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【赤木智弘の眼光紙背】評価可能性のない「努力」などさせてはいけない

大阪の橋下徹知事が、府立国際児童文学館を、私設秘書に無断でビデオ撮影させて、その映像から「子供が漫画ばかり読んでいて実際は漫画図書館」「なんの変化もなく、努力の形跡が見受けられない。やる気がないのではないか」などと評した。
また、無断での撮影については「民間なら当たり前のリサーチ」と、当然の行為であると主張している。(*1 *2)

まぁ、話としては、文学館の存在意義は本の所蔵と、研究に対する適切な資料提供であって、来館者数ではないということを全く分かっていない橋下府知事が、すでに決定させた国際児童文学館の廃止を正当化するために、更なるイチャモンをつけているに過ぎない。
撮影したのも、一般人に紛れて無断で撮影したのだから、一般人の入ることができない文学館の本体である書庫ではなく、一般に開放されている開架書架に過ぎず、それだけで「文学館が努力をしているか」など、判断できるはずもない。
そもそも文学館の来館者数を問題にし、それが増えればOKで、減っているからダメだという橋下府知事の姿勢自体が、一般店舗とは異なる文学館の存在意義を理解していないとしか思えない。
無断での撮影についても、確かに民間ではチェーンストアーでの「ミステリーショッパー」などがあるわけだけれども、それは接客評価のプロがその経験から客観的に判断を下しているのであって、文学館の存在意義も知らない橋下府知事に、なにが判断できるのかは不明である。
このこと自体に対しては、ネットの書込みに見つけた「動物園にいって、ライオンが芸をしていない、イルカがジャンプ芸をみせないといって非難するようなもの」というたとえが最も言い得て妙だと、私は感じた。
動物園に例えると、旭山動物園の例が出てきそうなのだけれども、文学館が動物園と同じように賑わったら、とてもではないが本など読めないだろう。

私がこの件で最も象徴的に思うのは、橋下府知事が言う「努力」という言葉である。
橋下府知事は「努力」というが、果たして府立国際児童文学館が行う努力は、誰かに評価される機会があるのだろうか?
そもそもこの施設はすでに廃止が決定している。それに対して、府立国際児童文学館が仮に来館者数を増やしたところで、橋下府知事は「来館者が増えているので、府立国際児童文学館を存続させます」なんてことを言うのだろうか? 多分誰もそんな可能性があるとは思ってないだろう。 
こうした状況は非正規労働者の現状と同じである。周囲からは「努力をしろ」と言われる。しかし、努力をしたところで、誰も評価しないし、待遇が良くなるわけではない。そのような状況が当たり前になれば、当然努力をするだけのインセンティブは失われる。
ならば当然「努力しろ」という人間には「その努力を評価する責任」が発生するはずだ。ところが日本ではほとんど「努力を評価する責任」の必要性が論じられることはない。
まともな指標もなしに「権限のある人間が認めれば努力の結実」であるとされ、地道でまっとうな努力よりも、おべんちゃらやコネ、そして付け届けなどのコミュニケーション能力が最優先される。それは、まさに橋下自身が指摘した、腐敗した大阪の(まぁ、大阪に限らないのだろうけど)公務員たちの実態である。

だからこそ、橋下は努力の指標を「来館者数」に求めた。指標もなく、何に対して努力をすればいいのか分からない現状で、「とにかく来館者数で判断する」そう判断したのだろう。
しかし、文学館の存在意義は来館者数にあらわれるモノではない。ズレた指標はせっかくの努力を間違った方向にゆがめてしまう。
橋下は行政サービスに指標を提示しようとしているのだから、ならばもう少しちゃんと考えて、その施設を最大限活用できるような努力に至るような、まともな指標を提示するべきなのである。
ところがこうやって、土日に一般人が立ち入れるような場所だけを見て、子供が漫画を読んでるからどうのこうのなどという発言しかできないから、橋下の言動はイチャモン止まりで「努力の形跡が見受けられない」のである。

*1:MSN産経ニュース http://sankei.jp.msn.com/politics/local/080906/lcl0809061142003-n1.htm
*2:毎日jp http://mainichi.jp/select/seiji/news/20080907ddm041010112000c.html


赤木智弘(あかぎ・ともひろ)…1975年生まれ。自身のウェブサイト「深夜のシマネコ」や週刊誌等で、フリーター・ニート政策を始めとする社会問題に関して積極的な発言を行っている。近著:「若者を見殺しにする国

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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