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【MiAUの眼光紙背】第1回:MIAU設立の経緯と、MIAUが目指すこと(白田秀彰)

政治に参加することは、古代ローマ時代以前からの「自由人」の特権の一つだ。もちろん、民主主義国家では、憲法によって国民の政治参加は重要な基本権とされている。集団において「自由であること」とは、自分を拘束する法律や制度を自分で支配できること、少なくとも自らの承認した法律や制度によって自らが拘束されることを意味する。

ところが昔から、政治には時間と金がかかる。政治が「他人を支配し制御するゲーム」だと考えれば、人を支配するのに手間と費用がかかることは、誰だってわかる。だから、封建社会において、支配層である貴族やら大商人は、自分自身では労働せずに莫大な金を獲得し、そうして得た時間と金で政治に参加していた。政治において勝利すれば、ますます自分達に有利なように法律や制度を支配し、ますます時間と金を獲得できるようにした。... ということは、くどくど書かなてくも皆さんご存知のとおり。

逆に、農民やら従僕たちは、朝から晩まで働かされ、貧しい食事でじっくりと考えることもできず、余裕のある貴族たちにいいようにあしらわれていた。自分達の置かれた立場やら不幸の理由やらを考える余裕すらなかった。(貧しい食事で十分な糖類が獲得できないと、脳が働かない。ウソだと思うのなら断食をしてみるといい。)

「議会制民主主義のお手本」と言われていたイギリスですら、実際に政治参加していたのは、「ジェントルマン」と呼ばれた、今の私たちの感覚では「上流階級」としか思えない「中産階級」であった。この人たちは、金と時間と教養のバランスをとることこそが、自分がジェントルマンであることの証であると考えていた。実現できていたかどうかは別として。そして、おそらくジェントルマンたちは、政治を一種の「スポーツ」としてみていたように思う。それゆえ、現在の私たちと違って、中産階級が形成する政治的なクラブや社会活動のクラブが多数存在していた。政治は、階級的な娯楽... と言って語弊があれば話題であり関心事であった。

ある国の政治的な均衡には、いくつかの型がある。先の封建制においては、強い者がますます強くなり、弱いものがますます抵抗力を失っていくことによる均衡であることがわかるだろう。それでも、政治は安定する。一方、次の議会制民主主義においては、時間と金が社会の多くの人々に分散的に配分されることによる均衡であることがわかるだろう。もちろん、中産階級と労働者階級には大きな断絶があることを無視しての話だが。

そこで、現在について考えてみる。もちろん、貴族やらジェントルマンやら貧民やらといった、あからさまな階級の分断は存在していない。でも、私が見る限り、政治に参加する能力や意欲のあるような人は、たいていの場合、高給だが果てしなく忙しい職業に就いているように見える。一方、時間のある人たちは、とても政治参加するための費用を賄えそうな職業には就いていないことが多いように思う。いわゆる社会の二極分化というものだ。この見解に「偏見がある」という批判は甘受する。

さて、こうした「金はあるが時間はない人(富裕人)」と「時間はあるが金はない人(有閑人)」は、政治に参加できない。両方が揃わないと政治参加が困難だからだ。したがって、富裕人は、その金を嗜好品や遊興に用い、有閑人は、その時間を嗜好品や遊興に用いる。ここでちょっと、私たちがお金や時間を費やしている、商品や娯楽について反省してみよう。そうした商品や娯楽への欲望は、ほんとうに自分自身から生じたものだろうか?誰かから制御されていないか?
そして、また現在において「時間と金」をバランスよく保持している人たちがどんな人たちかを考えてみてほしい。その人たちに現実的な政治参加能力が集中し、政治力となり、政策がその人たちの意向にそって動き、その人たちにますます時間と金が配分されているような状況が生じていないだろうか?政治に熱心に関与している人たちは、なぜそうするのか? それによって利益を得ているからに他ならないのではないか?このように考えれば、現在の政治的な均衡は、封建時代の極端な二極分化による均衡へと近づいていると言える。それは、見かけ上「その人が裕福である」ということには関係がない。裕福であっても自由でないのなら、その人は封建時代においては「奴隷」と呼ばれた。

インターネットができて、時間がない人、お金がない人にも、政治的発言、政治参加の可能性がでてきた。政治が「言論を通じて行われる」という建前の議会制民主主義であれば、言論の能力を平等化したインターネットは、議会制民主主義を強化するはずだからだ。もちろん、政治が実際には暴力や金で行われているのであれば、インターネットの登場は、政治にまるで影響を与えない。でも、現在の日本のインターネットの状況を見ていると、インターネットを用いた政治参加の可能性は、さまざまな水準で封じられているようにみえる。なぜだろう?

さて、突然 話が変わる。私の悪い癖だ。

男の子の夢は、昔から「世界征服」と「世界の救済」と「女の子」だ。そうでなければ、そうした内容をもつゲーム、アニメ、マンガが、相変わらず広く男の子および精神的男の子に強く支持されている理由が説明できない。ところが、この一文にすら、多くの批判が集中するだろうような状況からわかるように、そうした*原始的な*政治的衝動は、現実世界では、想像すら許されないほど厳しく抑制され、それらはゲーム、アニメ、マンガにおいて解消されなければならないとされている。私の見方では、現実世界での抑圧の強さに比例して、そうした作品が人々に必要とされるのだと思う。いまの大学生の男の子たちをみていると、私にはそのように思えてならない。

私たちの現実世界での政治的衝動が、仮想または妄想によって浪費されている間に、時間も金も持つ人々は、現実世界の政治を動かしながら、自らの利益を増大させている。その結果、必ずしもゲーム、アニメ、マンガに関心を持たない人々もまた、政治的過程から排除され、もとより政治的な関心や能力が乏しい人たちは、誰かが作った夢をずっと見せられつづけている。これが、私たちの現実のとても大雑把な見取り図ではないか。

MIAUが結成された理由は、主要構成員に共通する知的財産権に関する問題意識だ。しかし、そこに「あれ?あれ?」と思っているうちに引き込まれてしまった私自身の問題意識は、むしろ上記の状況にある。現実世界からインターネット上へと排除されてしまった人々の意欲や思いを、現実の政治へと反映させるための媒介・霊媒(メディウム)として、私はMIAUを位置付けている。だから、MIAUの設立をきっかけとして、類似した団体が次々とできることが健全だと考えるし、MIAUは、そうした団体の設立をむしろ助けていくべきだと考える。MIAUが「オタク」と呼ばれる層を狙って活動している、というような批判にもならない批判があるのを承知しているが、それは、私や一部のメンバーがオタクであるため隠しようもなく醸し出されてる雰囲気に過ぎない。

さて、知的財産権に関する問題意識がMIAU設立の主たる動機だとしたが、それについて補足しておきたい。知的財産権は20年ほど前までは、私たちの意識にも上らないほど特殊な領域の話だった。しかし、コンピュータやネットワークが取り扱う情報の大半が、著作権や特許といった知的財産権の保護対象となったときに、知的財産権法は、ネットワークを包括的に支配するための「鍵」となった。というのは、仮想空間を構成するすべての「もの (オブジェクト)」が、何らかの意味での知的財産権の保護対象だからだ。それに加えて、インターネットが社会基盤や産業基盤となると、現実世界においてもそれら知的財産権の影響力が増大していく。いまや知的財産権に関連した法は、憲法にも匹敵するほどの重要性を持つに至っている。ほとんどの人が気がつかないが。

知的財産権の中でも、とりわけ著作権法は、その射程の広さ、曖昧さ、保護の強力さから、インターネット上で支配権を行使する、もっとも一般的かつ強力な道具となりうる。このあたりについては、いずれ説明させていただきたい。

今、現実世界の政治を支配している人たちが、著作権に関する強い支配権を握ったら、現実世界のみならずインターネットもまた、それらの人々によって支配されることになるだろう。私たちの社会が情報に依存していながら、情報の流通を誰かに支配される危険性について、私たちの認識はあまりにも甘い。もし、情報の流通が支配されるとき、支配権を持たない私たちは、経済的にも精神的にも支配から脱して政治的自由を行使する可能性がなくなってしまう。それは、冒頭に紹介した、封建時代の農民や従僕のように「食べるものが乏しく気力が得られないゆえの服従」ではなく、「そもそも何も知らないが故の服従」へと作り変えられてしまうだろう。(白田秀彰)


プロフィール:
MiAU 2007年設立。ネット上の世論を集約し、政策提言などを行う団体。著作権法関連の動きについて、ネットユーザが意見表明するためのサポートを行っていくことを目的として設立された。公式サイト:MiAU
白田秀彰氏公式サイト:白田の情報法研究報告

眼光紙背[がんこうしはい]とは:
「眼光紙背に徹する」で、行間にひそむ深い意味までよく理解すること。
本コラムは、livedoor ニュースが選んだ気鋭の寄稿者が、ユーザが生活や仕事の中で直面する様々な課題に対し、「気付き」となるような情報を提供し、世の中に溢れるニュースの行間を読んで行くシリーズ。

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