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【赤木智弘の眼光紙背】ニセ節電には騙されないぞ

 最近はどうしても話題が東日本大震災関連の話ばかりになってしまう。今回もその手の話題。次回からはできるだけ震災以外の事を書きたいと思ってはいるが、いい題材が見つかればいいのだけれど。

 さて、本題。
 震災で福島第一原発をはじめ、多くの発電所がダメージを受け、そのために電力供給能力が大幅に低下し、輪番停電の実施を余儀なくされている。
 私は、いまのところは停電計画のない都内なので、節電はしつつも人ごとのように眺めてはいるが、夏になればこの辺りも停電を余儀なくされるだろう。暑いのは苦手だし、ノートパソコンからネットに繋げないのは少々辛いけれども、今から準備と心構えをして、うまくやり過ごすつもりだ。
 そうした節電が求められる社会状況で、私が気になっているのは、ちょっと前に盛んに議論になり、いつの間にかうやむやになったはずの「コンビニの深夜営業の自粛」という話が、また噴出し始めたことだ。

 最初に言い出したのは、やはりというかなんというか、我らが東京都知事石原慎太郎が、蓮舫節電啓発担当相と面会したときに、コンビニの深夜営業を制限するよう求めたそうだ。(*1)
 そして最近だと、舛添要一が「真夜中の12時に多くのコンビニが開いている必要が本当にあるのか。病院などにこそ、深夜の電力を確保すべきではないか」と述べている。(*2)

 彼らの間違いは明白である。
 電気というのは基本的には「その時その時で発電し、消費する」ものであり溜める事ができない。つまり、夜中に節約した電気を、夕方のピーク時に回すことはできない。
 かつての「オイルショック」であれば、燃料の節約に大きな意味があったのかも知れないが、今、東日本が抱えている電力問題は燃料不足ではなく、電力利用がピークになったときに、十分な電力供給ができないという問題である。必要なのは、夕方のピーク時の節電であって、コンビニが深夜に消費する電力は、今の問題とはまったく関係がないのである。
 そんなことも理解できず、彼らは「節電するならコンビニの深夜営業を止めろ」と言っている。彼らに危機管理能力や状況の理解力がないのは明らかといえよう。

 しかし、私は「電力問題への正しい理解」だけでは、石原や舛添に対する反論には十分でないと考えている。なぜなら彼らがコンビニの深夜営業を自粛させようとする目的は節電ではなく、「コンビニの深夜営業を必要とするような生活様式に対する批判」だと考えられるからである。
 石原は過去にもコンビニの深夜営業に対し、こう述べている

「まあね、一晩中開いているからコンビニエンスなんだろうね。便利だからコンビニエンスストアと言うんでしょうけども。しかし、果たして本当にそういう需要があるのかどうか。しかも、それが、ある意味で風俗の乱れの引き金になったり、場合によったら犯罪の一つの要因になったりする。そういうことを鑑みても、私は、一晩中開いているストアが都民にとってコンビニエントだと思わないね。」(*3)

 この発言がされたころは、京都や埼玉、そして神奈川で、二酸化炭素排出削減のために、コンビニエンスストアやスーパーマーケットに、深夜営業の自粛を要請するかしないかという話が盛り上がっていた。(*4)
 しかし、大半が原子力発電で賄われる深夜電力を削減したところで、大幅な二酸化炭素排出削減には繋がらず、また冷蔵庫や冷凍庫の電源を切ることもできないのだから大きな省エネには繋がらない。
 このあたりの話については、私も過去に触れ、彼らの目的が二酸化炭素排出削減ではなく、夜型のライフスタイルの排除であると論じた。(*5)

 これと同じことを、震災に乗じて、また性懲りもなくやっているのだ。
 結局彼らは「人は朝起きて働き、夜は寝るべきだ」という道徳を押し付けたくてしかたがないのである。そのためには節電といいながら、節電の意味を無視することも厭わないのである。
 そうした構図を、私は別のところで見たことがある。「ニセ科学」である。
 ニセ科学とは「水にありがとうというとキレイな結晶ができ、バカ野郎と言うと結晶ができない」「テレビゲームをすると痴呆と同じ脳波になる」などの、科学的根拠が極めて曖昧であるにもかかわらず、一見科学的に見えてしまう主張の事である。
 物理学者の菊池誠は、NHKの「視点・論点 まん延するニセ科学」でこう述べている。

「(ニセ科学は)道徳の根拠を自然科学に求めようとしています。それは科学に対して多くを求め過ぎです。」(*6)

 ニセ科学が「ありがとうというキレイな言葉を使う」ことや「テレビゲームをしすぎない」といった、道徳やしつけの根拠を自然科学に求めようとするように、コンビニ深夜営業の自粛という「ニセ節電」もまた、「人は朝起きて働き、夜は寝るべき」という道徳観の根拠を、電力問題に求めているに過ぎない。
 そのようなニセ節電を推し進めたところで、現在の電力問題は解決しない。逆に深夜の行動が制限されれば、 その分だけ昼間の電力消費量が増える。そうなれば当然、ピーク時の電力需要は増えてしまう。
 今の電力問題を解決するためには、むしろ深夜にこそ電力を使い、昼から夕方にかけて電力を使わない生活を心がけるべきなのである。そうして、一日の消費電力をフラットに均していく必要がある。
 例えば、テレビで「ゴールデンタイム」と言われる、午後7時から9時の放送を休止し、放送全体を深夜に時間をずらせばどうだろうか。
 また、パチンコ店の営業時間を夜の9時から翌日12時ぐらいまでにするのはどうだろうか。
 幸い、電力不足が本格化する夏までには、まだ時間がある。
 それまでに、ピーク時電力の節電と、省エネを混同した妄言を排し、私たちの生活時間をずらして行くことが、電力の足りない夏を乗り切るために、必要な準備であるといえよう。


*1:石原都知事、コンビニ深夜営業制限要求(nikkansports.com)http://www.nikkansports.com/general/news/f-gn-tp0-20110314-748354.html
*2:電力の需給と生活様式の見直し(BLOGOS)http://news.livedoor.com/article/detail/5444368/
*3:石原知事記者会見(平成20年6月20日)(東京都)http://www.metro.tokyo.jp/GOVERNOR/KAIKEN/TEXT/2008/080620.htm
*4:コンビニ深夜営業「自粛」要請 「防犯拠点にもなる」と業界大反発(J-CASTニュース)http://www.j-cast.com/2008/06/18021999.html
*5:【赤木智弘の眼光紙背】深夜営業の自粛を求める人たちの目的は、CO2削減などではない(BLOGOS)http://news.livedoor.com/article/detail/3695999/
*6:視点・論点「まん延するニセ科学」(うしとみ!)http://d.hatena.ne.jp/f_iryo1/20061221/shiten

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