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【赤木智弘の眼光紙背】あとは野となれ山となれ

3月28日に始まった、高速道路の土日祝日1000円乗り放題。
ゴールデンウィークには各地で渋滞が発生し、高速道路沿いの観光地は多いに賑わった。
こうした好評に気を良くした国土交通省は、8月のお盆期間の平日などにも1000円乗り放題を適用しようと考えているようだ。(*1)
しかし、1000円乗り放題に反対を唱える人たちもいる。27日に九州バス協会が、割引拡充に反対する要望書を国土交通省などに提出したという。
ゴールデンウィーク中の高速バス利用者が激減したばかりではなく、1000円だからと高速に乗った多くの自家用車のために大渋滞が発生し、所要時間が倍以上になってしまったという。(*2)

九州バス協会の批判は、当たり前の話である。
そもそも、これが景気拡大策だというなら、高速道路やETCというシステムだけに優先的に税金をつぎ込むのではなく、すべての交通機関に対して、一律の値下げ等を行うべきであった。
しかし、どうした利権構造なのか、わざわざ「ETCをつけた車に対して高速道路のみ」の値下げを行ってしまったことにより、これまでは競争原理でやっていた公共交通のバランスが崩れてしまった。
5月25日には、広島県の呉市と松山市を結ぶ「呉・松山フェリー」が6月末をもって航路を廃止、会社を精算すると発表した。(*3)
まだ1000円乗り放題が始まって、わずか2ヶ月である。これからの夏休みシーズンや、秋の行楽シーズン、そして年末年始。高速道路以外の公共交通機関はこれらを乗り越えなければならない。2年の期間が終わった時、果たしてどれだけの公共交通機関が生き残ることができるのだろうか? 考えるに恐ろしい。
 
確かに景気に対する一時的な効果はあるのかもしれない。
ゴールデンウィークの渋滞は、それだけ多くの家庭が外に出て、お金をつかったということではあるのだ。
しかし、それに対する代償が、これまで積み上げてきた公共交通機関の崩壊というのでは、あまりに割があわないのではないか?
それがもし「健全な自由競争の結果」であるなら、仕方ないだろう。競争の結果であれば、勝ち残った公共交通機関が、潰された公共交通機関の代替となる。しかし、政府の一方的で過剰な肩入れによって自由な競争が阻害された結果の公共交通機関の崩壊は、決して代替物を残すことはない。やがて高速道路の値段が戻ったときに、人々は割高な高速道路以外の選択肢を失うのである。

かつての日本の産業は、強力な行政指導を用いての護送船団方式によって守られていたと言われる。それは自由競争を阻害するものであったが、一方では産業を守り、ひいては人々の雇用を守るということにも繋がっていた。
そして護送船団方式が立ち行かなくなると、今度は自由競争の効用を最大化するために、構造改革が行われた。それは人々の雇用を脅かしたが、傾きかけた日本経済を支えるには仕方のない部分もあったのだろう。
しかし、今現在「未曾有の不況」という錦の御旗をもって掲げられているこの政策は、一体何なのだろうか?
一部の企業を国の力によって強烈に守り自由競争を阻害することによって、競争力のない企業が潰されていく。護送船団方式と構造改革の悪い部分のみを切り出したかのようなだ。
その結果、私たちが得られるものは、一時的なカンフル剤的効果と、交通渋滞だけだ。

考えてみれば、そうしたメンタリティーは、バブル崩壊以降の日本人の心情そのものではないか。
経済危機の旗の下、後先を考えず強者だけの利益を優先し、闇雲に雇用を守り、新しい人たちを非正規労働に追いやり、社会としての教育を放棄した。そしてそれを正当化するために、正社員たちを一生懸命持ち上げ、非正規労働者を卑下し、自己責任論を浸透させていった。
その結果、弱い公共交通機関が潰されるのと同じように、日本を支える若い労働者はどんどん潰されていく。そしてやがて気付いた時には、どうにもならないレベルで公共交通機関や、労働者という社会を構成する基礎が破壊され、多くが失われる。
でも、その時には利益を貪った連中は、老齢で死んでいるからどうででもいいのだ。団塊世代の一時的な利益さえ守れば、あとは野となれ山となれ。

そうした意味で、高速道路1000円などという政策を行う麻生政権というのは、実に民意を正しく反映した政権といえよう。

*1:お盆期間は「平日も高速1000円」検討 国交相(産経新聞)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090514-00000564-san-pol
*2:「1000円高速」広げないで 九州のバス業界が要望(共同通信)
http://www.47news.jp/CN/200905/CN2009052701000813.html
*3:ETC割引あおり、「呉・松山フェリー」廃止し会社清算へ(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20090525-OYT1T00915.htm


プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「「当たり前」をひっぱたく」。

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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