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【赤木智弘の眼光紙背】ドラクエ9の「外」は凄いことになっていた

7月11日に発売された『ドラゴンクエストIX 星空の守り人(以下、ドラクエ9)』。
私も発売日に購入し、ストーリー本編はあっさりとクリア。それからしばらくプレイしていなかった。
私の場合、ゲームはプレイしても、メインを1回プレイすると飽きてしまって、それ以上の追加要素はプレイしないのがほとんどである。
だが、最近またプレイするようになった。多分、世間の「ドラクエ9熱」とも言えるであろう現象にあてられたのであろう。

話はすこし戻って、発売前のドラクエ9に対する批判はすごかったという印象がある。発売前にも関わらず、アマゾンのレビューには星1つで酷評するレビューが数百件書き込まれ、アマゾンが「規約違反」として、書き込みを削除するような事もあった。(*1)
また、開発の内部にいるらしき人による内部リークのらしき書き込みがネット上で流通し、「クリエーターが気まぐれで下請けの作業が進まない」「ストーリーがいまさら天使と悪魔の戦いで陳腐」「ダンジョンのしかけが動かない」「クリエイターがキャバクラの女の子を意識した内容を入れまくっている」といった内容が、既成事実であるかのように扱われていた。
そうしたな状況で、もっとも批判されたのは、主人公のパートナーとなる、妖精の「サンディー」(ネット上では「ガングロ妖精」と呼ばれている)である。
黒い顔にギャルっぽい言葉使いということから、「ガングロ妖精=キャバクラ」という、内部リークの書き込みと結びつけられ、サンディーはソフトの品質が低いことの象徴となっていたようだ。
中には「言葉遣いが悪く、子供に悪影響が!」なんて批判もあって、「今、子供を持つような世代はドリフやひょうきん族などの、悪影響番組で育った世代だろ。悪影響云々言うおまえは、どうやって育ったんだ?」と笑ってしまった。

では、実際どうだったのかといえば、私がプレイした限り、確かに内部リークの情報は正しかったのだろう。
度重なる発売延期は問題視されていたし、ダンジョンは確かに排棄されたであろう仕掛けらしいものも残っていた。しかし、ストーリーについては陳腐ではあったものの、これまでのドラクエとさほど変わらないものであったし、キャバクラ系のネタについては、発売直後にネット上に晒され批判されたようなものは、ゲーム本編をクリアして何時間もプレイしてから、おまけ要素として出てくる「ちょっとしたユーモア」程度のものであった。
これはドラクエ9をクリアした私個人の感想に過ぎないのだが、初代からリアルタイムでドラゴンクエストシリーズをプレイし、6以外は全てクリアしている自分からすれば、「ドラクエのストーリーが薄いのはいつものことだし、戦闘がヌルい(簡単)のもいつもどおり。そしてちょっとズレたユーモアセンスや世界観も昔から」ということで「ドラクエ9はいつものドラクエだった」と評価している。

私の評価はともかくとして、一度クリアしてやめたドラクエ9を、私がどうして再びプレイするようになったのか。今回の本題はここである。
ドラクエ9が発売されて、もう一ヶ月以上経つが、社会的には発売当初よりも、今のほうが盛り上がっている感がある。それはゲームの内容そのものというよりは、外に出かけた時に、これまで以上に電車や町中でニンテンドーDS(以下、DS)を開いている人が多くなった。私も、出歩く時はドラクエ9の「すれ違い通信」をセットしているのだが、これまでのゲームではあり得ないほどにすれ違い通信が成功する。一度、新宿のアルタ前から、新宿駅東口改札に降りる階段の前までの40秒程度で、3人との通信が成功した時はビックリした。
そして、すれ違い通信が盛り上がった結果、秋葉原のヨドバシカメラの前に、すれ違い通信専用の臨時スポットまで登場した。(*2) 私も数日前に通りがかったが、炎天下の中200人ぐらいの人がDSを開いていた。

私がもっとも力を入れてプレイしたドラゴンクエストシリーズは「3」である。1,2で高い評価を得たドラクエが、当時のファミコンブームと相まって、爆発的な売れ行きを記録した。発売日が平日だったためにニュースなどでは「学校をサボって行列に並ぶ子供」や「ドラクエ3目当ての窃盗や恐喝」などが問題視された。
私が近所のホームセンターの行列に並んで買ったのは、たしか土日だったのだと思う。地方(といっても北関東だが)の発売は数日遅れていた記憶がある。
行列に並んでさらに購入権を抽選する券を引いて、それが当たりだったときの嬉しさは、今でも思い出すことができる。それから数ヶ月は同級生たちも、みんなドラクエ3をプレイしており、話題には事欠かなかった。
今の豊富な遊びかたができるRPGと違って、「街に行って依頼を受けて洞窟などでアイテムを拾って、次の街へ」というお使いRPGではあったが、ゲームというものが社会生活の中に溶け込んでいた当時の状況自体が、私にとっては貴重な思い出となっている。
私は、電車の中で開かれるDSや、秋葉原のヨドバシカメラの状況を見て、そうした「かつてあった社会状況」を思い出したのである。そしてドラクエ9を再開したのである。
私はドラクエ9というソフトの凄さを、ゲーム内容からよりも、今のゲームが斜陽業界となりつつある現状で、こうした社会現象を引き起こしたことから感じ取ったのだ。
発売前から延々と続く批判は、「ゲームの内容」に向けて行われている。確かにそれは客観性のある批判なのかもしれない。
しかし、「ゲームは楽しむものである」という前提で考えれば、他のRPGと比べて、客観的にどうなのかという批判には、実は意味がない。仮にストーリー自体が稚拙だとしても、少なくとも街の至るところでドラクエ9をプレイしているユーザーを見ることができるというのは真実である。そうした社会的な「空気」を作ることができるということ、それもまたドラクエ9というゲームの実力といえよう。

私たちが生活していく上で、それはゲームでもドラマでも読書でもスポーツでも、それを楽しむというのは、その内部だけではない。ドラマであれば反響や周囲の人との会話、読書であれば内容を自分の人生経験にすり合わせて感想などを書いてみる、スポーツは自分でプレイするだけではなく、チームのファンになってみたり、他チームに罵声を浴びせたり。そうした「外部」にもたくさんの楽しみかたが存在している。
ドラクエ9の場合、すれ違いで地図を交換すること自体の楽しみもあるが、炎天下の中、すれ違いのためにDSを開き続けることすら、ゲームの楽しみなのである。それはプログラミングされた内容ではないけれども、子供はもちろん、大人たちにとっても、いい思い出となって、心に残り続ける。
「心に残る作品」なんていう言葉があるが、それは決して作品の内容だけのことではない。内側のことばかりにこだわらず、もっと「外」のことも含めて広い視野で評価していくべきではないだろうか。
それができるかできないかが、今後のゲーム業界がオタク向けのものとなるか、一般的なものとなるかの分水嶺のような気がしている。

*1:「ドラクエ」メガヒット確実 それでも酷評レビューが多いのは?(J-CASTニュース)http://www.j-cast.com/2009/07/14045331.html

*2:アキバの新名所?ドラクエすれ違いコーナーがヨドバシに出現 一時250人近い大賑わい(Impress Watch)http://akiba-pc.watch.impress.co.jp/hotline/20090801/etc_yodo.html

プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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