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人口が増えることを前提とした現行の年金制度が変わらなければ移民はおろか、就職氷河期世代を支えることさえ困難な状況 - 「賢人論。」第41回城繁幸氏(中編)

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前編「労働市場が流動的ではないから、長時間の残業、地方への転勤、転職の不利など問題が生まれている。年功序列と終身雇用の廃止が必要」では「年功序列」「終身雇用」という日本の特殊な雇用制度が生む問題点を指摘した城繁幸氏。中編は、少子高齢化や年金制度へと話題が移る。高度経済成長期につくられた現行の年金制度は、非正規雇用や移民など、今後生じる新しい問題に対処しきれない――。これから日本が進むべき道筋を氏が指し示す。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/公家勇人

人口減少の中で制度を維持する仕組みがまだ日本には足りない

みんなの介護 城さんはご著書の中で、日本の年金制度についても言及なさっていました。

 厚生年金に関して知っておくべき話がひとつあります。厚生年金は現在、約19%で、そのうち半分は会社が負担してくれるということになっています。しかし会社側から見れば、事業主負担も実質的には本人負担だということです。

みんなの介護 厚生年金の企業負担分まで本人が負担している…?それはどういうことですか?

 例えば、Aさんが額面で50万円の給料をもらっているとしますよね。仮に厚生年金を20%とすると、納めるのは50万円×0.2で10万円。そのうち半分は“労使折半”によって企業が負担してくれるので、Aさんの負担は5万円で済む。その結果、45万円のお金が手元に残る、という建前になっています。

しかし、その解釈は本当は誤りなんです。なぜなら、企業はAさんに支払った給与の50万円に加え、厚生年金の企業負担分5万円も“Aさんに掛けた人件費”として勘定していますから。言い換えれば、企業はAさんの人件費から10万円を負担し、それに半分ずつ“本人負担”“企業負担”と名前を割り振っているだけなんです。

みんなの介護 Aさんは50万円の給与の中から厚生年金を5万円負担したのではなく、実は、本来もらえるはずだった“55万円”の給与から10万円を全額負担していた、ということですね。結果、45万円を受け取ることに変わりはありませんが、負担額が10万円と5万円ではだいぶ大きな差があります。

 そう。厚労省は「国民年金よりも厚生年金の方がお得ですよ」と発表していますが、実質本人が全額負担しているという前提に立てば、厚生年金の利回りは正味、国民年金の半分くらいしかないんです。

みんなの介護 公的な発表と言えども、そのまま鵜呑みにしてはいけない場合もあるんですね。

 また厚生年金といえば、最近は会社に雇用されるのではなく請負契約を結ぶ形で仕事をする人も徐々に増えています。そうすることで厚生年金を抜けられ、国民年金だけ支払えば良くなりますからね。厚生年金は給与の19%程度、しかし国民年金は16000円の定額ですから、負担が全然違います。

みんなの介護 節税ならぬ…。

 節・社会保険料(笑)。その代わり、個人で仕事を取って来られるレベルのものすごく仕事ができる人にしかできないことですけれどね。

みんなの介護 それくらい、厚生年金を納めるメリットが感じられなくなっているという現れなのでしょうか。

 現行の年金制度は高度経済成長期につくられたもので、人口が増えていくことを前提としたシステムなんです。現状として日本は人口が減少しているにも関わらず、それを成り立たせるための政策が上手く取られていませんね。

ヨーロッパを中心とした諸外国では、人口を維持するために血の滲むような努力をしています。フランスでは出生率を回復させるために子育てに関する社会保障を手厚くしましたし、ドイツや北欧諸国では積極的に移民を受け容れています。それでなんとか1.8以上の出生率を維持しているんです。

移民を受け容れる前に、それを支えるための社会保障制度が必要

みんなの介護 移民に関する議論なら日本でも盛んですよね。城さんは移民の受け容れに対して賛成ですか、反対ですか?

 反対はしませんがまだ賛成もできません。「留保」という感じですね。もし労働市場が流動的になって、バックボーンや年齢に関わらず公平にチャンスが与えられる雇用環境をつくることができれば、移民の受け容れはしてもいいと思います。しかし現状はそれに程遠いですね。

みんなの介護 それはなぜですか?

 例えば2000年前後に社会に出たいわゆる「氷河期世代」にしたって、未だに非正規雇用者の割合は多いです。あと10年ちょっとして彼らが労働市場からこぼれ落ち、社会保障になだれ込むと、そのコストがとんでもない額になるんじゃないかという話もあります。しかしそれに対する救済措置がとられているわけでもない。

移民たちはそれよりもさらにつらい状況に置かれると思うんです。その時に、ルーツが違うからとか、宗教が違うからとか、そういった理由付けで受け止められてしまうと後々禍根を残すことになる。ドイツでは移民を積極的に受け容れていると先ほどお話しましたが、そのドイツ人の学者さんでさえ「移民問題は解決できない」と言っています。移民が社会に馴染むのには相当時間がかかるようです。

みんなの介護 移民を受け容れることの一番の問題は何だとお考えですか?

 短期的に見る限りなら良いんですが、彼らが年を取り働けなくなったときサポートするための保障制度が必要になってきますよね。彼らも社会保障制度の中に取り込んでいかなければならないんだけど、日本人の非正規雇用だけでもカバーしきれていないのが現状です。

もっと言えば、次に生まれる移民2世は生まれも育ちも日本人なのですから、自分の親が与えられてきたのと同じ仕事や社会保障では満足しないでしょう。「自分たちも正社員を中心とした社会保障の枠に入れろ」と言ってきたとき、彼らに夢と希望のあるキャリアパスを示せる気がしないんですよ。日本人の氷河期世代にすらできてないんだから……だから移民の前に、まずは正規雇用と非正規雇用の格差だけでも是正した上で議論したほうが良いと思いますね。

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