記事

パラ金メダリスト・マセソン美季氏に聞く「日本と欧米との違い」

1/2

2013年9月に2020年東京オリンピック・パラリンピックの開催が決定して以降、パラリンピックや障害者スポーツに関して「知る・見る・触れる」機会は増えてきた徐々にではあるが、パラスポーツ・アスリートへの認知度・注目度も高まりつつある。しかし、一方で「障がい者」や「障がい者スポーツ」に対しては「欧米との違い・遅れ」を指摘する声があることも事実だ。では、具体的にはどのような「違い」があるのだろうか。そこで、今回は1998年長野パラリンピック、アイススレッジスピードレースで金3銀1の計4個のメダルを獲得したマセソン(旧姓・松江)美季(まそせん・みき)氏にインタビューをした。米国の大学に留学し、現在はカナダで暮らしているマセソン氏が実際に感じた「欧米」と「日本」との「違い」とは――。

長野パラリンピックで金メダリストとなったマセソン美季氏

長野パラリンピックで金メダリストとなったマセソン美季氏。その後、米国、カナダと海外生活は約20年におよぶ

健常者と障がい者とに分けない社会

大学1年の時に交通事故で脊髄を損傷し、車いす生活となったマセソン氏。3年時に出場した長野パラリンピックでは1500mで世界新記録を樹立するなど、3度も世界の頂点に立ち、輝かしい戦績を残した。

大学卒業後は、パラ陸上競技と車いすバスケットボール の名門校で、これまで多くのパラリンピック選手を輩出してきた米イリノイ州立大学へ留学。そこで障がい者スポーツの指導者としての専門知識を学んだ。

イリノイ大学で最初に驚いたのは、「障がい者」に対する日本との「意識」の違いだったという。入学直後のこんなエピソードを紹介してくれた。

「日本では、障がいのある人がトレーニングをしたいと思った時には、『障がい者スポーツセンター』を案内されるのが普通ですよね。だから、イリノイでも『障がい者スポーツセンターはどこにありますか?』と聞いたんです。そしたら『そんなものはない』と言われました。『私の英語が通じなかったのかな?』と不安になっている私に、大学のスタッフはこう言ったんです。『なぜ、わざわざ健常者と障がい者を分けるような面倒なことをするの?』と。そうして案内されたのは一般の学生たちが使用しているジムだったんです」

約20年前、日本では障がい者や障がい者スポーツへの理解がまだまだ薄かった時代、米国、とりわけ「障がい者スポーツ先進地」と言われるイリノイ大学では、健常者と障がい者との間の垣根はほとんどなかった。

「日本で『共生』や『インクルーシブ』という言葉を耳にしたことはありましたが、いったいそれがどういうものなのかはイメージすることができずにいました。でも、この時初めて『あぁ、こういうことなんだな』と思ったんです」

大事なのは「モノ」ではなく「人」

イリノイ大学を卒業後、当時アイススレッジホッケーカナダ代表選手と結婚をし、カナダへと移住したマセソン氏。現在も首都オタワで家族4人で暮らしており、海外生活は約20年になる。

昨年1月からは、日本財団パラリンピックサポートセンターで推進戦略部プロジェクトマネージャーとしてパラリンピック教育や、国際貢献事業を手掛けており、現在カナダと日本を頻繁に行き来する生活を送っている。移動距離は、昨年1年間だけで16万マイルにものぼったという。そんな彼女の目に、現在の日本はどう映っているのだろうか。

「バリアフリーなど、施設の環境面では、以前と比べると、とても住みやすくなっていると思います。例えば、私が大学時代は、東京の都心でさえもエレベーターが設置された駅は少なくて、車いすの人は電車だけを頼りに行動することはできませんでした。でも今は、1日平均3000人以上が利用する駅にはエレベーターの設置などで、車いすでも利用できるようなルートが確保されています」

2013年に2020年東京オリンピック・パラリンピック開催が決定して以降、日本の「バリアフリー化」は、さらに加速している。街中を見渡すと、石畳や段差が多く、点字ブロックもほとんど目にすることのない欧米に比べれば、日本の方が障がい者に優しい街づくりが進んでいると言えるのかもしれない。

しかし、そうしたハード面の整備が、障がいのある人たちが「快適に暮らす」ことに必ずしも直結するわけではない。

昨年、マセソン氏は2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて、リオデジャネイロパラリンピックを視察した。彼女が現地で感じたのは、「人」だった。

「確かにリオは、競技施設も道も、バリアフリーが進んでいるとは言えないものでした。でも、そんなことは大したことではないんだなとあらためて思ったんです。障がいがあるとかないとか、そんなこと関係なく、誰でも気軽に声をかけてくれて、おしゃべりをしたり、何かあれば手伝ってくれる。それが普通にできる人たちだったからこそ、とても居心地が良かったんです。ハード面の不足部分は、人の温かさでカバーできることもあるんだな、とあらためて感じました」

現役時代、マセソン氏にとって初めての国際大会はノルウェーだった。「福祉先進国」とはいえ、彼女が訪れた田舎の小さな町は、「バリアフリー」というものは何一つなかった。しかし、そこでも「大変さ」は感じなかったという。

「『バリアフリー』どころか、『バリアフル』の環境でした。英語圏ではないので、言葉も通じなかったですしね。でも、どこに行ってもみんな親切な人たちばかりで、初めての海外遠征でしたが、ストレスを感じることなく過ごすことができたんです。『あぁ、バリアフリーというのは、モノの形ではないんだなぁ』と思いました」

翻って、日本はというと、マセソン氏はこう語る。

「もちろん、以前よりは障がい者に対する理解というのは深まってきていると思います。それは、とてもうれしいことです。ただ、ともすると、ハード面の方にばかり目がいきがちになっている傾向にあるのかなと。人と人との触れ合いという点においては、正直、以前とそれほど変わっていないような気がします。車いすに乗っている私に対する視線は、やはり『普通』ではないですよね。ジロジロと見る人もいれば、さっと視線をそらす人もいる。もちろん、欧米でもそういう人はいるけれど、ほとんどの人は『普通に』『気軽に』接してくれます。人に助けてもらう時もあるけれど、時には私がお手伝いすることもある。だからお互いに対等でいられるんです。でも、日本では私は『かわいそうな人』で、『助けてもらう人』と決めつけられてしまうこともまだ多いんです。だから日本に来たとたんに、見えない壁を感じて、残念ながら居心地が悪い時もあります 。対等でいられない気がして、すごく悲しいですよね」

あわせて読みたい

「障害者」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    水原希子「日本人」発言は捏造

    西村博之/ひろゆき

  2. 2

    解散を要求していたのは野党側

    和田政宗

  3. 3

    豊田議員糾弾は大衆によるリンチ

    小林よしのり

  4. 4

    iPhoneXで生活は全く変わらない

    永江一石

  5. 5

    国民に刺さるのは左翼でない野党

    AbemaTIMES

  6. 6

    水原希子ヘイト騒動 本人も問題?

    メディアゴン

  7. 7

    車道ベビーカーなら「日本死ね」

    花水木法律事務所

  8. 8

    都知事 秘書の異常待遇言及せず

    週刊金曜日編集部

  9. 9

    河村市長は衆院選出馬やめるべき

    早川忠孝

  10. 10

    10月解散総選挙なら自民の不戦勝

    NEWSポストセブン

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。