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【佐藤優の眼光紙背】菅直人首相は官邸から動いてはならない

 自衛官、警察官、消防士、東京電力と関連会社の原子力専門家による文字通り生命を賭けた放水活動により、事態が改善し始めている。しかし、危機を脱したわけではない。この一両日が極めて重要だ。朝日新聞の竹内敬二編集委員が「福島第一原発の状況は、事態悪化をここで食い止めるか、放射性物質の大量放出に向かうかという剣が峰に立っている」(3月18日朝日新聞朝刊)と記しているが、この状況は放水に成功し、使用済み燃料の貯蔵プールに水が入った現在も基本的に変化していない。日本国家と日本人の存亡はここ数日間の菅直人首相の事態に対する認識、評価、そして決断にかかっている。日本国民1人1人がこの重要な瞬間に、自分でできることを考え、菅首相を支えることが重要だ。福島第一原発事故の対策本部に全国民が参加しているという認識を持ちたい。節電、食料やガソリンの買い溜めをしないことで菅首相を支え、当面の危機からわれわれ日本人の力を結集することで脱ようではないか。米国も国際原子力機関(IAEA)も誠実に日本を支援している。しかし、外国や国際機関の人々が、自らの命を捨ててまで日本を守ることはしない。この現実を冷徹に認識することだ。

 この危機を脱出するために、生命を日本国家と日本人同胞のために差し出さなくてはならない人がでてくる。私は日本人の力を信じる。

 明治天皇は御製(和歌)で、

「しきしまの 大和心の をゝしさは ことある時ぞ あらはれにける」

と詠まれた。

「日本人の魂にある勇気は、日本国家に一大事が来たときに発揮される」という意味だ。ここに危機に直面したときの日本人の特徴が現れている。福島第一原発の危機のために命を差し出する人を公募すれば、多くの日本人が馳せ参じる。ただし、この任務には専門知識が必要とされる。東京電力と関連会社の専門家、大学や研究機関の専門家 無限責任を負う公務員である自衛官、警察官、消防士たちが、専門家的知見と日本人としての良心によって行う選択に委ねるのが最善の策だ。

 ここで重要なのは、対策本部長である菅直人首相が首相官邸から動かないことである。複数の新聞記者から、「菅首相がもう一度、福島第一原発の現場を視察することを考えている。いちどあきらめたが、また行こうという気持ちを漏らし始めている」という情報が入ってきた。これは戦争である。「大将は動いてはならない」という危機管理の大原則に忠実に従って欲しい。現場の細かい事項について、大将が自ら知ろうとしてはならない。部下を信頼して、職務を委ねる勇気を持って欲しい。

 対策本部もきちんとラインを立て直すことだ。難しいことではない。副本部長の海江田万里経産相も、どっしり席に座り、きちんと部下を通じて、そこから指示を出し、情報を入手する態勢に切り替える。海江田氏が自ら書類を持って走り回る必要はない。

 本部の中で、細野豪志首相補佐官はきちんと機能しているのだろうか? 官僚たちを統括し、専門家の力を最大限に活用しなくてはならない。原子力発電の国際的権威で、福島第一原発の設計に関与した専門家を呼びつけておいて、本部で一日待たせ、何の話も聞かずに帰すような事態はよくない。にわかごしらえの本部では、人を多くかき集めても、仕事の輪に入ることができる人はごくわずかで、何もしない人がただテレビのNHKニュースを見ているだけという状態になりやすい。それを是正して、専門家の情報を適切に集約し、海江田副本部長、菅本部長に提供する仕事が細野氏に期待されているのだと思う。

 本部にいる空本誠喜衆議院議員にも重要な役割が期待されている。空本氏は、早稲田大学理工学部、東京大学大学院工学研究科博士課程を修了した工学博士である。1994年には応用物理学会から放射線賞奨励賞を受賞している。空本氏に必要とされているのは、専門家の情報を入手し、それを細野氏、海江田氏、菅氏に理解できる言語に転換し、報告することだ。本部に呼んだ専門家に弁当を届けるような仕事を空本氏自身が行ってはならない。きちんとスタッフを使うことだ。

 空本氏にお願いがある。現在のオペレーションは、福島第一原発に送電がなされた場合、緊急炉心冷却システムが稼働し、高圧注水による冷却が始まるという前提でなされている。現場の専門家は大丈夫だという自信をもっているのだろう。しかし、技術がわかる政治家は別の思考をしなくてはならない。送電が再開してもシステムが稼働しない場合の代替策の研究だ。いま現場の専門家が行っているオペレーションと完全に切り離し、専門家のプライドを傷つけず、現場のオペレーションのラインを崩さずに、セカンドオプションを準備しておくことだ。(2011年3月19日脱稿)

■プロフィール
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「3.11 クライシス!」など。

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