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「私の強みはコミュニケーション能力」という挑戦状 - 増沢隆太(人事コンサルタント)

大学のコミュニケーション講座でプレゼンとエントリーシート(ES)の添削をしました。一気に大人数の評価をしたのでまる1週間では足らず10日かかりましたが、何とか全評価を終えました。初めて志望動機や自己アピールを書いたという学生がほとんどにしては、実はとてもしっかりまとめられていてビックリです。ただし「しっかりまとまっている」というのは、実は誉め言葉ではありません。何のために自己紹介するのか、何のためのESなのかという目的意識を勘違いしていることが非常に多いからです。

■正直すぎる「志望動機」

自分が(その会社の製品やサービスを)好きだからという志望動機を書く人がいます。しかし「好き」は本当かも知れませんが、会社員になるのであれば、何でも本当のことをいいさえばすれば良いといものではありません。

ウソをつけという意味では全くなく、相手への思いやりや礼儀を持つべきということです。おみやげを渡す時に「すごい高いので、あなたにあげるのもったいない」という人はいません。「つまらないものですが、お納めいただければうれしいです」というのが常識ある社会人でしょう。

ゲームが好きだからゲーム会社を志望するとか、鉄道マニアなので鉄道会社を志望する、「その会社の製品やサービスが好き」を志望理由にする学生は非常にたくさんいます。しかし会社は自分が好きなことややりたいことだけをさせる場所ではありません。ゲーム会社の仕事は好きなゲームをやることではなく、鉄道会社の仕事は大好きな列車に乗ることでもないからです。

むしろきちんと企業研究や業界研究、仕事研究がなされていれば、鉄道会社の経営環境下からすれば、多角化事業の一環でコンビニエンスストア事業部で働くことになったり、不動産部門に配属などいくらでもあり得ることです。「鉄道や電車が大好きなので」と志望動機を語る人は、好きな部門以外では働いてくれないのでは?と採用側が考えるのはきわめて自然です。正直すぎる志望動機が悪いというより、「採用」という企業の目的を考えずに自分の欲望中心で行動してしまうことに問題があると思います。

■「企画」より「実行」。作りました、売りましたが評価

学生一般に多く見られる勘違いに、「企画や研究が上」で、「営業や生産が下」というものがあります。企画職や研究職は上でも下でもなく、そのような間違った価値観は採用の壁を高くしてしまいます。そもそもごく一部の社員以外、新入社員が職務を選べることは普通ありません。

仕事理解も経験もないのにいきなり企画はまず無理です。私は企画職への一番の近道は営業だと信じていますが、仮に新卒でろくに営業もしたことが無く、現場や製造・調達プロセスも知らずに企画業務に就く方が、その重い責任を取りきれずにつぶれる心配があるのではないでしょうか。

「企画をした」はアピールどころか、事業や仕事の表面的な部分しか見ていないというイメージを与えかねません。企画することが悪い訳ではもちろんありませんが、企画をしたかどうかは就活におけるコミュニケーションの目的ではありませんから、そこにこだわることに問題があります。

ゆえに、せっかくサークルや課外活動で手や足を使って実作業をし、みんなで作ったものや足で売り歩いて稼いだ成果があるのに、「学生時代に打ち込んだこと(=ガクチカ)」を「〇〇を企画しました」と書いてしまうのは、もったいなさすぎるのです。社会で評価されるのは圧倒的に実務を行ったことであり、企画したことではありません。

まして学生時代にドブ板営業(販売)したり、汗水たらして作品を作り上げた経験は、机上でちょろっと考えただけのアイデアや、SNSで適当に募った説得力のないアンケート結果などより、どれだけ価値があり、説得力があることでしよう。

■「私の強みはコミュニケーション能力です」という挑戦状

コミュニケーション能力についても大きな誤解があります。スーパープレゼンみたいな発表力や、ディベートで論破することなど、普通の仕事では必要ありません。会社で求められるコミュニケーションが何であるかの理解がないと、そのアピールは逆効果です。

何千何万という面接練習や本番面接をやりましたが、中には自らコミュニケーション能力をアピールしてくる学生がいます。素人学生がプロの面接官にコミュニケーション能力をアピールするという判断のセンスがすでにかなり問題ですが、それでもチャンスをと思い、「じゃあこの場で私にあなたを売り込んでくれますか?」と聞くと、ほぼ全員フリーズします。

コミュニケーションが強みと言ってくる人のほとんどは、覚えてきた秀麗な自己アピールを述べるだけでした。残念ながら仕事で求められるのは、覚えたセリフを読みあげることではなく、相手を説得することです。「コミュニケーションに強み」とは、説得や契約という成果を出せることをもって高い能力と評価されるのであり、しゃべりが上手いことはまだ何の成果にも至っていない状態です。

プレゼン能力自体はもちろん悪いものではありません。それよりコミュニケーション=プレゼンとしか考えられない発想が、ビジネスセンスとして大いに問題です。「今からおもしろい話しますよ」と自らハードル上げてしまう人と同じセンスといえます。

コミュニケーション能力も企画力も仕事の上では絶対に欠かせないものです。しかしそれがどんなものであるかについては、自分や自分の周囲の価値観だけで決めるのではなく、仕事としての価値観を考えなければ、仕事に対するセンスが疑われます。新卒学生は実際の仕事の成果はないのですから、センスの良さや仕事への適性を訴えることが何より重要です。それは自らコミュニケーション能力をアピールしてしまうようなセンスの逆だと理解しましょう。

【参考記事】
■コミュニケーション能力と丸暗記
http://shachosan.rm-london.com/?eid=638064
■就活で傷つく若者たち
http://shachosan.rm-london.com/?eid=656497
■「普段着でお越し下さい」でわかる企業体質(増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/50693231-20170220.html
■内定辞退の作法(増沢隆太 人事コンサルタント)
http://sharescafe.net/46036751-20150826.html
■「石の上にも三年」の真の意味(増沢隆太 人事コンサルタント))
http://sharescafe.net/47148491-20151209.html

増沢隆太 人事コンサルタント

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