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日本を取り巻く戦略的経済環境の現状 ―対米・対EU・対中・対韓― - 屋山太郎

 G20の国際会議は1999年に世界的規模で起きた金融危機を回避するために設けられた。ここ10年ほどは自由貿易と環境政策をみんなで育てる趣で進んできた。ところが今回のドイツで行われたG20は、米国が貿易ルールの定着を目指した環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)から脱退し、かつ、環境問題を好転させるためのパリ協定からも脱退して出席してきた。更に北朝鮮の大陸間弾道ミサイル(ICBM)への対策も加わって国際関係が複雑になった。

 トランプ大統領がTPPから脱退し、北米自由貿易協定(NAFTA)もやめると力んでいるのは自国の膨大な貿易赤字を減少させ、工場の外国移転で職を失ったラストベルトの人達を救う意図だった。取り敢えず世界景気を壊しつつある中国の鉄鋼の輸入制限をする構えも見せている。

 更に北朝鮮への対応についても「影響を行使しろ」と言いつつ、中国の出方を見守っているのだろう。生ぬるければ、取引銀行の封鎖など中国経済への打撃を強化するだろう。

 安倍首相はアメリカの型破りな国際協定破棄は衝撃だったはずだが、一転して欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉に取り組み一気に成功させた。

一方で米国抜きの11ヵ国でTPPを締結する意欲も見せている。安倍氏は貿易協定なしの経済活動はあり得ないから、トランプ氏の代が替われば米国はTPPに加入してくると見ているのだろう。そうなると世界GDPの4割、EPAも加えると更に3割の経済圏ができる。どちらのグループにも中国が入っていないところがミソである。資本主義とは異質で未熟な経済大国が加われば“公平な自由競争”が失われる。まず旧西側先進国のルールを確立したあとに、中国が入りたければ身を律して来るのが安倍構想だ。

中国には親近感を持ってきたメルケル首相は、6月のEUで「中国の組織的買収で最先端技術が流出、ドイツの自動車産業の優位性が失われつつある」との認識を示したという(シュピーゲル電子版)。

 対北朝鮮対策のために、今回、日米の結束が確認されたが、文在寅韓国大統領が先の日韓合意について「国民の大多数が合意を情緒的に受け入れられずにいる」と述べたのには驚いた。日韓合意は「最終的かつ不可逆的な解決」とし、国際的に公表する形で発表されたものである。これまでも国民感情が受け入れないというので、日本は正規の条約のほかに内輪で金を払ってきた。大統領が国際的約束を一度したら、国民は不満でもその約束に従うというのが普通の国家というものだ。

 韓国が約束を守れない根底には、韓国民(中国も同じ)が信ずる儒教に「公」の観念が全くないことがある。信用する単位は国家でも地域社会でもなく「家族」のみである。家族の一人が地位を得ると親、兄、弟に利益を与えるのが当たり前。際限のない汚職が発生するのも当然だ。

 安倍首相は今回習近平主席に「一帯一路」に協力する旨を述べたが、中、韓と付き合うに当たって福沢諭吉や大隈重信らが語った脱亜入欧の精神を思い起こすべきだ。

 (平成29年7月12日付静岡新聞『論壇』より転載)

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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生れ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、ローマ特派員、官邸クラブキャップ、ジュネーブ特派員、解説委員兼編集委員を歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。「教科書改善の会」(改正教育基本法に基づく教科書改善を進める有識者の会)代表世話人。 著書に『安倍外交で日本は強くなる』『安倍晋三興国論』(海竜社)、『私の喧嘩作法』(新潮社)、『官僚亡国論』(新潮社)、『なぜ中韓になめられるのか』(扶桑社)、『立ち直れるか日本の政治』(海竜社)、『JAL再生の嘘』・『日本人としてこれだけは学んでおきたい政治の授業』(PHP研究所)など多数。

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