去る8月31日、インターネットユーザー協会(MIAU)が、文化庁の「文化審議会著作権分科会法制問題小委員会」で議論されている「権利制限の一般規定」(いわゆる日本版フェアユース)の導入に関するヒアリングへ呼ばれた。ヒアリングは数回にわたって行われ、直接の利害関係団体、すなわち権利者団体と利用促進を目指す団体のほか、有識者としてさまざまな団体が呼ばれて意見を述べている。この日は日弁連、著作権保護期間の延長問題を考えるフォーラム(thinkC)も意見を述べた。消費者・エンドユーザーの立場として呼ばれたのは、障害者放送協議会とMIAUである。今回はMIAUとして発表した意見をベースに、放送に関係する権利制限の一般規定について考えてみたい。
これまで著作権法制度の見直しは、権利者側が議論を先導し、著作権の拡大・強化を図ってきた。一方コンテンツビジネスは、文化・芸術を金に換える仕事である。芸術が王宮に抱えられていた中世とは違い、現代において大半の芸術は、商業的性格を持っている。従って文化・芸術を様々な方法で流通させることは、最終的には作者に対して多彩な収入の道を提供することになる。ここはデジタルコンテンツ流通促進側のスタンスとも重なるが、消費者はコンテンツの入手性が多様化することで、よりコンテンツに接する機会や、時間効率を高めることができる。
ただ、現在無料で放送されている番組に関しては、上記の理論がなかなか通用しない。なぜならば、無料のものを別ルートから無料で入手できたからといって、喜ぶのは消費者とインフラ提供者だけで、権利者には何のうまみもないからである。消費者的には何の問題もないように思える「タイムシフト」や「プレイスシフト」でも、権利者側から提訴されたサービスは多い。
しかし、たとえ著作権を盾にとってサービス停止に追い込んだとしても、それを代替するサービスを放送事業者自身が提供しない限り、それが金に換わる可能性は実質的に「ゼロ」である。最近は放送局自身がオンデマンドサービスに乗り出してはいるが、出演者の著作権などの権利処理が障害となって、すべての番組が提供できるようにはなっていない。
この点で言えば、放送事業者自身もまた他者の著作権法に縛られているということである。放送事業者がダブルスタンダード的立場に立たされ、なかなか前進できない事情がそこにある。
ユーザーの立場としては、放送局のビジネスを阻害しない形でのタイムシフト、プレイスシフトは、権利制限の一般規定に加えてもいいのではないか、というのが、我々の意見である。
現在ネットでは、ブログやSNS、Twitterといったサービスで、個人が日常的に大量の情報を発信する時代である。しかしながらこれらの活動も、商業コンテンツに関わる部分では、未だに多くの制約がある。書籍、音楽、映画を紹介する際の書影、ジャケット画像などは、最近ではアフェリエイトにより、個人でも掲載できるようになってきた。これなどは商業的な含みを持たせたということで、ある種の取引によって許容された行為である。企業のアフィリエイト・プログラムに参加しなければ合法的にジャケット画像や書影を利用できないというのは健全な状況ではない。こうしたものはフェアユースの範囲内で処理すべきことだろう。
もっと踏み込んで考えれば、具体的なコンテンツの一部を掲載することも考え得るのではないか。例えば紹介や解説目的で、30秒程度音楽の一部分を掲載する行為、あるいはテレビ評や映画評のために動画の一部分を静止画や短い動画で掲載する行為は、著作権法では認められていない。
常識的に考えて権利者への経済的影響がきわめて軽微な利用について、合法にしていけば必然的にコンテンツのメディア露出が自動的に行なわれることになり、番組外収入の目処が立たないような番組でも、市場発掘に広がる可能性がある。「水曜どうでしょう」のようなローカル番組が全国区になった背景にはネットの評判があったということを忘れてはならない。
著作者としての存続性と商業的成功が不可分でない現在、消費者の利益とコンテンツ産業活性化もまた不可分ではない。商業的成功と産業活性化がニアリーイコールであるかぎり、権利者と消費者の利害は一致するはずだ。
(小寺信良/MIAU代表理事、ジャーナリスト)
プロフィール:
MIAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。
公式サイト:
MiAU
眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。
バックナンバー一覧 
この記事を筆者のブログで読む