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弁護士の「労働者」性というテーマ

弁護士の「労働者」性という、おそらく一般的には理解しにくい議論が弁護士会内にあります。理解しにくい、というのは、議論の内容そのものというより、なぜ、それが議論の対象になるのか、というところにあるように思います。

 こうした問題が、これまでも弁護士側で議論される場合のキーワードは常に「職務の独立」あるいは「自立性」というものでした。それは、組織内弁護士のあり方や、労働者派遣の対象化をめぐる議論でも、常につきまとってきたものでした。

ただ、企業関係者を含め、その都度、一般の反応としてみてきたものは、なぜ、そこが、弁護士側としてそこまで神経質にこだわらなければならないことなのかが、伝わっていない現実、いわば温度差といってもいいものでした。

 弁護士会のなかにも、従来、組織のなかでの主従関係、上下関係というものを形式的にあたまから独立性(独立して法と良心に従って判断する)を阻害する危険性がある、とする見方と、形式的な主従関係があっても、そのなかで現実的に法律の専門家として独立した判断が求められているかどうかを重視する見方がありました。

 しかし、これもおそらく弁護士が考えている以上に、何が問題であるのか分かりにくい議論というべきかもしれません。企業に雇用されていれば、当然、弁護士も企業利益のために動く。

だが、弁護士が独立して、適正を確保するためにプロとして提供する法的指南は、必ずしも企業利益と矛盾しないばかりか、究極的には企業利益になる可能性がある。

その企業内弁護士の姿勢が、経営者の無理解、聞く耳を持たない会社側と対立し、それに社員として迎合を余儀なくされる、という局面がどのくらいあるかもさることながら、それは根本的には、組織内弁護士をめぐる問題に限らない、経営者そのものの質と、弁護士の質の問題であって、「弁護士はどういう立場に置かれなければならない」と括られるべき問題ではない。要は「枠」の問題ではないのではないか、と。

 取り方によっては、あたかも弁護士は、そうした主従関係がもたらす影響下に置かれると、直ちに何やら法律専門家にあるまじき存在に変身してしまう危険がある、といっているようにも聞こえてしいます。逆に、弁護士がそこまで専門家としてもろく、危いのであれば、むしろもっとそちらが問題にされていいのではないか、ということにもなります。

 一方、法律事務所に勤務する弁護士の「労働者」性という別のテーマも弁護士会にはあります。この問題では、東京弁護士会の機関誌「LIBLA」2005年4月号に掲載された同会業務改革委員会の特集記事が、よく引き合いに出されます。

当ブログのコメント欄でも言及されているように、同機関誌の2003年2月号が、勤務弁護士が労働基準法上の「労働者」であることを当然の前提とするかのように記述されていたのに対し、同委員会が疑義を述べたもので、その結論は「常の勤務形態の勤務弁護士は、原則として労働者ではなく、例外的に労働者に該当する場合であっても、労働時間については裁量労働制が適する」というものでした。

  興味深いのは、この記事が、法律事務所での弁護士の勤務形態が様々である現実を踏まえながら、改めて「労働者」に当たるかどうか、の判断基準を示し、各事務所に再考を促しているところです。その基準とは大略、次の5点です。

 ① 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由があるかどうか(自由がないほど労働者性が高い)。

② 業務遂行上の指揮監督が有るか無いか(包括的抽象的な教育指導ではなく、細かい指導的・具体的指示に従っている場合や、事務所から命じられた比較的裁量の幅の小さいデスクワークのみに従事しているような場合、労働者性が強まる)

 ③ 勤務場所・勤務時間に関する拘束性が有るか無いか(勤務場所・勤務時間の指定があったり、出・退勤時間の管理が厳格であるような場合には労働者性が強まる)。

 ④ 報酬の労務対償性・額(一般従業員の給与体系とほぼ同様の扱いを受け、勤務時間に依拠した固定給が支給され、欠勤・早退減額があるような場合には、労働者性が強まる。給与所得としての源泉徴収を行なっている場合、労働者性が補強される)。

 ⑤ 専属性(個人事件や公的活動に従事することが制約されたり、時間的に事実上困難な場合には、専属性の程度が強まり、労働者性が強まる)。

 書かれている内容そのものは、必ずしも分かりにくい話ではありません。自由度や独立した弁護士としての処遇面での優遇や「特別扱い」が、ここでいう「労働者」性にかかわってくるということです。

 ただ、二つのことが気になります。一つはこの議論は、利用者からはどう見えるのか、別の言い方をすると、何が有り難いのか、ということです。「労働者」性が認められない弁護士のあり方は、あたかも高度の試験の選抜と修習過程を経た資格者として、初めから能力的にも自立し、独立性が尊重されていい存在のようにみえます。

 しかし、主従関係のなかで育まれるものに利用者が見出す価値はないでしょうか。「細かい指導的・具体的指示」のなかで修養された弁護士よりも、早くから一人前と尊重された弁護士の方が、利用者に安心を提供するとはいえません。専属制が高まると、個人事件や公的活動が制約される、といっても、そのマイナス面よりも、能力担保にはどちらが有り難い弁護士の形態かという視点になっても当然です。

  そして、もう一つは、これから弁護士になる人、弁護士を続けていかなければならない人にとって、前記自由度と独立性が尊重されるあり方の方が有り難い、といえる現実がなくなっているのではないか、という点です。「労働者」性を認めて、労働者に関する保護規定が適用される勤務のあり方が、現状、果たして有り難くないことなのか。経済的にみても、「自由業」志向が当然だった時代の感覚で、独立性の価値を当然視できない現実もあるはずです。

 その意味では、前記組織内弁護士をめぐる観点にしても、多くの若手弁護士自身、あるいは志望者自身にとって、既にとっくに「枠」の問題ではなくなっているといえるかもしれません。ただ、そうしたことをはじめから割り切っている組織内志向の弁護士で満たされていく、あるいはそうでなければ弁護士として生きられない、ということ自体が、私たちにとって本当に有り難いのか、という別の問題もあります。

 弁護士の「労働者」性というテーマの現在、と、これからには、やはり「改革」の増員政策がもたらす(もたらした)弁護士の経済環境の激変が深くかかわっています。その結果として、私たちが本当に気にすべきなのは、弁護士の独立性の担保なのか、修養と安定を失った弁護士の現実なのか、それともその両方なのか――。そこはよく、見定める必要があります。

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