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多国籍化する住民との「言葉の壁」に苦慮する国際都市 ボランティア頼みの日本語教育 - 塩川慎也

 「ついたち、ふつか、みっか、よっか……」。暦を復唱する声が響く教室を覗いてみると、約20人の外国人が日本語を学んでいた。20代の女性が中心で玩具やゲーム機を手にした子連れの生徒も目立つ。

 堺市立殿馬場(とのばば)中学校の夜間学級には全国最大となる200人弱が在籍し、その8割を外国人が占める。6年間は無償で、最長9年間通うことができるが、「長期滞在する外国人に限り入学を許可しており、3年で帰国する技能実習生などは受け入れていない」(山中敏明副校長)という。


堺市の夜間中学校は生徒の8割が外国人。玩具やゲーム機を手にした子連れの生徒も目立つ

 来日22年になる日系ブラジル人の和泉アキエさん(45歳)は、4人の子どもを育て、昼に介護ヘルパーの仕事をしながら通学する。「読み書きできず、子どもが小学校から持ち帰るプリントも理解できなかったので、夜間中学の存在を知り嬉しかった。勉強してヘルパーの資格を取りたい」と意気込む。

 夜間中学は本来、戦争や貧困などの理由で十分な義務教育を受けられなかった国民のための学校である。しかし、時代の変遷とともにその役割は薄れ、今は外国人が日本社会で生きていけるための教育に比重が移っているのが実態である。

 1万2800人の外国人が暮らす堺市には、30年ほど前からボランティアが運営する日本語教室の開設が始まり、現在は14校が点在する。

 市は場所代や教材費など教室の運営費の半額を上限15万円で助成するが、「1回100円の授業料と年会費200円では運営費を賄いきれず、スタッフも年2000円を払っています」と「とが交流会」の向山由彦代表は打ち明ける。それでも、「職場で過酷な労働をしている外国人に、嫌な思い出だけを母国に持ち帰ってほしくない」と遠足やイベントも企画する。

 土曜の夜に開講する「北野田日本語教室」には、GW中にもかかわらず男女10人のスタッフが集まってきた。サラリーマンや教師のOBなどバックグラウンドは様々。生徒の目標や習熟度をスタッフが共有できるように個別カルテを作成する。「上から目線で教えると来なくなるので、寄り添いながらの支援を心がけ、マンツーマンで対応している」(火置敏彦代表)という。



独自教材に個別授業
ノウハウ積む教育現場

 1980年代から中国残留邦人を受け入れてきた堺には、中国にルーツを持つ住民も多く暮らす。若松台小学校の清水隆史校長は、「今年も日本語を全く話すことができない2人が入学しました。保護者も一切話せません」と中国語で書かれた「入学のしおり」を見せてくれた。全校生徒の1割強が外国人であるため、毎月発行する学年便りも中国語版を作成し、運動会の放送も2カ国語で流している。

習熟が遅れた外国人生徒には、「日本語教室」で専属の教師が個別授業を行う

 古くから多くの外国人が定住する堺には、教育ノウハウが蓄積されている。小学校では日本語教育に独自の教材を使っている。また、「日常会話ができるようになっても学習言語の理解が遅れがちになる」(清水校長)ため、算数、国語、社会の時間になると、各クラスから生徒を「日本語教室」に集め、専属の教師1人が順番に教えて回っている。

 さらに生徒の母国語を話せる日本語指導員を年間60日、2時間ずつ派遣し、生徒の学習・生活面の支援のほか、保護者面談の通訳まで行っている。

 しかし、年々増える外国人と多国籍化により、従来のノウハウだけでは対応しきれなくなっている。例えば、来日1年未満で日常会話もできない26人の生徒が「日本語教室」のない14校に在籍している。国は専属の教師を外国人児童18人につき1人の割合で定数化しているが、生徒が分散してしまうと手当てできない。

 「日本語を話せない生徒だけでも一定期間まとめて教育してもらえると助かる」と現場からは声が上がるが、「小学生が校区を越えて登校するのは現実的ではない」(市教育委員会)と、解決策は見いだせない。

 また、日本語指導員も「ベトナム語、ウルドゥー語、アラビア語など言語が多様化しており、なかなか人材を確保できない」(市教育委員会)という。

住民の多国籍化は行政サービスの場面でも影響が出ている。特に5年で5倍の1200人に急増したベトナム人の対応が喫緊の課題となっている。市は通訳派遣のサービスを用意しているが、「登録ボランティア170人の大半が英語と中国語の対応で、ベトナム語を話せるスタッフは数人しかおらず、依頼に対応しきれない」(文化観光局国際課・渡邊美知子氏)状態が続く。

 そこで、通訳がいなくても行政サービスを提供できるように多言語化を進めている。今春から乳幼児健診の問診票や予防接種の説明パネルなどにベトナム語版を導入した。しかし、今後のさらなる多国籍化を見据えると、「外国人住民には読み書きと日常会話レベルの日本語を習得してもらいたい。行政側も難解な役所言葉を見直し、やさしい日本語での情報発信や説明に取り組む」(国際課・韓昌一氏)と、「言葉の壁」を双方で下げる必要性を指摘する。

 しかし、肝心の日本語教育は市民ボランティアに頼りきっているのが実情だ。外国人の流入が加速する中、「言葉の壁」をどう乗り越えるか。国と地方はこの難題に本腰を入れて取り組まなければならない。

写真・Wedge

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