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同じアプリで明暗分けた二つの新聞社

Pew Research Centerの米国での調査では、ニュースをモバイルで入手している成人は年々増加し、今年3月の数字は85%に達しているということです。

また、英国では有力な6つの新聞を、モバイルだけで読んでいる人は70%以上になったと、Journalism.UKが報じています

ニュース報道機関にとって、モバイルへの対応は重大事になっているのは間違いありません。

しかし、いち早く一昨年9月にモバイルに対応して注目されたカナダの有力紙トロントスター(Toronto Star)のCEOが、今週初めの社員向けメールで「来月末でタブレットアプリでのニュース配信を止める」と通知しました。

開始にあたっては70人を新規採用し、2千万ドル以上を投じたこのプロジェクトがなぜ中止に追い込まれたのか?

これとは対照的に、4年前にタブレットアプリを導入、スターに技術協力もしたケベックの仏語紙LaPresseは、「経営は順調。残していた土曜日のプリント版を12月30日限りで廃止、来年から100%デジタルになる」と今月のニュースリリース(仏語)で明らかにしています。

同じタブレットアプリを採用しながら、何が両紙の運命を分けたのでしょう? この両紙のアプリ導入を、以前に取り上げたことがあるので気になります。

まず、Starはなぜ、タブレットアプリでのニュース提供を止めるのか。発行元Torstar のCEO John Boynton氏の先に社員向けメールにはこうあります。

「読者数と広告のボリュームが。予測したもの及び商業的な成功に求められるものよりはるかに少なかった」

どれだけ少なかったのか。同じカナダの有力紙Globe & Mailによると、Starのスポークスマンは「月間読者はピークで8万人。トロント都市圏だけで55万に達するオンライン読者の中で小さな割合だ」と述べています。

昨年3月のNiemanLabの記事によると、目指していたのは、昨年末までに日間ユーザー18万人だったそうですが、昨年3月の実績はたったの2万6千人だったそう。

来月末で止めてどうするのか。CEOのメールによると、タブレット専用アプリに変えて、スマホとタブレット共通のアプリを投入し、シンプルなものにするとのこと。これで、タブレット版アプリ用の凝った内容編成が不要になることから、正規従業員29人、非正規従業員1人の計30人がレイオフの対象になります。

最近は、モバイルと言えばスマホを指すことが多く、タブレットの影が薄い感じですので、Starのタブレット戦略に狂いが出たようにも思えますが、前述のようにStarに技術供与したタブレットアプリ採用の先輩格、LaPresseの方は盤石のようです。

サイトにあるプレスリリースを辿ると、4月には、読者は昨年比18.7%の伸びで27万3千の「ユニーク ビジター」ならぬ「ユニーク タブレット」だったとし、5月には、外部調査の結果として、平均で一日112万6千に視聴があったと書いています。これに伴い広告収入も順調に推移しているよう。

同紙は、2013年にタブレットアプリLaPresse+を導入、2015年末で、平日版の印刷を止め、土曜版だけは残していたのですが、今月のプレスリリースでは、その土曜版の印刷も止めることを明らかにしました。

紙の完全廃止で49人のスタッフが不要になるとのことで、その処遇は組合と協議中ですが、編集局に関してはLaPresse+スタート時より人員が増えていると自慢しています。

両紙のアプリは基本的に同じで、無料なのも同じです。違うのは、まず英語紙と仏語紙ということ。まあ、英語紙の方が競争が激しいかも知れませんが、英語人口も多いという利点もあるはずです。

決定的な違いは、仏語紙LaPresseが「紙」を(広告が見込める土曜版を除いて)2年前に捨てたことでしょうか。一方のStarは紙を温存しつつ、若者層を取り込もうとタブレットアプリを採用しました。このほかにウェブ、モバイルアプリに加え「紙」の新聞そのもののレプリカをパソコン上で見せるPDF版も展開していました。

「これが読者を混乱させ、作る方も複雑化しコストもかかった」と、先のCEOのメールは反省しています。

まあ、要するに、「紙」を捨てる覚悟で取り組んだ姿勢の違いが大きかったのかも知れません。

それにしても、編集局長が今になって社員向けのメール(CEOの社員向けメールの下段にあります)で「当時、Starの経営陣も幹部も、そして我々全員が相当なリスクがあることを知っていた。モントリオールの経験(LaPresse+のこと)がトロント都市圏にうまく転移できるかどうかについて」と愚痴っています。

当時の責任者の一人が今更、どこかの元高級官僚みたいなことを言ってもねえ、という感じです。

ちなみにスタートした2015年9月15日付けの記事に、当時の発行人は自信満々で、こう書きました。「革新的かつ完全インタラクティブなタブレットアプリで、読者のニュース取得に革命を起こす」。編集局長がこれを読んで、掲載のゴーサインを出したのは間違いないはずですが。

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