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高齢化による不足分は経済成長で補うことができる。グローバル化やAIなどを加味した長期的なビジョンを打ち出すべき - 「賢人論。」第40回加藤久和氏(前編)

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明治大学政治経済学部の教授として「人口経済学」の観点から高齢化社会を分析する加藤久和氏。人口と経済の間には密接な相互関係があり、少子高齢化は国力を低下させる一因となると語る加藤氏。前編では、超高齢化社会である日本がグローバル世界を生き抜くための条件を提示する。

取材・文/佐藤 舜(編集部) 撮影/小林浩一

人口から経済を、経済から人口を分析するのが「人口経済学」

みんなの介護 この研究室には、すごい量の本が積まれていますね。ぜんぶ経済学の本ですか?

加藤 そうですね。あとは研究対象である社会保障と人口問題、それと財政関係の本が多いです。

みんなの介護 同じ分野の専門家で以前「賢人論。」にお越しいただいた小黒一正さんともずいぶん親交が深いそうですね。

加藤 小黒さんとは考え方が近いこともあって、いろんなプロジェクトでご一緒させていただいています。

みんなの介護 中でも加藤先生のご専門は「人口経済学」という研究です。あまり聞き慣れない言葉ですが、これはどのような学問なのでしょう?

加藤 人口経済学には2つのアプローチがあります。ひとつは、人口の変化が経済にどのような影響を与えるかを研究する方向。もうひとつはその逆の見方です…経済社会の変化が出生率や人口移動などにどう影響を及ぼすか。このような、人口と経済の相互依存関係を研究するのが人口経済学なんです。

みんなの介護 「人口が経済に与える影響」、それと「経済が人口に与える影響」。この両面から研究するんですね。例えば社会から若い人口が減ると労働力が低下し、その結果として経済が行き詰まるということは想像しやすいです。

加藤 そういう具合に、人口が減ってしまったらどんな対策をすればいいのか、ということも含めて総合的に考えていくんです。若い人口をこれ以上減らさないための対策を練ったり、あるいは増えないとしても、人口が減って労働力も減ったら、生産性を上げて対応する工夫など、考え方はいろいろとありますからね。

経済にはいろいろな要素がありますが、人口はその中でも最もベーシックなものであると言えます。介護、医療、年金をはじめ、あらゆる物事にダイレクトに影響しますからね。

みんなの介護 人口が減少することで生じる問題の中で最も大きなものは何だと思いますか?

加藤 経済成長の低下ですね。しかもそれは、単純に労働人口が減ることが理由なのではなく、生産性が低下することに起因するものなんです。日本はかつて経済成長を経験しましたが、それは決して労働人口が増えたことによるものではなかった。技術の向上など生産性が上がることのほうが、人口や労働力人口が増えるよりも経済の発展に寄与する要素でした。

若い人が減ることで、労働力が減ること自体も問題ですが、それ以上に社会全体のクリエイティビティが低下することの方が問題なんです。若さ由来の創造性が乏しくなってしまうだけでなく、人口が減れば、その中から革新的な人物が出てくる可能性も低くなってしまいますから。

短期的な施策だけでなく、長期的な経済ビジョンを立てるべき

加藤 高齢化問題が大変だと世間では言われていますけれども、そもそも経済がすごく順調でどんどん成長していればそれほど大変なことではないんです。例えば、若い人が少なくなったので高齢者を支えるのが苦しいと言いますけれども、もし若い人の所得が増えていっていたらそれだけ楽になるでしょう。

つまり、高齢化して若い人が減ったことによるデメリットは、経済の成長によってある程度カバーできるんです。そのためには生産性の向上が重要です。

みんなの介護 人口問題を考える上で重要なのは、人口の総数だけでなく生産性に影響する若者の数もそうなんですね。

加藤 先日出た最新の人口推計によれば、2065年には人口は8800万人にまで減少しているそうです。現在と比べればとても少ないように思いますけれども、実は昭和の高度成長期の初期だって日本はそれくらいの人口だったんです。ではなぜ問題になるかというと、2065年と昭和のその当時とでは人口構造が違うからです。2040年には高齢者(65歳以上)の人口が4000万人に近づきます。

人口ピラミッドを富士山型に戻すのは無理でも、せめていまよりも若い人口を厚くして、足りない分は、経済を成長させて国民ひとりひとりの豊かさを上げ、若い人口を少しでも今のトレンドで推計されるよりも増やしていく。それが最善の戦略だと思うんです。それが実現できるかというとまた難しいところですけどね。

みんなの介護 人口政策を考える上で重視すべきポイントは何だとお考えですか?

加藤 5年後、10年後などの短いスパンの話ではなくて、30年単位の長期的な目でみたときに、持続的に経済が発展する仕組みをつくらなければいけないということですね。

みんなの介護 アベノミクスは視野が短期的だった、と以前別の記事でお話しされていましたね。

加藤 全部が全部そうだったわけではないですよ。デフレや政府債務、2020年までのプライマリーバランス(歳入と歳出のバランス)の黒字化達成、物価上昇率2%の達成など、そういう短中期的な対策はもちろん大切です。

しかしもっと長期的な、グローバル化、IT化、AIや、環境系の技術を開発していくなどのビジョンをつくって、そこに向かって経済が発展していくような戦略も一方では取っていかなければなりません。一方、希望出生率1.8を打ち出すなどの政策についてはもっと評価されていいと思います。

みんなの介護 日本の得意分野である生産技術を活かすんですね。

加藤 日本は技術が得意だというのも昔の話ですけどね。いまは日本の技術と中国の技術がそれほど変わりはないという話もあります。そんな中でもう一歩日本が発展するためには、地道なことを続けていくことが大切です。

“地道”というのは、大臣や政権が交代するたびに方針がころころ変わるのではなく、とにかく一貫した戦略を続けていくという意味ですよ。しかもそのスピードが加速していけばなお良い。よく話題になる介護のロボット化は、技術が十分整うまでには50年はかかるだろうという話もありますから。

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