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司法の世界でも「リハビリ」の仕組みを〜元厚労省事務次官・村木厚子さんが語る「治療的司法」の重要性

薬物犯罪など再犯率が高い犯罪者が抱える依存症などの問題を解決することで、再犯防止や社会復帰を推進する「治療的司法」というアプローチが注目されている。その日本初の専門機関である「治療的司法研究センター」が成城大学(東京都世田谷区)に設立された。同大では6月10日に設立記念講演会が開かれ、元厚生労働省事務次官の村木厚子さんが基調講演で「医療の世界と同じように、刑事司法の世界でも『リハビリ』の仕組み作りが求められている」と語った。

司法が医療・福祉と連携して犯罪者の「治療」をはかる

元厚生労働省事務次官の村木厚子さん(撮影:亀松太郎)


治療的司法は1980年代にアメリカで提唱され、欧米を中心に世界各国に広がっている新しい司法の考え方だ。薬物乱用や窃盗などの犯罪は、依存症に陥って、何回も同じ過ちを繰り返してしまうケースが少なくない。そうした犯罪に対して、従来は国家が刑罰を科すという制度が運用されてきたが、治療的司法では、医療や福祉と連携しながら犯罪をおかした人を治療していくことで、再犯を防止していこうとしている。

成城大学の指宿信教授がセンター長をつとめる治療的司法研究センターは、海外の事例や理論を紹介しながら、日本の法制度における「治療的司法」のあり方を研究していく。「犯罪者の再犯防止や社会復帰を推進したり、依存症から離脱するための手立てを、いまの制度の中に盛り込んでいくことができればと考えている」(指宿教授)

設立記念講演会では、村木さんが「『罪を犯した人』のことを考える」と題して講演。郵便不正事件で「無実の罪」に問われ、5カ月間も拘置所に逮捕・勾留されたときの経験をもとに、「再犯を防止するためには適切な支援をしていくことが重要」と訴えた。

「可愛い素直な子たちがなぜ刑務所にいるのか」

村木さんは、厚労省の雇用均等・児童家庭局長だった2009年、実際には罪を犯していないにも関わらず虚偽有印公文書作成・同行使罪で逮捕・起訴され、大阪拘置所で164日間も身柄を拘束された。拘置所には、女性の受刑者たちもいて、村木さんに食事を運んだり、洗濯物を受け取ったりしていたという。

そこで見た受刑者たちの様子について、村木さんは次のように語った。

「食事を運んでくるのは、若くて可愛い女の子なんです。職員さんに指示されたことを素直に一生懸命聞いてやっている。本当に可愛くて、どうしてこういう子がここにいるんだろうと不思議に思いました」

取り調べを受ける立場だった村木さんが、担当の検事に「あの子たち、すごく可愛いけど、何をした人ですか?」とたずねると、薬物犯罪が一番多く、売春もあるという。

「刑務所にいる人というと、悪い子、荒んだ子のイメージが強いですけど、およそそうでない、あれだけ可愛い素直な子たちがなんでここまで来なければいけないのか。これは、まず最初に不思議に感じたことです」

また、面会や運動のために拘置所内を移動すると、他の受刑者を見かけることがある。「精神疾患をわずらっていると分かる人もたくさんいて、生きづらさを抱えた人たちという印象を持つようになりました」

村木さんは、法務省の矯正統計年報のデータを示しながら、受刑者には知能指数の低い人が多いと指摘した。知的障害者とのボーダーラインとされる知能指数70台の受刑者もかなりいるという。「ずる賢くて頭のいい人が刑務所にいるというイメージとは違いますよね」と、村木さんは語った。

満期出所者の2人に1人が再び犯罪をおかしてしまう

矯正統計年報では、2014年に新たに刑務所に入った受刑者のうち、約6割は再犯による再入所だったという。再犯率の高さが指摘されている。また、満期で刑務所を出た者のうち5割が5年以内に再犯に至ってしまうというデータもある。

このように再犯率が高い現状を変えるために、刑務所の中と外の両方で根本的な原因を解決する仕組みを作らなければいけないと、村木さんは指摘した。

「刑務所を出た後、どうやって刑務所に行くことになった理由を解決するのか。社会とのつながりを回復したり、薬物の治療をしたり。いろいろな困難が襲ってきたら、その困難の一つ一つを解決する。IQが低すぎて就職できなにならば、障害者用の訓練をする。原因にきちんとアプローチできる仕組みを作る。刑務所の中だけでなく、外側にもその仕組みが必要になってくるんだろうと思います」

そうした再犯を防ぐための仕組みづくりが必要だと、村木さんが強く考えるようになった背景には、拘置所での体験がある。塀の中の「守られた平和な生活」に慣れてしまうと、体力や社会的なスキルが低下してしまうのだという。

「まず、三食、栄養バランスのいい食事が出ます。洗濯もやってもらえます。そのため、生活のスキルが全然身につかない。さらに閉じ込められた生活で、足の力がどんどん落ちていく。もう一つは、誰とも話さない日が続くので、声が出なくなります」

そんな引きこもりのような生活は、見方を変えれば「守られた暮らし」であるため、平和な気持ちで暮らすことができる。しかし、塀の中にいる間に、外へ出たときの準備が十分にできるわけではない。「実際に拘置所から出てみて思ったのは、非常に外に出るのが怖くて、人とすれ違うのが怖かった。しばらく家の中に閉じこもっていました」

刑事司法の世界にも「リハビリ」の仕組みづくりを

犯罪者に刑罰を科すことを原則とする現在の司法制度では、受刑者が出所後にどう暮らしていくかという視点は軽視されがちだ。そのため、多くの者が、塀の外に出たときにうまく社会になじめず、また犯罪を繰り返してしまうのだ。村木さんは医療の例を出しながら、次のように説明する。

「最近は医療の世界も変わり、入院期間が短くなりました。必要な治療を集中的にやって、外へ早く出る。病院にいるときに、暮らしの中で役立つリハビリをやって、病院から出た後もリハビリを取り入れて、できるだけ早く普通の暮らしに戻る。医療の世界は変わりつつあるが、刑事司法の世界はまだそれができていないということなんだと思います」

村木さんはこう述べながら、司法の世界でも「リハビリ」の仕組みを作る必要があると強調していた。

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