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【赤木智弘の眼光紙背】子供を生まないことこそ、親の責任である

時事通信のニュースによると、民間の調査で、お金がないと結婚できないと考えている新成人が、85%にのぼっているという結果が出たそうである。*1

意見としては、私もまったくの同意見であり、お金をもっていない者同士が結婚しても、ろくな結果にならないと考えている。
「貧しくとも、結婚をすればそれなりに幸せに暮らせる」という意見もあるだろう。
しかし「貧しくとも幸せに暮らせた」のは、経済成長によって「将来がよくなる」ことが、国民生活全体の前提として存在した時代のことであり、がんばっても将来はどうなるかわからない現在の状況においては、結婚をしたところで幸せに暮らせる保証など存在しない。そうした社会においては「貧しくとも」という言葉は、あまりに現実を知らぬ寒々しい言葉に聞こえる。
とはいえ、貧しい男女であっても結婚して一緒に暮らせば、家賃や光熱費を折半できるし、自炊にしても一人分を煮炊きするよりも、二人分ぐらいを作る方が材料費も安く済む。
しかし、結婚をするということは、日本においては同時に「子供を産み、育てる」ということにほぼ等しい。結婚しても子供を持たない生き方をする夫婦も増えてはいるが、やはり子供を育てない親(特に母親)に対する圧力は、依然として正当化されたままだ。そうした社会では、ルームシェアの延長として結婚を考えることはできない。
「結婚すること=子供を産むこと」と社会によって規定されてしまっている以上、子供を育てることのできない収入では、結婚しないと考えるのは当たり前といえよう。

こうした意見に対して、当然「貧しくても、昔の親は子供を育ててきた」という意見が上がってくるのだろう。
この言葉が、先程の「貧しくとも、結婚をすればそれなりに幸せに暮らせる」という言葉と少し違うのは、子を産んで育てるということが、大人の社会責任として考えられているという点である。幸不幸は個人的な話にすぎないが、子供を産まない大人が増えれば、子供の数が減り、日本という社会全体に対する損失となる。
だが私は、そのような社会的損失を考慮しても、貧しい若者たちは子供を産むべきではないと考えている。

子供を産み、育てるということは、当然「新たなる命を育む」ということである。
そしてその命は一個の人格であって、尊ばれるべきである。
しかし、非正規労働者の問題を見てもわかるように、いまこの日本は、一人の人間の人格が尊ばれる社会ではない。
ならば、むしろ子供を産まないことは、子供の人権をもっとも尊重する選択といえるのではないか。

かつて、貧しいながらも、子供を産み、育てることができたのは、社会が右肩上がりの経済成長を続けていたからである。では、そのまえはどうだったのかと言えば、親は子供を大量に生んだが、男の子は当然のように労働力としてこき使い、労働させるだけでは生活が苦しいとなれば、口減らしに奉公などに出していた。女の子は家の手伝いをさせ、それで生活が苦しければ、女郎屋に売っていたのである。
こうした子供に対する意識は昭和初期まで続いていた。そうした社会においては、子供は人間というよりも、家畜の延長であった。まぁ、女郎屋は少し古すぎるかもしれないが、今生きているお年寄りでも、幼いころに丁稚奉公に出されたり、女工さんとして働いた人は少なくない。

たしかにその後、子供の人権という概念が社会に普及し、少なくとも表層的には子供を親の所有物とみなす考え方はなくなったかのように見える。
しかし、本当に今の子供たちに対する視線は、そうした野蛮な時代と違うと言えるだろうか?
年金制度においては、子供たちに高額な負担を押しつけ、教育においては、自分たちの自助努力を差し置き、今の社会不安を若者のせいにし、子供たちに教育を押しつけて解決を図ろうとしている。
「子供をたくさん産み、子供に教育を施せば、私たちが抱えている社会問題のすべては解決する」そんな幻想を、この社会は子供たちに対して押しつけているのではないか。
とても当たり前の事を言うようで申し訳ないが、今の社会問題は、今現在大人である私たちが解決するべき問題であって、子供たちの成長に青天井の期待をもつべきではない。いや、それは期待よりも、もっとドス黒い欲望である、私たち大人は、子供を産み育てるということを社会責任と位置づけることにより、今の問題に対する「免罪」を期待してしまっているのではないか?

私は子供を育ててはいない。もちろん経済的な事情に寄るところが大きい。
しかし、私が仮に十分な経済力を持っていたとしても、社会が子供を利用し尽くす現状では、まだ見ぬ我が子を愛し、彼らに対する責任を大人として負おうとすればこそ、子供を生もうと思わない。少なくとも私はそうだ。
社会責任は大人が自らの責任において負うべきであり、将来に先送りしてはならない。
私自身が、大人に利用尽くされ辛酸を舐めさせられてきた就職氷河期という世代の人間だからこそ、あとの世代に、こんな苦労をさせたくない。
セックスをすれば子供は産まれるかもしれないが、子供を育てるには、大人である我々の絶えざる努力が必要なのである。それを子供や、子供を産まないことを選択している若い世代の責任にするべきではない。

*1:「お金ないと結婚無理」8割超=新成人、将来に不安−民間調査


プロフィール
赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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