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英ワイン業界が悩むブレグジットによる「悪酔い」

英国のワイン業界は、欧州連合(EU)からの離脱(ブレグジット)がもたらす「悪酔い」に悩まされている。

 30年前には物笑いの種だった英国産ワイン。その後変身を遂げ、今や国際的な賞を受賞するほどに急成長している。

 昨年6月の国民投票でEU離脱が決まって以降、ポンドの対ユーロ相場は14%下落し、英国の輸出産業に恩恵をもたらすと期待されていたかもしれない。ポンド安になれば、英国製品は輸出先での価格が下がる。一方、英国では輸入品の価格が上昇する。

 だが英国の多くの業界にとって、現実はそこまで単純な話ではない。その上、ワインメーカーは、先週の英総選挙の結果、ブレグジットの行方が一層不確実になったと指摘している

 英国のワインメーカーは、ワインの歴史が長い国々から設備やブドウの木を輸入しなければならない。英国産ワインはスコットランド産ウイスキーとは異なり、その大部分が国内で消費されているため、世界的な市場規模は小さい。また、英国産ワインの価格がたとえ下がったとしても、英国人がシャンパンを飲むのを簡単にやめることもないだろう。

 英空軍のパイロットから27年前にブドウ農家に転じたボブ・リンドさんは、英国のワインメーカーにとってポンド安による「真の恩恵は全くない」と話している。

 多くの場合、ポンド下落は販売増に結びつかない。ワイン醸造は長い年月がかかる事業であり、新しくブドウの木を植えてから店頭に並ぶ製品になるまで6年以上かかることもある。

 また、ポンド安になるとワインメーカーは輸入コスト増を吸収しなければならない。ブドウの木をはじめ、発酵タンクやガラス瓶、コルクなど大半の専門的な設備や原材料を輸入に頼っており、輸入先はたいていフランスなどユーロ圏の国々だ。

 リンドさんは「ワインメーカーは今や新たな為替レートで仕入れをしなければならない」とし、「事業サイクルのどの時点にいるかによるが、この事業を始めたばかりなら、コストが7~8%増加したことになる」と述べた。

 リンドさんのワイナリー「キャメルバレー」は英南西部コーンウォールにあり、この地域は昨年の国民投票でEU離脱賛成票が多数を占めた。リンドさんはこの投票結果に「失望した」と話している。

 ロンドンに本拠を置くホースマン・キャピタルのヘッジファンドマネジャーだったマーク・ドライバーさんは、ワイナリー「ラスフィニー・エステート」を立ち上げるために退職した。ドライバーさんはEU離脱に賛成票を投じたが、ポンド安で「コストが確実に増える」と話した。

 ドライバーさんは自らのワイナリーにあと約400万ポンド(約5億5600万円)投資しなければならない。この約半分はユーロ建てで、瓶詰め設備などをフランスとイタリアから、また25万本のブドウの木をドイツとフランスから、それぞれ輸入する費用に充てる。「ブレグジットによって向こう1年の設備投資額は5~7%増える」という。

 これは国民投票前に比べ費用が約20万~28万ポンドかさむ可能性があることを意味する。

 大半がEU残留を望んだこの業界では、同様の懸念が聞かれる。

 英南東部サセックスにある発泡ワインメーカー、リッジビュー・エステートのタマラ・ロバーツ最高経営責任者(CEO)は「利益率に影響がある」と述べた。同社は、英首相官邸で開かれるパーティーの公式サプライヤーだ。

 ロバーツ氏は、今年前半の国内外での販売は好調だったが、このうちポンド安がどの程度寄与したのかを割り出すのは難しいと述べた。

 また、シャンパンの確固たる地位を英国産ワインが奪い取ることにポンド安が寄与する可能性はほとんどないとの見方を示し、シャンパンは「為替相場がどのように動いてもほとんど影響されない」と話した。

 ワイン醸造業は英国の政治家が育成したい産業に他ならない。だが同時に、昨年の国民投票の影響を大きく受けた業界の一つでもある。

 ワイン業界は英国の他の多くの産業以上にEUのライバルと真正面からぶつかる。シャルドネとピノノワールをベースにした英国産スパークリングワインは、フランス北部シャンパーニュ地方で生産されるシャンパンをお手本にしているからだ。

 英国ワイン・スピリッツ協会のマイルズ・ビール会長は、昨年9月に開いた同協会の年次会合で、ブレグジットは業界に「恐らく甚大な混乱をもたらす」と語っていた。一方でウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対しては、2020年までに輸出を10倍に増やすという英ワイン業界の野心をポンド安が後押しする可能性があるとも語った。

 英ワイン業界向けのEUからの助成金の先行きは不透明なままだ。この助成金は、ワインメーカーの研修やワイナリー開設を支援している。農業開発を目的としたこの助成金は英政府に支払われ、英政府も一部資金を支出して支給先を決めている。

 ワイナリー「ハッティングリー・バレー」のオーナーで英国産ワインのマーケティング団体「イングリッシュ・ワイン・プロデューサーズ(EWP)」の会長を務める弁護士のサイモン・ロビンソン氏は、「業界に多額の資金を供給してきた」EUの助成金がどうなるか心配だと話している。

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