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老後の年金格差をなくすために - 野口俊晴(ファイナンシャル・プランナー)

■老後の年金額を平等にする


人は、背広を脱いでしまえばみな、同じ品格として変わりはないだろう。しかし、現実は背広を着ていた時のものがそのまま老後にも引きずられている。定年退職した者は、「元〇〇(部長とか)」ではなく、「現」高齢者である。「元」の収入も地位も権利も、そこには関係ない。現役時代は不可解な力学が働いて格差ができたと思う人がいたとしても、老後はそれもないはずだ。ないなら、いっそすべてをチャラにして、年金もみな平等にすべきである。

老齢基礎年金は、納付月数が同じであれば、同じ年金額が支給される。一方、老齢厚生年金は納付月数が同じであっても、在職中の収入によって支給される年金額が変わってくる。給料をもらっている時にも格差があり、年金をもらう時にも格差がある。しかも、その格差は現役時代を反映している。老齢厚生年金の支給額は、現役時代の標準報酬月額を基に計算されるからだ。つまり、収入が多い人にはそれだけ多く年金が支給される。

考えてみれば、何千万円も年収があった人が、上限で切られるとはいえ、標準報酬月額で算定された厚生年金をもらえるというのも違和感がある。

「いや、自分が現役時代に稼いだ収入を基に年金をもらうのが、なぜ悪い」。こう考えるのは、もっともである。

本人がもらえるべきものまでもらうな、などと誰も言えない。ただ、これを辞退することは本人にとって難しいことではないはずだ。何しろ、お金にも、生活にも困らない。ところが実際には、少しでも節税しようとしている高所得者に年金受給も辞退しろというのは、お門違いなのかもしれない。しかも収入が高い分、高い年金保険料をこれまで差し引かれてきたわけだから。

■莫大な収入差が生まれるわけ


それでも、この違和感はどこから来るのか。収入の高い低いは、確かに本人の努力や能力にもよるところがある。特別に才能ある一握りの人が、ずば抜けて高い収入を得られるのも納得いく。しかし、(別にやっかみで言うわけではないが)資本主義の世の中では、必ずしも力や技量に対して正当な報酬が支払われているわけではないことが見てとれる。

地味だが特殊な技術を持った人、献身的な仕事をする人、それなしでは我々が生きてはいけない仕事をする人たちが、必ずしも相応な報酬を受けていないということでも、それはわかる。市場には人間の欲求があり、需給の力学があり、それらによって我々は動かされているとも思える。なるほど、何が儲かるかを分析してそれに見合ったサービスや商品を切り開いて高収入を得ることが、高い能力の証明だと言われれば、その通りだ。すなわち、人々が求めるものを創り出し、提供するということになるから。

だが、同じ仕事をしていて、そこに収入差が出るのはなぜか? 何も大手や一流と言われる企業に入ることだけが高収入の道だと言っているわけではない。単純に、1年間に新たに就職する人数に対して、これらの企業が受け入れられる社員の人数が絶対的に一致しないのがわかる。やかん一杯の水を、小さなコップに注いでいったら、圧倒的に溢れかえる水の方が多い。企業からすれば、それでも「ちゃんと社員を厳しく選別している」と言うだろう。しかし、そこに明確な能力の個人差など見当たらない。
 
こうして同程度の能力の者が、大手企業どころか、正規の社員として入れなかった場合、短期で見てもそうだが、生涯を通すと莫大な収入差が出る。

■現役時代の格差を老後に持ち越すな


かくして、入れた者と入らざる者との間に、いやおうなしに深くて暗い溝ができる。この、会社時代の収入の溝を格差というならば、会社勤めを終えてもらえる年金も現役時代の収入を基にする以上、格差とは言わず、何と言おうか。

要するに、現役時代の格差を老後に持ち越すなと言いたい。そういう意味では、老齢基礎年金の仕組みはまだ納得いく。しかし、これだけでは生活に不足となるだろう。そのためには老齢厚生年金の受給額を一律にして、その分を老齢基礎年金に上乗せすればいいのではないか。それで年金額を平等にすればいい。

もっとも、現在でも標準報酬月額に上限があることで、ある程度支給額が平準化しているのも事実である。したがって上の案では、中所得者よりは低所得者の方に支給額アップのメリットはある。それでも不足するという人は、定年退職後も働ければいい。そして、能力と適性により収入を得られるようにすればいい。それこそ、格差のない老後である。軽めに働きたい人、専門的に高度な仕事をしたい人、ここに年齢や性別によって差別があってはならない。もちろん、働かない選択もある。

■財源は今と変わらない方法


こういう話をすると、当然財源の話になる。ただ、細かいことは別にしても、今の話では新たな財源は必要ない。要約すると、老齢基礎年金は今の制度のままにして、老齢厚生年金の制度だけまっさらにし、基礎年金同様すべて同一額にすればいいということである。厚生年金の支給総額を、標準報酬月額を基準とせず、基礎年金と同様、保険料の納付月数によって受給額を決める。満額であればみな同一額となる。ある意味、積立型年金に近い。これを基礎年金に上乗せするというものである。

保険料の支払期間を基に年金額が決まるなら、基礎年金1本にして増額すればいいと思われるかもしれない。そこは基礎年金と厚生年金の2階建てはそのままにしておくことで、労使折半の保険料負担は残すことになり、財源は今と変わらずにすむ。また離職中は年金額に反映されないので、ある程度の平等性は確保できる。

■格差の解消の一歩になるか


こうすると、既得権者の不満が出るだろう。「収入に見合った、それなりの年金をもらって当然だ」と。しかしこれについては、現役時代の理不尽な格差を、老後まで持ち越すことこそ理不尽だと言っておこう。それでなくても高収入の人は、これまでにたくさんの給料をもらい、貯金もできたはずなのだから。

問題となるのは、社会保険に非加入の会社の低所得者や非正規雇用者だ。厚生年金に加入さえできない人たちは、老齢厚生年金ももらえない。これでは、格差の根本的な解消にはならない。いずれは、年金給付額を基本所得として国民全員に支給する「ベーシック・インカム」案へと進めることが必要となるかもしれない。

現役時代のもろもろが沁み込んだ背広をさっさと脱ぎ捨て、年金格差もなくなれば、老後の貧困問題、さらには現役世代の不安も少しは減るかもしれない。ただこれは、まだ手初めの一歩にもなっていないのだが。

【参考記事】
■なぜ人は簡単に投資詐欺にあうのか (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/51339145-20170525.html
■パート社員でも退職金の準備ができる理由と方法 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/50936755-20170328.html
■リストラされた大企業の社員が、ハローワークに行くと給料が半減する理由(野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/50732072-20170227.html
■どれだけ稼げても、長時間残業は割に合わない (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
http://sharescafe.net/49837469-20161026.html
■転職貧乏で老後を枯れさせないために個人型DCを勧める理由 (野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー)
https://www.tfics.jp/ブログ-new-street/

野口俊晴 ファイナンシャル・プランナー TFICS(ティーフィクス)代表

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