記事

警察の訪問は、表現の自由への抑圧そのものである

1/2

昨年の1月に埼玉県草加市で「放射能を調べる調査をしたいから入っていいですか」と民家に侵入し、当時中学生だった女子生徒に対して、体を触るなどして、35歳の男が逮捕される事件があった。

そしてその取り調べの過程で、容疑者の男が東京都内の男性漫画家が描いた同人誌をヒントに犯行に及んだことが明らかになり、今月になって埼玉県警がその漫画を書いた漫画家の自宅を訪問、漫画家に対して注意喚起を促すことなどを頼み、漫画家もそれを了承したという。(*1)

また、毎日新聞では、県警の話として「作品内容が模倣されないような配慮と、作中の行為が犯罪に当たると注意喚起を促すことなどを要請した。漫画家は「少女が性的被害に遭うような漫画は今後描かない」と了承した」(*2)と踏み込んだ形で伝えた。

さて、この件で僕が問題であると感じているのは、容疑者が同人誌のマネをしたと言っていることではなく、その容疑者と何の関係もない、単にそうした漫画を描いただけの漫画家に対して、警察が直接訪問して「頼み」をしたということだ。

一体この行動の法的根拠はなんだろうか?

例えば、警官が「同人誌を模した犯罪が起きました。もしレイプ系の同人誌ご家族がいたら、作中に「絶対に真似をしないでください」と注意書きを書くようにお伝え下さい」と言って、各家庭を回って注意喚起しているなら一般的なことと言えなくはないが、作家の家を直接訪れるというのは、それとは全く異なる。

そこには作品を「事件の原因の1つ」とみなす考え方があるし、また作家に対する「そういう作品をお前が描いているということは、警察が把握しているぞ」という抑圧がある。

漫画家はTwitterであくまでも警察側が低姿勢であったと話し、「「表現の自由が脅かされた」とか「警察の圧力に屈した」とか「前例ができた」という話ではないと思っている」(*3)と述べているが、今回の件は決して警察が訪問した漫画家がどう考えるかではなく、そうしたことがあったという事実を受けて、その他多くの漫画家を含む、すべてのインモラル的な表現を行う可能性のある表現者が、これをどう受け止めるかと言うことである。

そして少なくとも埼玉新聞に対して捜査関係者は「今後、ほかの作者の作品が模倣されて犯罪が発生した場合も、同様の申し入れを行うことを検討したい」と話しているという。

この件に関して、僕は表現者の一人として、単純に恐ろしいことだと考える。

自分の全くあずかり知らないところで発生した事件に対して、それに近いことを表現したからと言って、何らかの責任を負わされる謂れはない。

そもそも犯罪というのは「成したこと」が罪にあたるか否かであり、その漫画を描くことが罪でない限り、なんら罪を負わされたり、厄介に巻き込まれる必要はないはずだ。

その前提が覆され、インモラルな表現をし、それを見た誰かが犯罪を犯したら警察が「こんにちわー」とやってくる社会など決して表現の自由が守られた社会ではないと言える。

しかし、この件に対してネットの反応は冷ややかである。

特に自民党の参議院議員、小野田紀美による報告(*4)以降、ネットでは「警察が表現の自由を抑圧したという事実はない」という話に落ち着きつつある。

小野田議員は、該当の漫画家や、埼玉県警には話を聞けなかったと断った上で、警察庁刑事局の担当と話をしたと報告。

「結論から申しますと、新聞の記事にあるように「少女が性的被害に遭うような漫画は今後描かない」というような了承を作者にとったという事実は確認できず、そういった圧力も加えていないとのことです。訪問の理由も、何かを指導するためということではなく、捜査の中での調査報告であり、そういったお話をするなかで、今後「作品を模倣して犯罪を行った」と容疑者に言われる等の供述に巻き込まれないように、例えば「この作品はフィクションです、作中の行為を真似すると犯罪になります。一切の責任を負いません」というような作家さんへの自衛の試みをご提案したような形である...という認識だったというご説明を頂きました。」(*4)

と、毎日新聞の記事内容を念頭に置いて述べている。

こうした話を信用したい人は多いのだろうが、今回の事例に対して警察庁がこうした返答をするのは当然のことであるといえる。圧力を加えたり、但し書きを要請したような事があれば、それは当然、いかなる法的根拠によるのかという話になるからだ。だからもちろん、表層的にはあくまでも「そうしたお話をしただけ」になるし、そう答えるしかない。

また小野田議員は「本件の作家さんのSNSを拝見すると警察の方は低姿勢で円満にお話をされていったというようにお見受けしましたので、上記の警察庁のご説明が本当であるとも思うのです。」と述べているが、これは全く理由になっていない。

たとえ警察が低姿勢で円満にお話をしていても、警察がその権力をもって、漫画家の家に直接やってきたという事実は何も変わらないからだ。やってきたからには、確実に上からの命令があるのだ。小野田議員が本当に聞くべきだったのは、その命令がどういう根拠をもって行われたかということであったはずだ。

あわせて読みたい

「警察」の記事一覧へ

トピックス

ランキング

  1. 1

    クロ現「日本の防衛」報道に驚き

    中村ゆきつぐ

  2. 2

    加計で総理批判する国民に疑問

    青山社中筆頭代表 朝比奈一郎

  3. 3

    笹子トンネル事故に"新事実"判明

    週刊金曜日編集部

  4. 4

    小林麻央 2年8ヶ月ガンとの戦い

    渡邉裕二

  5. 5

    田原氏語る共謀罪強行採決の理由

    田原総一朗

  6. 6

    石破氏 自民党は議論の自由ない

    『月刊日本』編集部

  7. 7

    "保守化"を認められない老人たち

    城繁幸

  8. 8

    麻央さん死去 報道の姿勢に苦言

    中村ゆきつぐ

  9. 9

    中田宏氏 私も秘書に暴言吐いた

    中田宏

  10. 10

    外務省は韓国の告げ口外交許すな

    tenten99

ランキング一覧

ログイン

ログインするアカウントをお選びください。
以下のいずれかのアカウントでBLOGOSにログインすることができます。

コメントを書き込むには FacebookID、TwitterID のいずれかで認証を行う必要があります。

※livedoorIDまたはYahoo!IDでログインした場合、ご利用できるのはフォロー機能、マイページ機能、支持するボタンのみとなります。