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理不尽なルールは正していこう

奄美大島から関西空港に飛ぶバニラエアの便で、車椅子の客に対してタラップを自力で這い上がらせたという問題(*1)について。

まず、僕の結論としては、少なくとも最初からバニラエアは、就航開始の3月26日から、昇降機が装備される予定であった7月下旬の間まで、タラップを介助者の助力を得ても足で昇り降りできない障害者を、安全のためとして断る運用をしていたと理解している。

これは「障害者に対する合理的配慮を欠いている」と結論づけざるを得ないと考える。合理的配慮の欠落とは、決して表立って見下すということではなく「4ヶ月位なら、断り続けても平気だろう」と高をくくっていたことを指す。

今回の問題を経て緊急配備されたアシストストレッチャーは市販で15万円ほどの品物であり、昇降機設置までの4ヶ月を凌ぐために、その程度の装備すら設置できなかったということは、どのような言い訳も成り立たない。そう考える。

しかしネットでは、車椅子の男性が「バリアフリー研究所」(*2)の所長であり、講演などで収入を得ていることから、わざと騒ぎを起こしたのではないかとして、批判されている。特に、事前連絡をしなかったことに対して、大きな批判が巻き起こっている。

僕は「わざと騒ぎを起こした」という点については、そのとおりかもしれないと考えるが、しかしながら彼が騒ぎを起こすに至る原因においては、先述の通りバニラエア側の障害者に対する合理的配慮を欠く対応が先にあったことが原因であると考えている。

実際、バリアフリー研究所の木島氏が今回の騒ぎを起こすまでは、関空奄美間の奄美側には車椅子の乗客を安全に運ぶための設備がなく、たとえ前もって連絡したとしても、断られていたのである。今回の木島氏についても、断るケースに当たるという。(*3)

ネットでは、事前連絡をすればよかったと言うが、実際に事前連絡をしても乗れなかった。しかも乗れない人がいても、バニラエア側が今回の件に至るまで、断りながら、かつ事態の改善もしなかったということは明らかになっている。

小学館の「まななび」が、実際に該当路線で搭乗の3週間前に事前連絡をしたにもかかわらず、飛行機に搭乗できず、取材の仕事ができなかった車椅子の女性にインタビューをしている。彼女は母親が介助するにも関わらず、搭乗の許可が降りなかったという。(*4)

車椅子1人に介助1人というサポート体制は基本的なものだと思うが、これをもって許可されないのであれば、そもそも車椅子の搭乗を断っていると言ってもいいだろう。

更にはボーディングブリッジが使えるはずの成田発の便でも搭乗を断られたということだが、これもまた不可解である。

今回、タラップを這って歩いた木島氏が、上記の件を知っていたのか知らなかったのかは定かではないが、知っていたとして、こうした行動を起こしたことが、果たして会社のルールを守らなかったという論理で、批判されるべきことであろうか。僕は全くそうとは思わない。

今回、車椅子を批判した人たちは「ルールを守れば搭乗できるのだ」と言い張った。しかしそれは憶測に過ぎなかった。実際にはルールを守れば搭乗できない現実があった。

伊丹空港から奄美への航路を運行するJALに乗ればよかったという意見もある。しかしそれでは車椅子であることを理由にバニラエアが搭乗を拒否していたという現実は何も変わらない。選択肢はあるに越したことはないが、別の選択肢があることが、1つの公共交通機関が障害者を排除していいという理由にはならない。

車椅子を批判していた人たちは、差別の理由付けのために「良心的で正しい障害者」を産み出していた。そして木島氏を「そうした良心的な障害者でないから、非難してもいいのだ」という理由をつけて批判している。

しかし、彼らの言う「良心的で正しい障害者」とは、そうでない障害者を叩くためのレッテル貼りに過ぎない。こうしたやり口は典型的なマイノリティ差別の手法だ。

しかし実際には前述の通り、にこにことルールに従って事前連絡をするという、障害者としての不便を受け入れていても、特に何の不自由もない健常者たちがその行動を変えるはずもない。障害者はルールに従えと言うのは「星に祈り続ければいつか願いは叶う」と障害者を説得するようなものだ。

障害者であることによって、昨日受けた、今日受けた、明日受けるかもしれない不自由に対して、おとなしくして、健常者側が気づくのを待てというのは、健常者側の傲慢と言うしかない。

日本は障害者権利条約が批准されており、また法的にも交通バリアフリー法が存在する。交通バリアフリー法は努力義務ではあるが、努力義務は最大限の努力を要求するものであり、努力義務であることを理由に、できることをしないことには問題がある。今回の「努力できること」は、最低基準でも市販で15万円ほどのアシストストレッチャーの導入であり、これができない理由はどこにもなかった。

そしてなにより、たったそれだけのことが、今回の木島氏のパフォーマンスがなければ改善されなかったという事実が重要だ、まななびが取材をしたバニラエアに乗れなかった女性も、先に木島氏がパフォーマンスをしていれば飛行機に乗れたかもしれない。そしてなにより、バニラエア側が就航前からしっかりと車椅子対応の準備をしていれば、誰も悲しまずに、そして怒らずに済んだのである。

今回の件を受けて、国交省は障害者に対する差別的な対応をしないように、航空各社に対して指示をした。(*5)

これをもって、もしかしたらまだあるかもしれない、車椅子対応不可能な路線にも、設備が設置されるかもしれない。

そして少なくとも、関空と奄美を結ぶバニラエアの路線に関しては、アシストストレッチャーが設置されたし、可搬式の階段昇降機も設置された。それは車椅子を利用する障害者たちにとってはもちろん、バニラエア側にとっても幸せなことであるといえる。

また障害者から問い合わせを受けるバニラエアのオペレーターも、理不尽な理由で、車椅子の人の搭乗を断らなくても良くなる。断る側や、空港で障害者を見ていることしかできなかった労働者たちにとっても、会社の設備投資の欠如を理由に、障害者に対する断りをしたり、手助けできない状況に追い込まれていたことは、そうとうな負担であったと思う。

確かにルールを守ることは必要だ。しかしそのルールが理不尽なものであれば、それを批判する権利はあるし、また批判することが民主主義国家における国民の責務でもあるはずだと、僕は考える。

*1:バニラエア、車いす客がタラップ自力で上がる 奄美空港(Aviation Wire)http://www.aviationwire.jp/archives/123021
*2:バニラ航空、奄美路線での搭乗拒否「階段昇降のできない人は乗れません」(Travel for All)http://www.kijikiji.com/self/vanilla.htm
*3:バニラエア「這って登らせるつもりなかった」 奄美空港で車椅子での搭乗を拒否した問題で(ハフィントンポスト)http://www.huffingtonpost.jp/2017/06/28/vanilla-air_n_17315034.html
*4:バニラ・エアに事前連絡したが乗れなかった車いす女性(まなナビ)https://mananavi.com/%e3%83%90%e3%83%8b%e3%83%a9%e3%83%bb%e3%82%a8%e3%82%a2%e3%81%ab%e4%ba%8b%e5%89%8d%e9%80%a3%e7%b5%a1%e3%81%97%e3%81%9f%e3%81%8c%e4%b9%97%e3%82%8c%e3%81%aa%e3%81%8b%e3%81%a3%e3%81%9f%e8%bb%8a%e3%81%84/
*5:障害者への差別的な対応しないよう航空会社に指示へ 国交省(NHKニュース)http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170630/k10011035891000.html?utm_int=news-new_contents_list-items_007

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