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森長官"異例の3年目"地銀が落ち込む理由

政府は7月4日、金融庁の幹部人事を発表した。森信親長官と次官級の金融国際審議官のほか、総務企画、検査、監督の3局長はいずれも留任する。人事の情報は、発表前から報じられていたが、地方銀行の幹部は落胆をかくさない。さらには「地方創生の責任をこれ以上押し付けるな」と怒る。異例の3年目に突入した森長官の狙いとは――。

■「経営に行き詰まる地銀が出てくるかもしれない」

7月4日、地方銀行の多くからは、失望や落胆の声とともに、苦悩のうめきも漏れたに違いない。

政府は7月4日、金融庁の森信親長官と総務企画、検査、監督の3局長が留任する幹部人事を発表した。ある関東地区地銀の役員は、「事前に雑誌辞令が出ていたので、森長官の留任は予想していたが、実際に留任となると気が重い。これからの1年、経営に行き詰まる地銀が出てくるかもしれない」と肩を落とした。

森長官の留任に、地銀業界が落胆するのには訳がある。日本銀行が16年2月にマイナス金利政策を導入してから、初めての通期決算となった17年3月期決算。金融庁のまとめによると、本業の収益から国債等債券損益などを差し引いた「実質業務純益」は、都市銀行(みずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友銀行、りそな銀行、埼玉りそな銀行)で前期比13.2%の減少となった。第二地方銀行41行も合計値が同16.0%減と都市銀行を上回る減益だったが、もっとも減益となったのは地方銀行だった。地方銀行64行の合計値は同19.8%減と約2割も収益が減少した。

■減益の原因はマイナス金利政策

減益の原因は、日銀のマイナス金利政策にあるのは間違いない。この政策により、銀行の本来の収益の源泉となる預貸金利ザヤ(貸出金利-預金金利)が一段と縮小したためだ。従来、預貸金利ザヤが縮小による利益の減少をカバーするには、小売業の薄利多売のように貸出量の拡大することで利益増加を図ってきた。しかし、少子高齢化の進展による人口減少、地方の過疎化という経営環境の中では、地銀は貸し出しのボリュームアップによって、利ザヤ縮小の影響による収益の減少をカバーすることはできなかった。

ただ、問題はそれほど単純ではない。地銀の経営環境が逆風状態にあり、資金需要(特に新規需要)が乏しいのは、当事者の地銀は十分にわかっている。そこで、地銀ではいくつかの対策を進めた。その中心となったのが、有価証券運用だ。しかし、これに対して森長官は、「地銀以下の業態による有価証券運用には、運用体制面や運用ノウハウなどで問題のあるところも多い」として、地銀以下の有価証券運用の検査を厳しくした。

森長官の求める地銀のあり方とは、「銀行は創意工夫を行い、地域に役立つ融資を行い、地方創生を推し進めること。融資は、原則として無担保・無保証であるべき」というものだ。この方針は、もちろん安倍晋三政権が進める地方創生に足並みをそろえた、むしろ安倍政権のリクエストに応えたものだ。事実、安倍政権の地方創生政策の柱のひとつとして、地銀による地方活性化が入っている。

■頼みの「カードローン」も自粛へ

しかし、地銀業界には、「一地銀が頑張ったからと言って、地方が創生するような生易しいものではない。少子高齢化、地方の過疎化を放置したこれまでの政府の無策を、地銀に押し付けるのはおかしい」(地銀役員)との声は多い。

また、銀行業界はマイナス金利下での収益対策のひとつとして「カードローン」を積極的に推進した。カードローンは、マイナス金利下にあっても貸出金利に相応の金利が適用でき、さらに、その多くが無担保・無保証であるため、森長官の求める「無担保・無保証の融資」という条件にもマッチした。

だが、今度は消費者団体から火の手が上がった。70年代後半から80年代半ばまでの“サラ金地獄”が連想されたのか、カードローンの積極的な推進の自粛を求める声が高まった。これに、金融庁も同調したことで、結局、銀行業界は自粛方向に方針を転換せざるを得なくなった。

■「銀行は収益源を失うことになる」

こうした状況下、「金融庁が進める無担保・無保証融資の推進や、新規事業に対する積極的な融資というのは、大きな貸し出しリスクを内包している。有価証券運用におけるリスクを金融庁は厳しく指摘するが、金融庁が進めるように指導しているこれらの融資も相当のリスクがあり、危険性は変わらない」(別の地銀幹部)と反発する。その背景には、金融庁から厳しい指導が続けば、「銀行は収益源を失うことになる」(地銀幹部)との危機感がある。

日銀が4月に発表した「金融システムレポート」でも、「預貸利ザヤの低下傾向が続く中で、金融機関が収益維持の観点から過度なリスクテイクに向かうことになれば、金融面での不均衡が蓄積し、金融システムの安定性が損なわれる可能性がある」とし、そのうえで、「収益力の低迷が続き、損失吸収力の低下した金融機関が増えれば、金融機関全体でみた金融仲介機能が低下して実体経済に悪影響を及ぼす可能性も考えられる」と指摘している。

地銀の中からも、「これ以上に収益力が低下するようであれば、地域経済にとって十分な融資を実行する体力がなくなる可能性がある。地銀として森長官が期待する地方創生の柱の役割を果たせなくなる」(地銀幹部)という悲壮な声が聴かれる。

しかし、こうした地銀の声が金融庁の方針に反映されることはなく、むしろ金融庁は方針を強力に進めている。「森長官は、銀行とのコミュニケーションの構築ため、金融行政の問題点についても積極的に指摘してほしいと言ってはいるが、その姿勢は安倍政権のための金融行政であり、決して銀行のための行政にはなっていない」(別の地銀幹部)と手厳しい意見もある。

■「また1年続くとは、悪夢のようだ」

地銀にとって、人事異動による森長官の退任は、「心待ちにしていた朗報」になるはずだったが、その夢はもろくも崩れた。「森行政がまた1年続くとは、悪夢のようだ」と悲痛な真情を吐露する地銀関係者もいる。

金融庁関係者によると、森長官は「自分は地位や立場に固執して留任するのではない。安倍政権、官邸から請われて留任するのだ」と言っているようだ。それだけ、森長官は安倍首相や政権の意向を汲んだ政策を進めてきたのだろう。

“一強”と言われた安倍首相の権勢は、森友学園問題、加計学園問題を契機に、東京都議選の自民党大敗という形で、明らかに衰えが見えてきた。安倍政権を後ろ盾に、強硬に金融行政を進める森長官の権勢は、この先も衰えずに進むのだろうか。

(ジャーナリスト 鷲尾 香一 写真=時事通信フォト)

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