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【佐藤優の眼光紙背】特捜検察の預言

 4月27日、東京第五検察審査会は、小沢一郎・民主党幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地取引事件で政治資金規正法違反(虚偽記載)容疑で告発された小沢氏を東京地検特捜部が不起訴(嫌疑不十分)とした処分に関し、「起訴相当」とする議決をしたことを公表した。

 検察審査会は、くじによって選ばれた11人の有権者によって構成される。11人のうち6人以上が、不起訴が正しいと判断すれば不起訴相当、6〜7人が正しくないと判断すれば不起訴不当、9〜11人が正しくないと判断すれば、起訴相当となる。

 起訴相当の議決が出た場合には、検察官が当該事件の再捜査をし、原則として3カ月以内に起訴するかどうかについて判断する(捜査に時間がかかる場合は、3カ月以内の延長が可能)。検察が不起訴処分にするか、起訴しなかった場合、検察審査会が構成員を替えて再度審査する。その結果、起訴相当という議決がなされれば、その容疑者は必ず起訴される。

 実は、このようなシナリオを特捜検察は、かなり以前から考えていたようだ。この事件では、小沢氏の秘書をつとめていた石川知裕衆議院議員(北海道11区)ら3人が東京地方検察庁特別捜査部に逮捕され、2月4日に起訴された。石川氏たちは起訴の翌2月5日に東京拘置所から保釈された。筆者は、2月6日夕刻、都内某所で石川氏と会った。そのとき石川氏は、起訴の3日前、つまり2月1日に取り調べを担当した副部長から、小沢幹事長が不起訴になるという話を聞かされたという話に続け、筆者にこう尋ねた。

 「佐藤さん、副部長は『小沢先生が不起訴になっても、検察審査会がある。そして、2回起訴相当になる。今度は弁護士によって、国民によって小沢先生は断罪される』と言っていました。そんなことがあるのでしょうか?」

 筆者は、「あの人たちは、無駄なことは言わない。本気でそうしようと考えているのだと思う。検察官の預言として聞いておいた方がいいね」と答えた。

 現在、起きていることは、国民の選挙によって選ばれた政治家、あるいは資格試験(国家公務員試験、司法試験など)に合格したエリート官僚のどちらが日本国家を支配するかをめぐって展開されている権力闘争である。検察は、エリート官僚の利益を最前衛で代表している。過去1年、検察は総力をあげて小沢幹事長を叩き潰し、エリート官僚による支配体制を維持しようとした。エリート官僚から見ると、国民は無知蒙昧な無象無象だ。有象無象から選ばれた国会議員は、「無知蒙昧のエキス」のようなもので、こんな連中に国家を委ねると日本が崩壊してしまうという危機意識をもっている。しかし、民主主義の壁は厚い。検察が総力をあげてもこの壁を崩すことはできず、小沢幹事長が生き残っている。そこで、ポピュリズムに訴えて、小沢幹事長を叩き潰し、民主党政権を倒すか、官僚の統制に服する「よいこの民主党」に変容させることを考え、検察は勝負に出ているのだ。

 検察審査会で、小沢幹事長の容疑について説明するのは検察官である。資料も検察から提出される。

 4月27日にマスメディアに配布された検察審査会の「議決の要旨」にはこう記されている。

<絶対権力者である被疑者に無断で、A・B・Cらが本件のような資金の流れの隠蔽工作等をする必要も理由もない。>


 これは、検察の主張を追認しただけだ。ここでAとされているのが石川知裕衆議院議員だ。筆者の理解では、石川氏は、隠蔽工作をしたという認識をしていない。また、石川氏は、小沢氏を「絶対権力者」と考えていない。「小沢さんからは、とっくに乳離れしていますよ」と以前から公言しているし、石川氏の発言、行動を見ると、小沢氏からは独立した、別個の人格をもった政治家である。石川氏が小沢氏の言うことならば、思考を停止させて、何でも言うことを聞くかのごとき認識で、検察審査会の判断がなされているように、筆者には思えてならない。その理由は、検察審査会に提供される資料や情報が検察からの一方的なものであるからと筆者は考える。検察審査会の審議を可視化し、検察が提供する資料や情報の恣意性について検証できる態勢をとることが、正しい判断をする大前提だ。

 一部に今回の起訴相当の議決を受けて、2回目の検察審査会を待たずに、検察が小沢幹事長を起訴するという見方が、筆者はその見方はとらない。以下の報道が検察の論理を的確に示していると思う。

<「想定内」「証拠評価の問題」=起訴可能性に否定的−法務・検察
 検察審査会の起訴相当議決について、法務・検察幹部からは「想定していた」「証拠の評価の問題」などと、冷静な声が聞かれた。今後の再捜査については、「新証拠が見つかる可能性は低く、判断を覆すのは難しい」と、小沢氏起訴の可能性に否定的な見方が大勢を占めた。
 検察首脳の1人は「想定していた」とした上で、「共謀はあるとしても、罪を問えるほどのものなのか。どういう共謀なのか具体的な指摘がないのに、起訴できるという指摘ばかりしている。『小沢氏はけしからん』という気持ちがあるのかもしれない」と話した。
 別の幹部は「われわれは、80%有罪でも20%無罪だと思えば起訴しない。証拠の評価が違うということだ」と淡々とした様子。
 法務省幹部は「内容が粗い。公開の場に引きずり出せというだけではないか」と苦言を呈した。
 小沢氏や起訴された3被告への再聴取については、「任意捜査だから、断られたらそれまで」「事情聴取しても、同じ説明の繰り返しになる」などとする声が上がった。
 中堅幹部は「時間をかけずに不起訴にするのではないか。再び起訴相当の議決がされれば、それは国民の意思だ」との考えを示した。>(4月27日時事通信)


 検察も目的は、国民により小沢幹事長を断罪し、その政治生命を絶つことだ。そのためには、検察審議会の場を最大限に活用し、ポピュリズムに訴える。国民を利用して、官僚支配体制を盤石にすることを考えているのだと思う。特捜検察官が石川氏に伝えた預言が成就するであろうか。実に興味深いゲームが展開されている。(2010年4月28日脱稿)

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「はじめての宗教論 右巻~見えない世界の逆襲 (生活人新書) (生活人新書 308)」、「日本国家の真髄」など。

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