的変節

    文春オンライン

  6. 6

    女性用下着店にいる男性に賛否

    キャリコネニュース

  7. 7

    中国国境に接する北は崩壊しない

    Chikirin

  8. 8

    「脱デフレは幻想」イオンが証明

    近藤駿介

  9. 9

    正恩氏声明でトランプ氏へ怨み節

    高英起

  10. 10

    北朝鮮「米本土到達は不可避」

    ロイター

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。