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夢と希望を与える天文学――天文の力で世界を平和に / 国立天文台普及室長、縣秀彦准教授インタビュー

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来年3月、国際天文学連合(IAU)が主催する世界天文コミュニケーション会議(CAP2018)が福岡市で開催される。世界中の天文学者や広報・アウトリーチ担当者、科学コミュニケーターやライターなどが集う本会議。IAUと国立天文台は経済的理由で参加が難しい途上国の科学コミュニケーターや学生を会議に招くため、クラウドファンディング(https://camp-fire.jp/projects/view/21790)に挑戦中だ。世界の平和のために天文学研究を活用して欲しい。そう訴える国立天文台普及室長、縣秀彦准教授に、途上国における天文学普及の重要性について伺った。(取材・構成/増田穂)

天文学は夢と希望を与える

――そもそも、IAUとはどのような団体なのですか?

IAU(国際天文学連合、International Astronomical Union)は、1919年に設立された、天文学者の国際学会です。世界中の天文学者が国単位で加入しています。天文学者は数が少なく、IAUの会員も1万2千人しか在籍していません。日本はその中でもアメリカ、イギリスに続く世界第3位の会員数を誇る、天文大国なんですよ。

――IAUは近年、天文研究の普及、特に発展途上国での普及に力をいれていますね。

はい。IAUは研究者の集まりですから、これまでは主に天文学の研究をしていました。しかし2009年には国連やユネスコと協力して、「世界天文年」という記念年を制定して、1年間、天文学の普及活動や数々の国際イベントを行いました。一連の普及活動の中で、天文学者たちは衝撃を受けました。他の分野の世界年に比べて、圧倒的な盛り上がりを見せたからです。

先ほども申し上げたように、天文学者は1万人ちょっとしかいません。世界73億人もいる中でです。とても貴重な存在ですし、発展途上国に研究者はほとんどいません。しかし世界天文年では、世界中が盛り上がりました。それは私たちのような専門家だけではなく、世界中の天文愛好家、アマチュア天文家、学校のクラブ活動など、いかに多くの人々が宇宙に関心を寄せていのかを物語っていました。

天文学は一般に算術・幾何や音楽と並んで、最も古い学問だと位置づけられています。哲学や他の基礎科学、物理や化学などと比べても、ずっと古来から存在するのです。機材や装置が必要な他の科学分野と比べて、なんといっても星空は誰の上にも平等に存在しますしね。天文学とは文化的な意味でも、個人的なアプローチとしても、とても身近な科学、「みんなの科学」なのです。2009年の世界天文年は、そうした天文学の普遍性を学者たちが再認識した年でした。

その事実を踏まえて、IAUはその後10年間の「戦略的計画」を打ち出します。この計画が、発展途上国で天文学を普及して、天文学をその国の発展のために活かしてもらおうというものだったのです。ここでポイントなのは、一連の普及活動は天文学発展が第一義的な目的ではないということです。

――と、いいますと。

この戦略的計画は、天文学を発展途上国の発展に活かしてもらうために立てられています。天文学や宇宙研究というツールを使って、途上国を支援するというものなのです。

写真提供:国立天文台

写真提供:国立天文台

――まさに、みんなのための科学としようとしているわけですね。

ええ。天文学はもっとも古い学問にも関わらず、ごく最近までは物理学の一分野と位置付けられてきました。しかし2009年の天文年以降、その時間的、空間的普遍性が再確認され、IAUでは天文学の定義を「Comprehensive Science(総合的科学)」と再定義しました。「総合的科学」とは、物理学に限らず、生物学や化学、または人文系の科学やテクノロジー等の複合体としての科学という考え方です。

この定義の変更は、日本の学術界にも影響を与えました。日本学術会議が昨年に発表した大学におけるガイドライン「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 物理学・天文学分野」でも、天文学は物理学とは異なる総合科学の分野という視点の芽生えがみられます。この議論を受けて、日本天文学会は総合科学としての天文学のガイドラインを作成中です。それだけ幅広く汎用性があり、多くの人が楽しむことができる。そういうみんなの科学を、発展途上国でこれまで科学に触れることが難しかった人たちに、まずはその入り口として提供する。南アフリカにはそのためのオフィスOAD(Office of Astronomy for Development)もあるんですよ。

――途上国では具体的にどのようなプロジェクトを実施されているのですか。

一つには、ユニバース・アウエアネス(Universe Awareness)といって、12歳以下の世界各国の子供たちに星や宇宙に関するさまざまなものに触れてもらうイベントを開催しています。その他には、現地の先生への支援ですね、ガリレオ・ティーチャー・トレーニングといいます。他にもいろいろと活動していますが、こうした活動を通じて、子供たちを中心に宇宙や星空の面白さを伝える活動、伝えるための支援をしています。

――天文学が途上国ではなかなか普及しないのはなぜなのでしょうか。

答えは明確です。天文学が文化的な活動だからです。人間というのは、まずはご飯を食べられないとダメなんですよ。まず満腹になる。そして家がある。生物としての根本的な第一次欲求が満たされないと、文化的な活動は始まりません。例えば日本の過疎地域で、地域経済が困っている場所に行って星や宇宙の話をしても、まともに取り合ってもらえません。「それじゃ飯は食えない」と言われて終わりです。

この10年で大きく変わりましたが、中国でも以前は宇宙の話をしてもだれも関心を持ちませんでした。高度経済成長期の日本と同じです。星や宇宙のことよりもどうやって食事にありつくのか、より多く稼ぐのかの方が重要だったのです。ですから、天文学の普及には社会的な豊かさというのが欠かせないのです。

――そうした途上国で天文学を広めることの重要性とはなんなのでしょうか。

今言ったように、生きるための欲求が満たされないと、天文学のような文化的な活動は行われません。しかし、子供のころはそうとは限りません。子供たちはお腹が減っていても一生懸命サッカーをしたりするでしょう。彼らには夢や希望があるんですよ。未来を見ている。夢や希望があれば、苦しい中でも志を維持したり、前向きな気持ちで生きることができる。

天文学はよく「すぐ金にならない」と言われたりします。それは全くその通りです。しかしそれでも天文学が必要なのは、天文学が未来を見せてくれるから、夢を与えてくれるからなんです。天文学は空間軸の他にも時間軸を使う、4次元で物事をとらえる学問ですから、過去や未来が見えます。そうした大きなスケールで世界を俯瞰して見る視座に立つと、こんな小さな星の上でいがみ合っていることが馬鹿馬鹿しくなってくる。

違う人間が共に生きるのですから、たまには喧嘩もするでしょう。しかし殺し合いまでするのは愚かな行為です。その人間の愚かさを越えていくためには、我々の生きる世界がいかに広いのか、そして地球という星で生きる我々が、いかに近い存在であるのか、いがみ合うような存在ではないことを理解する必要があります。そこで、今申し上げたような天文学の俯瞰性が役立つのです。

天文学は確かにすぐにはお金になりません。しかし生きる上でもっと大事なことを教えてくれる。私はそう思っています。

写真提供:国立天文台

写真提供:国立天文台

――天文学が、生きる支えになると。

ええ。これは日本の話ですが、身投げをしようとしていた女性が、立ち寄ったサイエンス・カフェで星や宇宙の話を聞いて、「ああ、私の悩みはなんてちっぽけなんだろう」と感じて、自殺を思いとどまったという話があります。より社会的な文脈ですと、コロンビアのメデジンで、武装集団の若者たちがプラネタリウムを見てから武器を捨て、学校に通いだしたという実話があります。

――コロンビアと言えば、ギャングが横行し殺人率が高いことでも有名ですよね。

そうです。メデジンはコロンビア第2の都市ですが、特に殺人事件などが多い都市でした。この十数年で状況は徐々に改善されています。しかし、未だにギャングなどの間でいざこざが散発しています。そのメデジンに、2012年に近代的なプラネタリウムが完成しました。そこにナイフやライフルを抱えたギャングの若者たちがやってきた。プラネタリウムでは地球や宇宙の吸い込まれるような映像が放映されました。番組が終わって帰るとき、15歳くらいのギャング団のリーダーが皆に武器を捨てるように言ったそうです。「これまでずっとテリトリー争いをしてきたけど、宇宙から見たら地球全体が俺たち人間のテリトリーなんだ。こんな小さな町の中でいがみ合っていてもしかたないじゃないか」と。以来彼らは武器を捨て、学校に通っているそうです。

――印象的なエピソードですね。

ええ。視野が変わると人間は変わります。宇宙空間を体験するということは、空間的にも時間的にも視点を広げることです。こうした天文学の可能性を最大限に活用してもらうためにも、発展途上国をはじめとして、多くの地域で星や宇宙に接する機会を提供していきたいのです。

――縣先生はご自身も途上国で天文普及活動をされていますが、やりがいを感じる時はどんな時ですか?

やはり人間にとって最初の経験は大きなインパクトを持ちます。流れ星でも、日食でも月食でも、初めて天体望遠鏡で天体を見ることでも構いません。何かしらのかたちで、子供たちや、それまで経験のなかった大人たちが、初めて宇宙に触れる経験をして、感動して喜んでくれる。その時間を共有できた時が何よりうれしいです。

こうした経験は途上国での普及活動に限りませんが、例えば日本では、私がやらなくても他にそういう機会を提供してくれる人が他にたくさんいます。だからなんとなく、自分がやらなくてもいいかな、と思ってしまうんです。

しかし発展途上国では、国内にいる普及活動家が限られますから、外から誰かが行かなければなりません。モンゴル、タイ、カンボジア、インドネシア、南アフリカ、ナイジェリア、いろいろな場所に行きました。そういうところに行くと、望遠鏡を見るのも、星の話を聞くのも初めてという人たちがたくさんいます。そういうところで望遠鏡を覗いてもらう。星を見てもらう。そうすると涙を流して感動してくれたりするんです。

私は大したことはしていません。望遠鏡を用意して、少し話をするだけです。しかしそうやって喜んでくれて、博物館にその時の話が写真と一緒に飾られていたりする。そのくらいうれしい出来事だったのだと思うと、そうした機会を提供できたことにとても喜びを感じます。

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