最近、iPhoneを購入した。
以前使っていたスマートフォンは、テザリングができたので、移動が激しいときにノートパソコンでネット利用をしたいときには役に立っていたが、都外への移動が少なくなり、家電量販店が行っている380円で公衆無線LANが使えるプランを利用するようになると、テサリングの必要性はほとんどなくなり、最近ではメールチェックとTwitter利用しかしないようになっていた。
画面の解像度が低く、スクロールもしにくいために左右に広告やナビゲートリンクが乗る最近のBlogなどは非常に読みにくく、Twitterで面白そうなサイトが話題になっていても、すぐにチェックすることができなかった。
2年以上前の機種であり、新しいiPhoneと単純に比較してはいけないのだが、そうした不満がなくなり、これまで以上に屋外でのネット利用が快適になった。
別に「iPhoneを買って楽しいな」という話が本題なわけではない。
iPhoneを楽しむためにはアプリケーションが必要不可欠であり、私もさまざまなアプリをダウンロードして試していた。その中に「食べログ」(*1)というサイトの専用アプリがあった。
「食べログ」とは、飲食店に対するユーザーのクチコミを集めたサイトであり、その種のサイトの中では最大手と言っても過言ではないだろう。私も、おいしそうなラーメン屋などを探すときに、よく利用している。
なので必須のアプリと考えて、これをダウンロードしたのだが、なぜかこのアプリのappstoreでのユーザー評価が異常に低く、5点満点の平均が1点という散々たる状況であった。
理由を調べてみると、どうもアップデートに問題があり、ユーザーの不満が爆発しているらしい。
マイコミジャーナルの記事(*2)によると、最近まで無料で利用できた食べログの専用アプリが、一部の機能を「有料化」して、バージョンアップした。
有料化で利用できる機能の多くは、これまでのアプリにはない機能であったが、1つだけ「旧バージョンでは無料で利用できた機能が、有料でしか利用できなくなった」ことが、「アップデートしたら機能が使えなくなった、騙された!」として、ユーザーの反発を招いている。
その、たった1つの機能が「検索結果の点数順での並び替え」という機能である。
「検索した結果を点数順に表示して、上から順に自分の好みに合うお店を調べる」と言う利用法は、ユーザーがお店に点数を付け、クチコミで投稿するサイトにおいては、基本とも言える利用法である。
クチコミサイトの利用者が求めるものは、同じ利用者である別の人が、その店を利用してどのように感じたかという視点であり、その指標が「お店につける点数」なのだから、やはり点数順に並べるのが、当たり前の利用法になる。私自身も、そのように利用している。
マイコミの記事にある比較票を見ると、無料で使えたものが有料になったのは、たった1つの機能であり、ユーザーの反応は過剰であるかのように勘違いしがちだが、そのたった1つの機能は、クチコミサイトを使いこなす上で必須の機能であり、これを突然、有料化してしまったことに、ユーザーは強く反発しているのである。
また、有料化するにしても、iPhoneのアプリで標準的な「○○円で買い切り」ではなく、「月額315円」という、携帯サイトを意識した料金体系であることも、反発要因の1つである。
確かに、月額315円という金額は、いわゆる「携帯サイト」であれば、標準的な料金体系と言えよう。
しかし、そうした料金体系が成り立ったのは、インターネットとの親和性が低く、「i-mode」「EZWeb」「Yahoo!ケータイ」という、ケータイ専用のWeb環境の中にユーザーを囲い込むことのできる、いわゆる「ガラパゴス携帯」特有の事情と言えよう。
一方、iPhoneを始めとするスマートフォンは、インターネットとの親和性が高く、インターネットで取得できる内容の大半はスマートフォンでも閲覧することができる。食べログのような「ネット上の利用は無料」というサイトであれば、ブラウザを使って閲覧すればいいだけのことであり、わざわざ有料のアプリを使う理由はない。
では、ネット上で無料提供されているサイトのアプリを有料化することは不可能かといえば、決してそうではない。
例えば、著作権切れの文学を無料で読める「青空文庫」(*3)というプロジェクトがあるが、この青空文庫に収録されている本を読むためのiPhone用のリーダーは、400円程度の買い切りで売られている。
もちろん、ブラウザを通せば無料で読むことができるのだが、それでも有料アプリというものが成り立っている。
これらのアプリが提供するのは、文章を縦書きとして表示し、あたかも本を読んでいるかのようにしたり、しおりを挟んだり、ダウンロードした本を管理するような、青空文庫をより利用しやすくするための機能である。
つまり、青空文庫へのアクセシビリティを向上するために、ユーザーは有料アプリを導入するのであり、青空文庫のデータそのものに対して料金を支払っているわけではないのである。
今回の食べログの件についても、同じことがいえる。
確かにクチコミデータは毎日のように更新され、それは月額課金に見合うかのように誤解をしてしまう。
しかし、実際にユーザーがお金を払うとすれば、それは食べログに掲載される、ネットであれば無料で閲覧できる大量のクチコミデータそのものに対してではなく、クチコミデータを自分好みに利用するための仕組みに対してである。
そう考えると、食べログ専用アプリへの、ユーザーの爆発的な反発の意味が理解できる。
1つに、クチコミデータを自分好みに利用するための仕組みの、もっとも基本的な要素である「検索結果の点数順での並び替え」という機能を有料化しながら、その一方で有料化の根拠を、無料であるはずのクチコミデータの更新に求めた。こうした「どこに有料化の根拠を求めるか」という点に対する混乱が、ユーザー軽視であるかのように思われ反発を招いた。おおむねこのようなことではないだろうかと推測する。
ガラパゴス携帯で産まれた月額課金のような、データそのものを有料化の根拠にするような方法論は、既に多数のデータが無料で存在するインターネット上では、単純には成り立たない。ましてや、ネット上は無料として情報を集め、その分を携帯サイトで回収するようなやり方は、スマートフォン市場に対しては通用しない。
データそのものを売りたいのであれば、ネット上に転がるデータに負けないだけの、価値あるものに仕上げる必要があるだろうし、ネット上のデータをそのまま利用するのであれば、スマートフォンからのアクセシビリティを製品の売りにする必要があるだろう。
今後、スマートフォン市場はますます拡大することが予想されるが、その時に果たして囲い込まれた市場で利益を得ていた企業は、今後はどのように事業を展開していくのだろうか?
これまで行われてきた「ネットは無料、携帯は有料」という棲み分けは、スマートフォンが一般に浸透することにより、徐々に崩れてきている。
これからが「電子化されたデータやモノを、いかにマネタイズするか」という、事業の質が本質的に問われていく「ユビキタス社会と経済性を両立させる本番」であり、今回の食べログアプリの件は、ネットに関わるすべての事業者が他山の石とすべき事例であると、私は考えている。
*1:[食べログ] ランキングと口コミで探せるグルメサイト(食べログ)
http://tabelog.com/
*2:食べログがiPhoneアプリをリニューアル、クーポン情報などの表示が可能に(マイコミジャーナル)
http://journal.mycom.co.jp/news/2010/09/10/077/
*3:青空文庫 Aozora Bunko(青空文庫)
http://www.aozora.gr.jp/
■プロフィール:
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「
深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。著書に「
「当たり前」をひっぱたく」など。
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