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【佐藤優の眼光紙背】小沢一郎が『平成の悪党』になる日

近日中に民主党の小沢一郎幹事長が「平成の悪党」になるような予感がする。ここで筆者が言う「悪党」とは、犯罪者という意味でない。南北朝時代の南朝の忠臣・楠木正成が「悪党」と呼ばれたことを念頭に置いている。手元にある『岩波古語辞典』(1974年版)で「悪党」を引くと、<中世、荘園領主や幕府の権力支配に反抗する地頭・名手などに率いられた集団。>(13頁)と説明されている。「悪党」とは、既成権力に対抗する強い武士の集団のことだ。

南北朝時代、日本国家は南朝と北朝の2つに分裂した。足利尊氏によって代表される武士(軍事官僚)による北朝が、京都に偽王朝を置いていた。これに対して後醍醐天皇によって開始された建武の中興(国家の建て直し)を断固支持する集団は、奈良の吉野に南朝(吉野朝)を置いた。武士では新田義貞が、後醍醐天皇側について戦ったが、足利尊氏によって打ち負かされた。そこで、悪党の楠木正成が登場し、大暴れする。

5月28日、鳩山由紀夫総理は、沖縄の米普天間飛行場の移設先を名護市・辺野古周辺とすることを明記した閣議了解を行った。それに先立ち、日本の外務大臣、防衛大臣、米国の国務長官、国防長官による日米安全保障協議会の共同発表が行われた。鳩山総理は、移設先について「最低でも(沖縄)県外」としていた約束を反故にした。

沖縄のマグマがこれに対して爆発している。このマグマは、これまでと質が異なる。産経新聞の宮本雅史那覇支局長の以下の記事が状況の深刻さを鋭く指摘している。

<ある県会議員は「県民の大半も国外・県外はありえないと感じていたが、鳩山首相は裏付けのないまま期待を持たせ、簡単にほごにした」と指摘した上で「首相が県内移設を言うようになってからは一般県民のマグマをも動かしてしまった」と話した。

約束を守らなかった鳩山首相の“裏切り”が県民の怒りを招いたのだ。

困惑も広がる。「(結果は)基本的には予想通り」とする財界関係者は「本心では賛成だが、県内情勢をみると賛成とは口に出せない」といい、「経済援助の条件闘争という声もあるが、今は条件面の話し合いをできる状態ではない。それをすると、県民から沖縄を売ったと批判される。自分の意見を言えなくなっている」と説明した。

ある革新系議員は過去に一般住民が武装闘争を展開したことをあげ「活動家は排除できても、一般の県民は排除できない。沖縄の保守のマグマは革新よりも過激だ。鳩山首相が議員辞職しても、このマグマを消せない」と語った。

また、保守系議員は鳩山首相の議員辞職を最低条件にあげ、「責任を取ろうともしない民主党政権は言語道断。普天間問題の早期解決には今こそ原点に戻って防衛議論を重ね、県民に理解を求めるべきだ」と訴えた。>(5月29日産経新聞)

沖縄で一般住民による武装闘争が展開されたことに言及し、「沖縄の保守のマグマは革新よりも過激だ」という沖縄の政治エリートの発言に注目した宮本支局長の記事は問題の本質を衝いている。沖縄の地元紙を読むと事態の深刻さがよくわかる。これまで、最終的には基地問題で東京の中央政府の意向を受け入れた沖縄の経済界が次のような反応をしている。

<普天間飛行場移設問題 県内経済界、実現不可能で一致 普天間固定化を懸念

日米両政府が米軍普天間飛行場の移設先を名護市辺野古のキャンプ・シュワブ沿岸部と隣接する海域とする共同声明を発表したことに、県内経済界は高まる県民の反対運動から「実現は不可能」との見方で一致した。基地受け入れの見返りとされる経済振興策については「基地に依存して飯を食おうとは思っていない」など強い調子で否定する声が相次いだ。一方で移設作業停滞による普天間飛行場の固定化への懸念も出た。

県商工会議所連合会の国場幸一会長は「反基地運動は今まで以上に激しくなる。嘉手納基地の返還運動にまで発展する可能性を米国も恐れているはずだ」と指摘。沖縄観光コンベンションビューローの平良哲会長も「9万人が集まった県民大会や名護市長や関係市町村長の反対でも県民の意思は明らか。翻すことは厳しい。日米両政府の進めるこの計画はお先真っ暗だと思う」と話す。

振興策がリンクされることについては、異口同音に強く否定した。

県建設産業団体連合会の呉屋守将会長は「変な経済振興策に妥協すると、現在のウチナーンチュが次世代のウチナーンチュに批判される。県民のプライド、自尊心、自立にかかわる問題で、妥協するわけにはいかない」と強調。国場会長は「以前は北部の土建業者のメリットになるとして工法の話も出たが、今度はどんな工法であっても受け入れとはならない」と拒否の姿勢を強調した。

知念栄治県経営者協会長は「基地に依存して飯を食おうとは思っていない。沖縄は基地依存、財政依存を経て自立経済を考える時期だ。基地建設は一時的には潤うかもしれないが長期的には生産性を落とす」と説明。「嘉手納より南の基地の返還が遅れることのほうが経済損失は大きい」と述べ、「移設先が定まらず普天間が固定化されるのが最も問題だ。政府の認識を問いたい」と懸念を示した。>(5月29日琉球新報電子版)

これはかつてない事態である。それは、沖縄が普天間問題を東京の政治エリート(国会議員・官僚)による沖縄に対する差別を象徴する事案と認識しているからだ。そして、差別に対する怒りと悲しみが沖縄全体に広がっている。この状況を、政治エリートは客観的に認識すべきだ。かつてのような「アメとムチの政策」で、基地問題を軟着陸させる可能性はない。辺野古への基地建設を強行すれば、反対派の住民が座り込みをする。それを強制排除すれば、負傷者が出る。そうなると基地反対派だけでなく、保守派を含め、沖縄のマグマが噴き出す。そして、日本の国家統合が危機に瀕する。

閣議了解には、閣僚の署名が必要だ。福島瑞穂少子化担当大臣が署名を拒否したので、罷免された。この結果を受け、30日、社民党は連立政権から離脱することを決定した。

筆者は、社民党が沖縄のためだけに行動したとは思っていない。もし、社民党が沖縄の負担軽減を真剣に考えているならば、福島氏や辻元清美国土交通副大臣(衆議院議員)らの社民党議員が、普天間の移設先を探すために、死ぬ気で努力したはずだからだ。その形跡は認められない。さらに社民党は、沖縄に対する東京の政治エリートによる差別の問題に言及しない。沖縄の立場を代弁して筋を通したという要因よりも、福島氏が罷免され、連立を離脱した方が参議院選挙で少しでも得票を上乗せできるという計算によってとられた行為と筆者は見ている。社民党は、沖縄のためでなく、自分のために目的合理的に行動しているだけのことだ。

本5月31日から政局が流動化する。この原因を社民党の連立離脱に求めては、事態の本質を見失う。今回、なぜこのようなことになってしまったのか? 筆者の見立てでは、起きている国家権力内部の権力闘争で、鳩山総理が官僚に譲歩しすぎたからだ。
 
現下の日本には、目に見えない2つの国家が存在する。一つは、昨2009年8月30日の衆議院議員選挙(総選挙)で、国民の多数派によって支持された民主党連立政権の長によって国民を代表する国家が存在する。もう一つは、官僚によって代表される国家だ。

内閣総理大臣の職に就いている鳩山由紀夫という1人の人間に、国民の代表という要素と官僚の長という要素が「区別されつつも分離されずに」混在している。官僚と国民の利害相反が起きるときに、総理のアイデンティティー(自己同一性)の危機が生じる。

官僚は、国民を無知蒙昧な有象無象と考えている。有象無象によって選ばれた国会議員は無知蒙昧のエキスのようなものと官僚は見下している。そして、国家公務員試験や司法試験に合格した偏差値秀才型のエリートが国家を支配すべきだと自惚れている。自民党政権時代は、「名目的権力は国会議員、実質的権力は官僚」という実質的な棲み分けができていたのを、民主党連立政権は本気になって破壊し、政治主導を実現しようとしていると官僚は深刻な危機意識を抱いている。この危機意識は、実際は官僚が権力を大幅に削減されることに対する異議申し立てに過ぎないのであるが、官僚の主観的世界では「このような輩が国家を支配するようになると日本が崩壊
する」という「国家の危機」という集合的無意識になっている。

官僚は、現在、2つの戦線を開いている。第1戦線は、検察庁による小沢一郎潰しだ。第2戦線は外務官僚と防衛官僚による普天間問題の強行着陸だ。特に外務官僚は、「アメリカの圧力」を巧みに演出しつつ、自民党政権時代に官僚が定めた辺野古案が最良であることを鳩山総理が認めないならば、政権を潰すという勝負を賭けた。鳩山総理は、現状の力のバランスでは、官僚勢力に譲歩するしかないと判断し、辺野古案に回帰した。鳩山総理の認識では、これは暫定的回答で、段階的に沖縄の負担を軽減し、将来的な沖縄県外もしくは日本国外への模索を実現しようとしているのであろう。しかし、この状況を官僚は「国家の主導権を官僚に取り戻した象徴的事案」と受けとめている。
 
しかし、この象徴的事案は、官僚勢力に対する敗北になり、民主党連立政権が政治生命を喪失する地獄への道を整える危険をはらんでいる。筆者は、小沢幹事長がそのような認識をもっているのではないかと推定している。

小沢幹事長が「鳩山総理が平成の新田義貞になった」という認識をもつならば、自らが悪党になり、政局をつくりだそうとする。小沢氏が直接政権を握ろうとするか、自らの影響下にある政治家を総理に据えようとするかは本質的問題ではない。小沢一郎氏が「平成の悪党」になるという決意を固めることが重要だ。小沢氏が「平成の悪党」になる決意を固めれば、官僚に対する決戦が始まる。参議院選挙はその露払いに過ぎない。今後、天下が大いに乱れる。(2010年5月31日脱稿)

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「はじめての宗教論 右巻~見えない世界の逆襲 (生活人新書) (生活人新書 308)」、「日本国家の真髄」など。

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