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水族館プロデューサー中村元「弱点だらけの水族館を再生する方法」――水族館哲学・番外編 水族館プロデューサー・中村元の仕事術 - 中村 元


『水族館哲学 人生が変わる30館』(中村元 著)

 水族館プロデューサーの中村元さんが上梓した『水族館哲学 人生が変わる30館』から、いくつかの個性的な水族館を紹介しました。どの水族館も、心躍る展示のウラで、ぎりぎりまで力を尽くした試行錯誤と生き物に対する温かいまなざしとが凝縮されています。いっぽう、残念ながら閑散としたレジャー施設が全国にはいくつもあります。本書にとりあげられた水族館はどこが違うのか、番外編で、水族館に見る中村さんの仕事術にスポットを当てました。

◆◆◆

弱点を武器に変えた

 第3回「弱点だらけの水族館が人気スポットに。北の大地の水族館 山の水族館」で紹介した「北の大地の水族館」は、集客にはまったく不向きな条件でした。北海道のさびれた温泉街。車も通らないほど便が悪く、冬の気温はマイナス20度。入館数は年間2万人弱。立て替えプランにあがってきた予算は、極小。  

 この仕事を中村さんはどうして引き受けたのか。 しかも、無謀な計画を前に、「ボランティアでプロデュースする」と言ってしまいます。 

「弱点だらけで、そこが魅力的に見えた」 

 この発想に、中村さんが特異なプロデューサーである一端が垣間見えます。

 型どおりであれば、極寒は克服するものですが、そうでなくて、「極寒を長所」と捉えるのが中村さんの流儀です。  

 その成果が、凍った川の下の魚の生態が、世界で初めて見られる川水槽となりました。 そればかりか、淡水熱帯魚の飼育に、節約のために使っていた温泉のお湯を「魚が美しく育つ」とアピールし、地元の温泉街に貢献しています。


誰も見たことのなかった、厳寒の川の下の魚たち。極寒だからこそ、できた。

若手に任せた

 第4回の「ショボイ水族館の裏技が凄い。竹島水族館」で、奇想天外な発想で再生を図り、成功したポイントは館長さん。この方は、中村さん自慢の門下生です。


手書きの解説板は、つい読んでしまう。整然と展示を引き立てるためだけにあるのではないのが楽しい。

 中村さんは弟子の館長・小林龍二さんに、改革のヒントをあたえたけれど、あとは小林さんが必死に考えた技が功を奏し、廃館寸前からみごとに人気水族館に変身しました。その仕事のどれもが、手作りのよさにあふれ、温かく、スタッフとの連携がよいことを想像させます。おかげで、館外のファンまでもが、ボランティアとして水族館を応援しています。

 もし、中村さんが、小林さんのアイデアにあれこれ口を出したら……師匠は著名な水族館プロデューサーだけに、小林さんの自由な発想と懸命な取り組みが萎縮してしまったかもしれません。しかし、中村さんは弟子に信頼をよせて自主性を重んじ、任せました。来館する人とスタッフの距離が近い、アットホームな水族館は、師匠の温かい放任力が生んだのかもしれません。

立地の特性をつかみ、取り込んだ

 第1回に紹介した「高層ビルの最上階に広がる都会のオアシス、サンシャイン水族館」はこの夏にリニューアルした人気水族館です。もともとファミリー層からカップルまで、支持層の広い水族館ですが、最近はさらに、仕事帰りに立ち寄る、「つかのまオアシス」として利用する人も多いと聞きます。水族館が日常の癒しスポットになっているのですね。

 こうした水族館の役割が広がってきたことも、中村さんの哲学が反映された結果ではないでしょうか。人も建物もぎっしりの都会で暮していると、巨大な水槽を前にするだけで、ほっとします。そればかりか、優しく包み込まれているような、不思議な安心感も。中村さんは、「本物の自然とふれあいたいけれど、時間も体力もない場合は、水族館にきてほしい」といいます。

 また、都会の特性を生かした展示もたくさんあります。

 一例が名物のアシカの水槽。下から見上げれば、天空に高層ビルとアシカが一体となった摩訶不思議な景色で、まさに都会でなければ味わえない風景が待っています。さらにリニューアル後は、都会のビル群を背景にした「天空のペンギン」が! 体験したことのない、世界が待っています。


悠々と泳ぐペンギンの向こう側に、ビルが透けてみえる!! 自然と人工が調和した新しい世界。

学ぶべきは現場から。ときには生き物から

 さきほどの「竹島水族館」で、中村さんは温かい放任力で若手を重んじたのでは、と分析しましたが、その過程で中村さん自身もまた、若い後輩たちから新しいことを学んでいます。

 中村さんご自身の師匠は、ときに若者だったり、展示の生物だったりすると、『水族館哲学』の中で書いています。

「しまね海洋館AQUAS」を一躍有名にした展示に、イルカのバブルリング(口から丸く泡を吹き出す)があります。このしぐさはもともと、子どものイルカがするのだそう。バブルリングは彼らの遊びのひとつといわれています。それを大人のイルカがマネをして広がり、さらにほかのイルカに伝播していく……子どもの遊びから学ぶ大人イルカの姿を見て、中村さんも若者の文化を真似てみる、のだそうです。


しまね海洋館AQUASのシロイルカのバブル遊び。かわいい!

 こうして中村さんの選んだ水族館を見ていると、中村さんの哲学に少しだけ近づける気がします。水族館には最新の生物の研究や最新の技術がいくつも備わっていますが、いつでも人の生活と切り離すことなく、彼らから学んで、人に還元していく。その姿がありふれた水族館を、驚きの水族館に変えていく原動力なのかもしれません。

文・写真 中村元

(中村 元)

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