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【MIAUの眼光紙背】出版社に衝撃を与えた「コルシカ」のどこが問題だったのか

書籍や雑誌がネット配信に変わるのは、もはや時間の問題とされてきた。日本の出版業界も10年ほど前からそれに取り組み、数々のトライアルを行なってきたが、あまりうまくいかなかった。市場が生まれなかったのである。

しかしようやくここ数年で、ケータイ向けのコミック配信やケータイ小説のブームにより、電子書籍の芽が出て来た。そんな中、雑誌の電子化に一石を投じるサービスが登場した。エニグモ社の「コルシカ」(※1)である。

コルシカはこんなサービスだ。利用者が欲しい雑誌を注文すると、その雑誌はスキャンされた画像として配信される。価格は現物の定価と同じで、さらに実費程度の「配送料」を支払えば、現物も送ってくれる(ただしコルシカ側で現物を保管しているのは発売開始後30日で、その間に配送を申込む必要がある)。スキャンデータは専用ビューワーで1年間の閲覧が可能、残しておきたい記事があれば、ビューワーの「MYフォルダ」へ3年間保存できる。

このコルシカ、10月7日の開始直後から出版界を騒然とさせた。実は雑誌をスキャンすることに関して、大部分の出版社から許諾を得ていなかったのである。

9日には、日本雑誌協会が無許諾スキャンをやめるようコルシカ側へ要請した(※2)。素早い対応だ。コルシカも同協会に関する雑誌の取扱いを中止、その後14日には、すべての雑誌について販売中止とした。サービス開始から販売中止まで、およそ1週間。現在のコルシカのトップページでは、「今後は雑誌出版社各社と協議を行い、十分な雑誌を取り揃えた上で、 サービスを再開させていただく所存でおります」とのコメントが掲載されている。

雑誌のスキャンで問題となった原因は「著作権」である。コルシカがスキャンデータを利用者へ売ろうと思えば、雑誌に掲載された文章・写真などの著作権者から許諾を得なければいけない――というのが雑誌協会の主張だ。

一方、コルシカにも言い分はある。報道によれば、このスキャンは利用者の「私的複製」だという。私的複製とは、著作権法第30条の「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること‥‥を目的とするとき‥‥その使用する者が複製すること」を指す。

たとえば我々自身が家で雑誌をスキャンし、PC上で読む場合はこれに当たる。問題になったコルシカの雑誌スキャンは、利用規約(※3)に利用者の依頼でスキャンを行なう旨を書いているものの、スキャンするのがコルシカ自身である以上、著作権法で言う「その使用する者が複製すること」に当たるのか、大いに疑問のあるところだ。

現行法だけでなく、いま著作権法への導入が検討されている「フェアユース」との関わりも考えてみよう。コルシカのサービスが合法であるという考え方が、現行法の外であり得るのか。

「フェアユース」に関して最も柔軟な米国著作権法の第107条では、考慮すべき4要件が掲げられ、その中でも特に「商業性」と「市場競合性」がある場合は、フェアユースが認められないケースが多い。この基準を当てはめてみると、コルシカに商業性はある。雑誌を配信するサービスも既にあり、市場への影響が否定できない。

この点を踏まえ、コルシカのスキャンサービスが社会にどれだけの便益をもたらすのか、そして通常の著作物利用(ここでは市場での雑誌販売)を妨げないのか、といった点が主張できなければ、「フェアユース」としては認められないだろう。

私個人としては、利用者が買った雑誌をスキャンするという前提ならば、「フェア」だと解釈するのを期待したいところだ。しかしコルシカの仕様上、それがどこまで貫徹されているのかが、利用者からよく分からない。雑誌データの閲覧に期限がある点などは、むしろ“利用者が注文した雑誌を所有していない”と解釈されてしまう根拠になるのではないか。

もちろん現在の著作権法には「フェアユース」規定は無いので、上記はあくまでも仮定での話であるが、ここまで述べてきた通り、筆者はコルシカの適法性に疑問を持っている。その一方でこのサービスをヒントに、無許諾のスキャンでも「適法」なサービスを創造することは可能かも知れないとは考えている。

コルシカに対して販売中止を求めた日本雑誌協会も、2010年初頭から雑誌の配信実験を行なうという(※4)。雑誌を無許諾で電子化することで可能になる「新たに便益」があるとすれば、それは何か? ライツホルダーはコルシカだけを見るのではなく、その先を見通すべきだ。先回りして自身の許諾のもとで「新たな便益」を提供できれば、無許諾でそれをやる事業者に対抗できる。

これを機会に、著作権法のもとで違法・適法の境界を想像することは無駄ではない。なぜなら今後も、境界ぎりぎりのところに挑戦するサービスが登場するのは間違いないからである。そしてそれらの中から「新たな便益」を見出す力が、権利者やユーザーに求められている。(谷分章優/MIAU事務局長、フリーライター)


※1 http://www.corseka.jp/
※2 http://www.enigmo.co.jp/press/news/index.php?detail=10
※3 http://www.corseka.jp/company/tos.html
※4 http://www.j-magazine.or.jp/


プロフィール:
MIAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:MiAU

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。バックナンバー一覧 Readerに追加RSS

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