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海自ヘリ選定巡る下克上と内局 その1

NATO海軍の艦載ヘリとして開発されたNH90©清谷信一

清谷信一(軍事ジャーナリスト)

海上自衛隊ではDDHに搭載する汎用ヘリコプター、UH-X(次期多用途ヘリコプター)を選定し、2018年度までに9機のヘリを調達、最終的には合計15機を調達する計画があった。昨年末に武居智久海上幕僚長(当時)が海上自衛隊のUH-X(次期多用途ヘリコプター)の機種選定において、内部手続きの規定を超え、部下に対して特定の機種に誘導する不当な圧力を加えたとして処分された。

だがその実態は調達担当者の下克上であり、それを内局が政治利用したものである。だが、この件に関するマスメディアの多くは分析も行わず、取材もせずに防衛省の公式見解だけをそのまま報道しただけの悪しき「発表ジャーナリズム」的なものが多かった。

来年度の防衛予算ではこのUH-Xの予算が仕切り直しして要求される予定だ。だが、このままでは本来ふさわしくない候補のヘリが要求され、採用されるだろう。そうなれば税金の無駄使いに終わるだけではなく、護衛艦隊の能力は著しく低下する。これは由々しき事態だ。

そうなれば海幕の「青年将校の反乱」「独断専行」が是とされることになり、自衛隊の統制、さらには文民統制を揺るがす前例ができることになる。

この件についての武居海上幕僚長の指摘は当然のものだった。そもそもの発端は海自の最高意思決定会議である海上自衛隊会議が決定した大きなヘリが必要というのを、調達現場が、小さくて安いヘリがいいと独断専行で調達を歪まげたことにある。

その経過を海幕長は知らされず、それを是正しようとしたら、木を見て森を見ない監察本部から指弾されたというのが実態だ。そして内局もその独断専行を支持し、監察の結果に事務次官も防衛大臣や副大臣なども異議を唱えなかった。

つまり現場の将校が独断専行した旧軍の満州事変や北支事変を軍部上層部や政治が追認したのと同じ構図である。これが「悪しき前例」となれば自衛隊では上官が部下を指導できなくなり、下克上や現場の独断専行が横行するようになるだろう。これは文民統制上でも大きな問題だ。

今回のUH-Xは主として事実上のヘリ空母であるDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)に搭載され、補給艦から護衛艦などの物資の運搬や、事故や戦闘などで護衛艦が沈没したり、P-3CやP-1といった哨戒機が墜落したりしたときの救難などの任務を想定している。

当然ながらそれなりに大きな搭載量が要求される。ヘリの場合、機内に搭載するだけではなく、機体下部に貨物を懸吊して輸送するが、この種の任務ではこれらの搭載能力が大きいに越したことはない。

実際にUH-X選定に先だって平成23年度に開催された海上自衛隊会議において、候補機は大型で、できれば既存機との共用を考慮するという方向性が確認されていた。この会議は海上自衛隊の直轄部隊の長が集まる最高意思決定機関である。であれば、初めから現在使用されている輸送・掃海ヘリMCH-101の一択しかなかった。

だがその後の機種選定の過程では、MCH-101、SH-60K、エアバスヘリのNH90の三機種が候補とされた。この段階で海幕装備部の検討チームは強引に、三菱重工が製造している対潜哨戒ヘリ、SH-60Kをベースにした新型機に有利な条件を入れようとした。それに対して武居海幕長は、海上自衛隊会議の決定を尊重せよと異議を唱えたのだ。

候補として上がった3機種を見てみよう。

まず本命だったMCH-101は海自が輸送・掃海用として川崎重工がライセンス生産(実態は単なる組み立て生産)採用した大型ヘリだ。これはレオナルド(旧アグスタ・ウエストランド)のAW101をベースにした機体であり、全備重量は15.6トンである。掃海装備はロールオン・ロールオフで、容易に取り外しができて、輸送ヘリとして利用できる。掃海機材を下ろせば汎用輸送ヘリとして使用できる。因みにその内2~3機が海自の特殊部隊特警隊の運用に併せた仕様となっている。

▼カナダ軍で救難ヘリとして採用されたAW101

提供)レオナルド

キャビンは全長6.5メートル、全幅2.49メートル、全高1.9メートルでキャビン容積は27.5立法メートル、キャビンに武装兵士24名を収容できる。懸吊重量は最大5.44トンである。機体後部にはランプドアがあり、車輛など大型の貨物も搭載できる。

次いで三菱重工が米シコルスキーのヘリに改良を加えた海自の哨戒ヘリ、SH-60Kをベースにした汎用型だ。SH-60Kはシコルスキーのオリジナルをベースに三菱重工が開発した機体であり、全備重量は10.65トンで、原型のUH-60よりもキャビンの全長が33cm、全高が15cm拡張されている。60Kの汎用型はペーパープランで情報がないので、比較のためにUH-60Lのスペックを紹介すると、キャビンは全長3.84メートル、全幅1.88メートル、全高1.37メートルでキャビン容積が11.6立方メートル。つまり60Kのキャビンサイズは全長4.17✕全幅1.88✕全高1.5メートル。ペイロード1.2トン、武装兵士11名が搭乗でき、最大懸吊重量が3.6トンとなっている。ランプドアを有していないで大型貨物は搭載できない。

▼三菱が開発したSH-60K対潜ヘリ


提供)防衛省

3つめはNH90だ。この機体はユーロコプター(現エアバスヘリ)、アグスタウェストランド(現レオナルド)、フォッカーが設立したNHインダストリーが製造しており、全備重量が10.6トンである。兵員20名あるいは貨物は2.5トンを搭載、懸吊貨物は4トンである。キャビンは通常型で全幅2メートル、全高1.58メートル、全長4.8メートル、キャビン容積は14.9立方メートルである。

キャビンが1.82メートルのハイキャビン型も存在しこれはキャビン容量が17・6立方メートルであり、ほぼ機体規模が同じUH-60よりも35~60パーセント大きい。またランプドアを装備しているので大型の貨物も搭載できる。日本でのマーケティングはエアバスヘリが担当しているが、同社は以前参加した航空自衛隊の救難ヘリ選定の公平性に疑問を持ち、海自の時期汎用ヘリの競争入札を辞退している。

この空自の次期救難ヘリ選定の入札は極めていびつであった。機種選定は公平な入札であるとされていたが、その実態は既存の救難ヘリであるUH-60Jの改良型の採用ありで選定が進められた。当初このプロジェクトはライフ・サイクル・コストも含めて1,900億円あった。通常ヘリ調達費用はプロジェクトの半額程度であるから、40機の調達で調達単価は23.75億円と想定されていた。

ところがこれまでの調達単価は約50億円、約二倍なのだ。同機の導入初年度(平成23年度)の調達は3機で123億円、調達単価は41億円、その後もおおむね40億円程度で推移したが、平成26年度は1機、49億円と高騰している。

その2につづく)

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