記事

いま人工知能ができること、できないこと

1/2

脳科学と人工知能(AI)の研究は、歴史的についたり離れたりを繰り返してきました。ニューラルネットワーク(人工神経回路)は人間の神経回路を模してできているといっても、非常に単純化したモデルで、実際にはさまざまなタイプがある神経細胞(ニューロン)の違いを無視してニューラルネットワークと称しています。

脳科学と人工知能の関係は、鳥と飛行機の関係に例えるとわかりやすい。人間は鳥のように飛びたいと思って飛行機をつくりましたが、実際にできた飛行機は、鳥とはまったく別物です。人工知能も、サーバーの台数を増やして高速化すれば、ある面では人間を圧倒的に上回っていきますが、それは人間の脳とは別物です。

IBMのWatson(ワトソン)やソフトバンクのPepper(ペッパー)、アップルのSiri(シリ)などは一見、言葉を理解しているように見えますが、まだ統計的に言語を処理しているだけで、言葉の意味そのものを理解しているわけではありません。「ドラゴンクエスト」のセリフを見て、コンピュータが話していると思う人はほとんどいないと思いますが、原理的にはあれと同じで(もちろん非常に高度な技術にはなっていますが)、応答は人間が決めています。それに対して感情移入してしまうのは、人間が勝手に行間を埋めているからです。

人工知能はディープラーニング(深層学習)技術によってようやく「目」(画像認識)を手に入れ、「手」(ロボティクス)を動かして学習する態勢が整ったところです。人間の赤ん坊と同じように、まず「目」で見て、「手」を動かし、試行錯誤を重ねて概念やルールを学んでいく。「言葉」を理解し、話せるようになるのは、その後です。猫を見たことがないのに、「猫」という言葉を教えても、それが何を意味するか、わかるはずがありません。

では、人工知能が言葉を獲得していけば、最終的に人間のような「感情」や「意識」を持つのでしょうか。喜怒哀楽のような「感情」は、もとをたどれば、すべて自分の生存のために備わってきました。人間は、自分にとってよいことがあればうれしいし、社会性が高い生き物なので、他人が楽しければ自分も楽しい。そのほうが生き残る確率が高かったからそうなっているわけです。それをプログラムで設定すれば、「ロボットにも喜怒哀楽がある」ように見せかけることはできますが、はたしてそうすることに意味があるのでしょうか。男型ロボット、女型ロボットをつくって、男型が女型を、女型が男型を好きになるように設定することはできますが、それは感情とはいえません。

人間は情動によってドーパミンが出て、それが意欲につながっているわけですが、ドーパミンが出なくなると、やる気がなくなって、何もしなくなります。人工知能も「こういう動きをしなさい」という目的を与えれば動きますが、それがなければ何もしないのです。「この仕事をしなさい」といった目的を与えて、それを最大化するようにプログラムすれば、人工知能はさまざまな方法を試します。その過程で、自分と他人という区別をつけたほうが、学習効率が上がるのであれば、そこに「自己」という概念が発生し、自他の区別をしはじめるかもしれません。

2012年以降の人工知能研究によって最も進展があったものの一つが、深層学習による認識と、「探索」や「強化学習」などの従来技術の融合です。強化学習は、機械が試行錯誤を通じて環境に適応していく学習の枠組みですが、深層学習と組み合わせることで、状況を上手に認識した上で上達することが可能になりました。この技術が、イ・セドル九段を破ったアルファ碁にも使われています。人間と違うのは、1回学んだことは忘れないということです。人間のように、そのときの体調や集中力によってミスをしたりはしません。自動運転車が増えれば、人間が運転するより、よほど事故は減るはずです。

自動運転技術が普及すると、自動車産業自体が岐路に立たされます。ほぼ間違いなく起きるのは、自動車は最終製品ではなくなるということです。顧客が求めているのは、自動車ではなく、移動手段。そのためウーバーのような「移動」を提供する会社が、自動車産業をのみ込む可能性が出てきます。

顧客は、ウーバーがどのメーカーの車を使おうが、無人自動車だろうが、あまり気にしない。それどころか、移動さえできれば、「自動車」である必要さえないかもしれません。自動車メーカーは、ウーバーと同じ「移動」を提供するレイヤー(層)のビジネスを取りにいくのか、あるいは、ウーバーが所有する「乗り物」の車両整備というレイヤーを取りにいくのか。自社の事業をどう位置づけるか、どの部分で勝負するのか、あらためて問われることになります。

一方、経営の意思決定のような仕事は今後も残り続けるはずです。ただ、意思決定をサポートする、経営者に対する秘書、弁護士に対するパラリーガル、コンサルタントに対するアシスタントはコンピュータに代替される可能性が高い。資料を集めたり、内容を必要な形に直す技術は、人工知能というよりも検索エンジンといったほうが正確かもしれませんが、領域を拡大していくでしょう。

最近、ニュースで「人工知能」という言葉が取り上げられることが多くなってきました。「人工知能」と聞くと、何か特別なもののように感じますが、実は広い意味ではIT技術の擬人化を指すことも多いです。メディアで「人工知能」という言葉を見たときは、IT技術、例えば検索エンジンでできることを指しているのか、あるいは深層学習など最新の技術によるこれまでにない進展なのかという見方をすると理解しやすいかもしれません。

あわせて読みたい

「AI」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    足立議員の生コン疑惑発言はデマ

    辻元清美

  2. 2

    「立派な国」ランキング 日本は

    長田雅子

  3. 3

    よしのり氏が文春デスク写真公開

    小林よしのり

  4. 4

    1億円稼ぐチャットレディに密着

    AbemaTIMES

  5. 5

    金正恩氏 ちびデブ発言に怒りか

    高英起

  6. 6

    よしのり氏「文春に完全勝利」

    小林よしのり

  7. 7

    山尾氏×望月記者 女の政治を語る

    NEWSポストセブン

  8. 8

    よしのり氏「文春から抗議文書」

    小林よしのり

  9. 9

    石破氏「民進解消で政治が前進」

    石破茂

  10. 10

    民進から資金? 無所属の会に疑問

    早川忠孝

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。