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菅官房長官の陰湿人事(西川伸一)

外務省は森本康敬・在釜山日本総領事を6月1日付で退任させた。森本氏は昨年5月1日付の発令なので、在任は1年1カ月でしかなかった。前任者が3年、さらにその前任者が2年勤務してそのポストで定年退職している。つまり、在釜山日本総領事はノンキャリ外交官のいわば「上がり」ポストなのである。森本氏もここで定年を迎えるはずだった。

なぜそうならなかったのか。昨年12月に釜山の日本総領事館前に「慰安婦」問題を象徴する少女像が設置された。日本政府は対抗措置として、森本氏と長嶺安政駐韓大使を今年1月から4月まで一時帰国させた。その帰国中、森本氏は知人との私的な会食の際に政府の対応を批判した。それが官邸に伝わって、事実上更迭される事態となった。

ではなぜ私的な会話を官邸は知り得たのか。これについて『週刊文春』6月15日号は、「森本氏は『政権寄りの新聞社が取材メモを官邸に持ち込んだようだ』と漏らしていました」との「外務省関係者」の発言を紹介している。新聞社が政権にご注進に及ぶとは。事実ならば癒着もきわまれりだ。加えて、私的会話にまで目くじらを立てる政権の陰湿さには驚く。

菅義偉官房長官は6月1日午前の記者会見でこの人事を問われ、「(政権の対応への批判は)承知していない。通常の人事だ」と口を拭った(6月1日付『朝日新聞』夕刊)。何をもって「通常」というのか。森本氏の次のポストはまだ決まっていないではないか。

同様の強引な人事は過去にもあった。6月3日付『毎日新聞』によれば、2015年夏の総務省人事で、ある幹部の昇格を菅官房長官が「それだけは許さない」と阻止したという。この幹部には、菅氏の「手柄」であるふるさと納税創設にかかわる規制緩和に異を唱えた「前」があった。高市早苗総務大臣は面目をつぶされた。菅氏による人事介入の制度的根拠となったのが、内閣人事局である。

14年5月に内閣官房に設置された同局により、政権は各省庁の事務次官と局長・審議官級の約600人の幹部人事を一元管理することを目指した。首相に委任された官房長官が幹部候補者名簿を作り、各省の大臣は首相と官房長官と協議して、名簿登載者の中から適任者を任命する。したがって、官房長官が強い影響力を発揮できる。当時、菅氏は「公務員には省益ではなく国益を考えて活動してほしい」と語っていた(14年5月20日付『毎日新聞』夕刊)。

とはいえ、内閣人事局が発足して3年が経過したいま目立つのは、「国益を考えて活動」するのではなく、政権の意向を忖度して動く官僚たちだ。「モリカケ問題」はまさにそれを実証している。小沢一郎自由党代表は、内閣人事局は「ゴマスリ役人製造機」になっていると喝破した(3月20日付ツイート@ozawa_jimusho)。

批判的な発言は私的なものさえ封じ込め、忖度官僚を侍らせる。菅氏のいう「通常の人事」とは、この3年間でそうした人事が「通常」化したことを意味していたのか。菅氏の次の発言はその点で参考になる。「慣例のみに従って人事はやるべきではない。私は当たり前のことをやっているんです」(2月27日付『朝日新聞』)。

その代償こそ公正な行政の崩壊である。

(にしかわ しんいち・明治大学教授。6月16日号)

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