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【佐藤優の眼光紙背】『靖国 YASUKUNI』」上映を巡る騒動は、果たして表現の自由の問題なのだろうか?

 4月中旬に予定されていた、映画「靖国 YASUKUNI」の上映を一部の映画館が「近隣に迷惑をかけたくない」という理由で、中止した。一部の自民党議員がこの映画が偏向していると指摘し、その関係で右翼が騒ぎ出すことを劇場側が恐れたという解釈が流通している。もっともこの騒動が起きてから、逆に上映を行うことを決定した映画館がでてきた。

 映画監督の森達也氏は、<問題視した稲田朋美衆議院議員が個人的に批判するのはまったく構わない。しかし、国政調査権を盾に映画を見せろと要求し「政治的イデオロギーを感じた」と言っていることには違和感がある>(4月2日東京新聞朝刊)と述べている。

 政治家は公人である。筆者は、選挙で選ばれた公人である稲田氏が「靖国」について批判することに意味があるのだと考える。ちなみに国政調査権とは、衆議院、参議院の院として要求する権限である。今回の事案で国政調査権は行使されていない。筆者は、稲田氏が「政治的イデオロギーを感じた」と述べていることにまったく違和感を感じない。稲田氏の政治的信念から、首尾一貫した発言をしていると思う。靖国神社、「慰安婦」のような、政治的に論争の的になっているようなシンボルを巡る問題を扱えば、政治性がでてくるのは当然だ。それに対して発言をすることが政治家の仕事なのである。

 本件については、この映画に文部科学省所管の日本芸術文化振興会が750万円の助成金をつけた問題と、営利活動としての興行の問題を分けて考える必要がある。

 国民の税金の使途について、国会議員が問題意識をもつのは当然のことだ。稲田氏は、朝日新聞(3月9日朝刊)に対して、「表現の自由や上映を制限する意図はまったくない。でも、助成金の支払われ方がおかしいと取り上げられている問題を議員として検証することはできる」と述べているが、正論だ。

 率直に言うが、我が国には、「右バネ=右翼」に対する恐れがある。あたかも右翼とは、対話が成立しないような印象がある。このような印象は、実のところ根拠薄弱と筆者は考える。上映中止を決めた映画館は、「右翼が反発しているような映画を上映して、面倒に巻き込まれるのは嫌だ」ということと「この映画を上映してどれくらい儲かるか」ということを天秤にかけて、前者が重いと判断したから、上映を中止したに過ぎない。同時にこの騒動は「靖国」に対する宣伝効果をもった。そこで、右の天秤にかけて、「儲かる」という方がはるかに思いと判断した映画館が上映を決定したに過ぎない。

商売にはリスクがあるだけのことだ。「靖国」上映問題が、なぜ表現の自由という土俵で議論されなければならないのかが、筆者にはわからない。(2008年4月19日脱稿)

プロフィール:
佐藤優(さとう・まさる)…1960年、東京都生まれ。作家・起訴休職外務事務官。日本の政治・外交問題について、講演・著作活動を通じ、幅広く提言を行っている。
著書に「国家の罠」(新潮社)、田中森一氏との共著「正義の正体」(集英社インターナショナル)など。


眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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