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「ググレカス」から「ググってもカス」へ 検索システムが孕む困難 - 塚越健司 (拓殖大学非常勤講師)

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 前回は中国の電子決済機能から、社会統治技術の問題について論じた。社会は技術環境に多大な影響を受けるが、それに伴い人々の意識も変容が生じる。技術的な条件が変化したとき、人々がその社会の中でどのような行為を行うか、そこには我々ひとりひとりの意志が深く関わるだろう。またこの問題と並行して、技術が我々の意志を先回りするといった人間の主体性に関わる問題も議論すべきであろう。人々の意識や意志は情報社会においてますます重要性を増している。今回は我々が意識的(ないし半ば無意識的)に行う検索の深刻な問題について論じたい。

不正確な医療情報、
昨年話題となったウェルク問題

 我々は日々スマホやPCから多くの事柄を検索し、知識を得ている。故に検索とその結果上位に表示されたサイトの知識は、我々に多大な影響を及ぼしていることにもはや異論の余地はない。

 検索最大手グーグルの公式ブログによれば、2015年の段階で全検索の5%は健康情報(health-related information)だという。そこには病気や治療方法以外にもダイエットや美容情報なども含まれていることが推測されるが、いずれにせよ健康情報に虚偽の知識が紛れていれば、最悪の場合人を死に至らしめる可能性がある。フェイクニュースのような政治的問題もさることながら、検索問題は人の生命や、長期的にみれば人類の知的体系に影響を及ぼすことが示されている。

 日本においては2016年、DeNAが運営する医療情報サイト「ウェルク(WELQ)」が、不確かな医療情報をネットにばら撒いていたことが発覚し大きな社会問題となった。DeNAが謝罪会見を開き閉鎖されたこのウェルクだが、不確かな医療情報を多数公開していただけでなく、非常に安価な価格で外注したライターに、他のウェブサイトから画像やテキスト内容を(参考にしろという名目で)事実上無断引用するよう指示していたことも発覚した。ウェルクはさらに検索エンジン最適化(SEO対策)も行っており、検索上位に記事が掲載されるように構成されていたこともわかっている。つまりグーグル検索によって上位に掲載されるサイトが必ずしも信頼できるサイトではなく、不正確な情報が含まれていることが示された。

信頼性が疑われるサイトは未だ存在する

 ところで、ウェルクの閉鎖によってネット上の知識は正常化されたのか。実はウェルク以降もいくつかの大手サイトに内容的な問題が指摘されている。中でも大きく問題を指摘されたサイトに「ヘルスケア大学」が挙げられる。このサイトはサイバーエージェント出身者が設立した「リッチメディア」が運営しているが、注目すべき点として、医師や専門家が記事の監修を行っていることが謳われている。

 だが一部の記事内容に問題があることや、参画医師の数が急激に増える一方、医師の側から名前が掲載されていたことも把握していなかったといった声が挙がり、混乱が生じている。また他の現役医師からの批判などを受け、ヘルスケア大学は一部の記事を非公開化し、また複数医師による記事監修制度などを発表しているが、信頼を回復するには時間がかかるだろう(筆者も運営による発表に疑問を持ったことなどをブログで表明している)。

検索システムのジレンマ

 検索上位にはその他まとめサイトも名を連ねるが、それならば検索上位には信頼性のあるサイトを優先すべきだ、という声もある。医療情報は前述のとおり生命に関わる情報であることから、具体的には国の機関や大学の研究施設、あるいは製薬会社などの信頼性が担保されやすいサイトを検索上位に掲載すればいいというものだ。

 だが、そうした対策を行うには困難が生じるという。検索エンジン専門家の辻正浩氏のブログや、辻氏にインタビューしたBuzzFeedの記事によれば、検索システムと我々の間に大きなジレンマがあるという。

 そもそも多くの人々は「頭痛」といった単語で検索するだけでなく、「赤ちゃん 38℃ 吐いた」などの状況(症状)に応じた内容の検索を行うことが多い。それらピンポイントの情報には公的機関など信頼性の高いサイトは応じることが難しい。すると結果的に記事を多く公開し、様々な状況(症状)に応じた検索ワードに答えられるサイトが検索上位に表示されるというものだ。

 同様に「末期がん ステージ4」といったキーワードに対しては、代替医療サイトなどが検索上位に掲載されることが多く、その中には科学的には根拠が怪しい高額商品が販売されていることもある。末期がん患者やその家族など、検索する側にとっては非常に切実な問題だからこそ、がんが治るといったサイトへのクリック数は否応なく増加し、それらユーザーの行動が検索結果に反映されてしまうこともある。

 グーグルには実際に検索を行って検索精度を検証する品質評価者がいる。だが違法サイトであればすぐに検索結果から削除できるが、医療情報などは専門性がなければその内容を判断できないことから、削除は難しい。またそもそも人間がすべての検索結果を検証することは不可能である

 これらを総合すれば、「信頼性を重視しすぎると有益な情報が探せなくなり、ユーザーの要望を重視しすぎると健康被害をもたらす情報がでてしまう(BuzzFeed)」といった「検索のジレンマ」にグーグルが陥っていることがわかる。グーグルはフェイクニュース等の排除を目指して検索アルゴリズムの改善を発表しているが、高信頼かつ細かな状況に対応できるサービスはすぐには登場しないことから、完全な解決はなかなか難しい。検索精度の向上はグーグルの課題であるが、ユーザーの検索行動もアルゴリズムに影響を与えることなどを考えれば、単にグーグルを叩けばいいだけの話ではない。

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