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修学旅行先の変化から見た「日本の高校生と台湾」 - 坂場三男

今や、台湾は日本の若者にとってお気に入りの旅行先になっている。特に高校生の修学旅行先としてはダントツの第1位である。台北や台南の街を歩いていると必ず何組かの日本からの団体旅行ツアーに出くわすが、多くの場合が10代後半から20歳代の若者のグループである。一体いつの頃からこうした状況が生まれているのか。

 修学旅行についてはデータがある。全国修学旅行研究協会という公益財団法人が毎年全国都道府県の公私立高校による海外への修学旅行の実施状況を小まめに集計し、発表している。それによると、全国の公私立高校のうち海外への修学旅行を実施している学校の割合(2015年度)は公立高校で9.6%、私立高校で32.9%であるが、過去10年間の統計を見ると旅行先について顕著な変化が起こっている。この変化を一言で言えば、「中国、韓国への旅行が激減し、台湾への旅行が著増している」ということである。伝統的に、我が国の高校生の修学旅行先は米国とオーストラリア、そしてアジアではシンガポールとマレーシアがお定まりのコースで、これらの国々への旅行者数については各々1.5~3万人で、年ごとの変化は大きくない。これに較べて、近年、中国と韓国の場合は国内政治社会事情の変化や我が国との政治外交関係の冷え込みに呼応するように修学旅行先として忌避される傾向がはっきりと看て取れる。韓国の場合は、セウォル号の沈没事故などの影響も出ている。

 では、ここで、具体的な数字を見てみよう。2015年度に韓国への修学旅行を実施した高校は29校、参加生徒数は2684人だが、2005年度には201校、27295人を記録しており、この10年間に生徒数で10分の1以下まで大幅減少していることになる。中国の場合も同様の傾向があり、2007年度に140校、16535人であったものが、2015年度には22校、2354人まで減少している。尤も、中国の場合、2013年度には15校、1761人まで落ち込んでいたので、2014-15年度は若干の回復基調にあると言えなくもない。公私立別に旅行数減少の変化を見てみると、公立高校の場合は私立高校以上に中国・韓国への修学旅行を忌避する傾向が見られる。公立の学校は我が国とこれら両国との関係の変化に敏感であり、安全志向もより強いと言えそうである。

 台湾はどうかと言うと、2015年度には224校、36356人の高校生が修学旅行しており、学校数、参加生徒数ともに全旅行先の中で第1位である。2005年度には25校、2127人であったから、この10年間で、生徒数において何と17倍以上も増えていることになる。アジアへの修学旅行を実施している学校の総数には大きな変化は見られないので、中国・韓国への修学旅行を取りやめた学校の大半が旅行先を台湾に振り替えているのかも知れない。(因みに、私が個人的に関わっているベトナムの場合、2009年頃までは修学旅行先としては全くの検討対象外であった(この年で2校、110人)が、その後は倍々ゲームのように増え続け、2015年度実績では25校、3698人になっている。これも、中国・韓国からの振り替え現象の1つと言えなくもない。)

 修学旅行先は誰が決めているのか。その最終決定は学校(校長)が行うとしても、教育委員会や保護者会の意向も大きく働く。生徒の希望というのは考慮外であろう。ここで無視出来ないのが修学旅行を斡旋する旅行業者の存在である。これら業者が旅行プランを企画するので、如何に魅力的な(全ての関係者を納得させられるような)プランを作れるのかが旅行先を決める際の大きな判断材料になっている。では、全ての関係者が納得するプランとは何かと言えば、その最重要な要素が「安全」である。治安、交通、衛生の全ての面での「安全」である。「治安」は当然として、マイクロバスで移動する際の交通安全、集団食中毒を起こさないための食の安全、伝染病にかからないための公衆衛生などが考慮される。次が、経費の問題。修学旅行の費用は入学時から生徒が積み立てる基金方式の学校が多いので、その額に見合った旅行先でなければならない。その意味では地理的に近距離にあるアジア・オセアニアの国々の場合は旅費(航空賃)が安くチャーター便の手配も出来るので旅行先となる可能性が高い。米国やヨーロッパの国々では旅費に加え滞在費(宿泊費等)も高いので、これを選ぶ高校は裕福な学校ということになる。最後が「学習内容」。学を修める旅行である以上、旅行先で何を学ぶのかは本来最も重要な決定要因でなければならないが、実態は旅行会社任せの「見学旅行」になる傾向がある。その意味では、学校や保護者会としては「英語学習」の大義名分は受け入れやすく、実際に英語圏の国々が修学旅行先になるケースが大半である。

 以上のような諸事情からすると、台湾は日本から最も地理的に近い「外国」の一つであり、英語も概ね通じ、手頃な旅行先である。台湾の人たちの親日感情も強く、日本語を話せる人も少なくない。安全面でも殆ど問題はない。加えて、「学習内容」の面で、かつて50年間に亘って日本の植民地であったという重要な歴史教育の機会が提供出来る。中国での南京事件や韓国の慰安婦問題を事前学習する場合に比べて、台湾との関係において歴史本来の教育に関わる重要なテーマを学習できるという意義は大きい。学校側として反日感情の強い国に生徒を引率するのは精神的な負担が大きいであろうし、高校生の理解力にも限界がある。私としては、台湾への修学旅行を大いに推奨したい。

坂場三男(さかばみつお)略歴

 1949(昭和24)年、茨城県生れ。1973年横浜市立大学文理学部文科卒業。同年外務省入省。フランス、ベルギー、インド、エジプト、米国(シカゴ)等に勤務。外務本省において総括審議官、中南米局長、外務報道官を務める。2008年、ベトナム国駐箚特命全権大使、2010年、イラク復興支援等調整担当特命全権大使(外務本省)、2012年、ベルギー国駐箚特命全権大使・NATO日本政府代表を歴任。2014年9月、外務省退官。2015-17年、横浜市立大学特別契約教授。現在、JFSS顧問、MS国際コンサルティング事務所代表として民間企業・研究機関等の国際活動を支援。また、複数の東証一部上場企業の社外取締役・顧問を務める。2017年1月、法務省公安審査委員会委員に就任。著書に『大使が見た世界一親日な国 ベトナムの素顔』(宝島社)等がある。

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