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音楽教室は著作権料を支払うべきか? JASRACによる使用料規程の改訂 - 河本秀介 (弁護士)

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 JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)は、6月7日、使用料(いわゆる「著作権料」)の徴収に関する使用料規程の改訂を文化庁に届け出たと発表しました。

 改訂後の使用料規程によると、2018年1月1日以降、音楽教室が、教室内でJASRACが管理する楽曲を演奏したり、録音したものを流したりする場合、受講者数と受講料金額に応じた使用料を支払わなければならないとされています。

 使用料規程の改訂に向けた一連の動きに対しては、音楽教室を中心とする事業者側は強く反発しており、ヤマハ音楽振興会などの複数の事業者が発起人となって「音楽教育を守る会」が設立されました。現在、音楽教室や楽器メーカー、楽器店など300を超える事業者が会員として参加しています。

 また、「守る会」は、5月30日の総会で、JASRACに対して使用料の支払義務がないことの確認を求める訴訟を提起することを決定しました。今後、7月を目途に訴訟を提起するための準備に入ったことを発表しています。

 現在、「音楽教室内の演奏なども使用料を支払う義務がある」とするJASRAC側と、「支払う義務はない」とする事業者側で、主張が真っ二つに分かれる格好となっていますが、果たしてどちらに分があるのでしょうか。

JASRACの役割は、権利者と利用者の利害の調整

 JASRACの使用料は、どのような場合に支払う必要があるのでしょうか。まずは、JASRACがどういう団体かを簡単に解説します。

 JASRACは、作詞者、作曲者、レコード会社などの音楽関係の著作権者から委託を受けて、権利者に代わって著作権を管理する団体です。

 たとえば、作曲者が新曲を作った場合、その曲を自分の著作物として扱うことのできる権利(著作権)が作曲者に発生します。ある曲に著作権がある場合、権利のない者が権利者に無断でお金を取って演奏したり、録音したものを流したり、放送したりすることはできません。また、権利者は、誰かが無断で自分の曲をコンサートなどで演奏しようとしているのを見つけた場合、「演奏を中止するか、適正な使用料を支払いなさい」と要求することができます。

 もっとも、不正利用に対して作曲者が個人で使用の中止を求めたり、使用料を請求したりするのは大変です。また、楽曲を利用する側としても、毎回、権利者に承諾を得なければならないとなると大変でしょう。権利者と連絡先が分からないような場合には、利用しようとしてもできないということにもなりかねません。

 両者間のそうした利害を調整するため、音楽などの一定の著作物については、そういった権利者と利用者の間の利害関係を調整するため、著作権者から委託を受けて管理する団体が設立されることがあります。JASRACは、音楽に関する著作権管理団体として、日本最大の組織です。

 具体的な仕組みとしては、作詞者・作曲者といった権利者が楽曲等の著作権の管理を管理団体(JASRAC)に委託し、委託を受けた管理団体が権利者に代わって使用料を徴収し、一定の基準で権利者に分配されます。

 こういった仕組みは、権利者側にメリットがあるだけではなく、音楽を利用する側にとってもメリットがあります。「使用料さえ支払えば、いちいち確認を取らなくても利用可能」とすることで、音楽をスムーズに利用できるからです。

 権利者を守るとともに、利用者のスムーズな利用を促すことで、音楽文化の発展に貢献するというのが、JASRACの本来的な役割です。

使用料が発生する場合・しない場合

 では元に戻って、楽曲の演奏に使用料が発生する場合とはどのような場合でしょうか。

 まず、著作権法上、音楽の著作権者は「公に演奏する権利を専有する」とされます(演奏権。著作権法22条)。噛み砕いて言えば、著作権者は自分の楽曲について「演奏させるか、させないかを自分だけが決めることができる」権利を持っているということです。

 このため、誰かが他人が作詞・作曲した曲をコンサートなどで、権利者に無断で演奏すること(あるいは使用料を支払わずに演奏すること)は、著作権侵害にあたる可能性があります。

 ただし、著作権侵害の対象となるのは、演奏が「公に」なされた場合に限られます。ここでいう「公の演奏」とは、「不特定または多数の人に、直接見せたり聞かせたりするために演奏すること」をいいます。

 一人で練習する場合や、家族内で演奏するような場合は、不特定の相手や多数の人に聞かせるわけではないので、「演奏権を侵害した」ということにはならないでしょう。

 また、著作物を「公に」演奏する場合であっても、営利性がない場合(①営利を目的としないこと、②観客等から対価を受けないこと、③演奏者に報酬が支払われないことの3つの要件をすべて満たす場合)には、たとえ多くの人に聞かせる目的があっても著作権者に承諾なく演奏することができ、使用料の支払いの対象とはなりません。(著作権法38条)。

 例えば、文化祭の出し物として無料のコンサートを行う場合は、「公の演奏」ではあるものの、通常は「営利性がない」と思われますので、使用料を支払う必要はないでしょう。

 たまに「そのうちJASRACはお風呂場で鼻歌を歌うだけでも使用料を取りに来るんじゃないか」という皮肉を目にしますが、通常は誰かに聞かせる目的はないでしょうし、また、営利性もないと思われるので、使用料の取立てにあう心配はなさそうです。

教室内の演奏は公の演奏か? 営利性は?

 さて、音楽教室での演奏はどうでしょうか。

 音楽教室の講師が、生徒に対してお手本のために演奏したり、生徒が練習のために演奏したりすることは、著作権法にいうところの「演奏」にあたります。問題はそれが「公の演奏」であり、かつ、「営利性のある演奏」といえるかどうかです。

 まず、「公の演奏」といえるかどうかは、「不特定の相手に演奏を聞かせているか、一定の限られた相手であっても多数かどうか」によって判断されます。

 音楽教室の講師がお手本として演奏する場合、それを聞くのは教室に通う限られた生徒だけでしょうから不特定または多数に聞かせる目的があると言えるかには疑問があります。そもそも、音楽を楽しむために「聞かせて」いるわけではないので、ごく一般的な感覚としても違和感があります。

 もっとも、判例の中には「カラオケ店が客にカラオケを歌わせる場合も、経営者の視点からすると不特定多数に向けた演奏といえる」とする趣旨のものもあります。音楽教室内の限られた範囲での演奏であっても「不特定または多数に聞かせる目的がある」と判断される可能性もまだ否定できません。

 次に、「営利性」については、講師は生徒に演奏の技術を教えるために演奏するのであって、演奏を聴かせることそれ自体からお金を取ろうとしているわけではありません。

 もっとも、多くの音楽教室は生徒から月謝を受けて成り立っていますし、講師に対しても謝礼や給与の形で報酬が支払われているでしょう。そうすると、「音楽教室による演奏には営利性がある」と判断される可能性も全くないわけではなさそうです。

 以上の通り、音楽教室での演奏が使用料徴収の対象となるかどうかについて、法解釈の面では微妙な問題が含まれています。

 今後、訴訟が提起された場合に、裁判所がどう判断するのかを見通すのはなかなか容易ではありません。

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