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【佐藤優の眼光紙背】治安維持法化する政治資金規正法

 2月4日に石川知裕衆議院議員(民主、北海道11区)の勾留期限がくる。「鬼の特捜」(東京地方検察庁特別捜査部)に逮捕され、不起訴ということはない。石川氏は必ず起訴される。

 ただし、検察の目的は、石川知裕という政治家を叩き潰すことではない。石川氏を「階段」にして小沢一郎民主党幹事長を政界から除去することだ。それだから2月4日に石川氏の起訴とともに、小沢氏も(身柄拘束はされずに)在宅起訴されるのではないかと、筆者は見ている。在宅であっても起訴されれば、小沢氏は幹事長を辞任せざるをえない状況に追い込まれる。しかし、幹事長を辞任することに加え、民主党籍を離脱しても、小沢氏が国会に議席をもつかぎり「闇将軍」として、政界に影響力を行使する。従って、検察にとっての勝敗ラインは、小沢氏を議員辞職に追い込めるか否かではないかと筆者は見ている。

 ここで、石川氏が決定的に重要な意味をもつ。まず、小沢氏がからまない、石川氏の政治資金規正法違反につながる事件を摘発する。そして、石川氏に「議員辞職し、罪を認めないと実刑になるぞ」と徹底的に揺さぶる。石川氏が議員辞職すれば、長期勾留が可能になる。そこで、検察にとって有利な情報を聞き出していくことができる。

 国会会期中は、院の承認を得ずに国会議員を逮捕することはできない。そこで、石川氏が議員辞職を拒否するならば、検察としては、衆議院に対して石川氏の逮捕許諾請求を行い、正面突破を試みる。ここれ、請求が許諾されるならば、次の段階で小沢氏の逮捕許諾に向けた準備をする。

 こんな感じで、事態が推移していくのではないかと筆者は見ている。
 筆者は、本件を特捜検察に代表される官僚と民主党の間で展開されている権力闘争と見ている。国民とは関係のない「あの人たちの喧嘩」である。本件に関する筆者の見方については2009年11月24日付佐藤優の眼光紙背第63回「特捜検察と小沢一郎」に記した。筆者は、この論考で以下の指摘をした。

<要するに石川氏という階段を通じて、小沢幹事長にからむ事件をつくっていくという思惑なのだろう。(中略)当面は、石川知裕氏を巡る状況が、今後も政局の流れを決めるポイントになると思う。>

 論壇において、石川氏の位置づけを、いちばん最初に指摘した論考と思う。鈴木宗男事件に連座して、「鬼の特捜」に逮捕され、512日間の独房生活をした筆者には、特捜検察の内在的論理も、独房に閉じこめられ、外界から遮断され、連日、厳しい取り調べを受ける被疑者にとって、検察官が味方のように思え、やっていないことでも認めてしまう心理が手に取るようにわかる。それだから、特捜事件を録画、録音する可視化が不可欠なのだ。

 今回の石川事件で注目しなくてはいけないことは、政治資金規正法の位置づけが変化したことだ。政治資金規正報告書への記載漏れ、誤記が、意図的であると認定された場合、虚偽記入、不記入で国民を欺いた重罪であると取り扱われるようになったことである。検察官出身の弁護士が、新聞、雑誌、テレビなどで、「政党助成金制度が導入され、国民の税金で政治活動を行われるようになってから、政治資金規制法の意味が変わった。政治資金収支報告書で意図的にウソをつく政治家は厳しく罰するべきだ」と主張している。この議論には説得力がある。ただし、その摘発を検察に委ねると、特定の政治家を標的にし、別の政治家はお目こぼしするということになりかねない。検察庁も法務大臣の指揮下にある行政機関だ。行政府と司法府によって立法府の権限が不当に侵害されることがないような仕組みを考えるべきだ。例えば、立法府に専門家による政治資金監視委員会を設け、不自然な政治資金の動きをチェックし、そこから検察に告発するような、クッションを設けないと、政治資金規正法が戦前、戦中の治安維持法のように拡大解釈、適用されていく危険がある。

 治安維持法も1925年の制定時は、コミンテルン(共産主義インターナショナル)による国体変革(革命)を取り締まりを目的とするもので、最高刑も懲役10年だった。それが1928年の改正で、最高刑が死刑になった。適用範囲も、共産党から、合法無産政党、大本教やキリスト教に拡大され、日本社会全体が息苦しくなっていった。

 ほとんどすべての政治資金収支報告書には、記載漏れや誤記があるというのが実態だ。「清潔な政治」に反対する国民はいない。従って、政治資金規正法の厳罰化に反発する声はあがらない。しかし、厳罰化が具体的にどういう政治状況をもたらすかを冷静に考えてみる必要がある。検察に狙われた政治家は、政治資金規正法違反を理由にいつでも逮捕されるような状況が生まれつつある。ここで一歩、立ち止まる勇気が必要だ。(2010年1月31日脱稿)

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・元外交官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
近著に「はじめての宗教論 右巻~見えない世界の逆襲 (生活人新書) (生活人新書 308)」、「日本国家の真髄」など。

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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