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女性昇進の落とし穴「ガラスの崖」現象

(一橋大学 大学院商学研究科教授 Christina L. Ahmadjian 構成=太田美由紀 イラスト=宮原葉月)

ダイバーシティが進めば進むほど、リーダーとなる女性が増えるもの。では、トップに立つ女性は何に悩んでいるの? ここでは、女性トップが直面している「ガラスの崖」という現象について、専門家のクリスティーナ・アメージャンさんに話を聞いてみました。

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▼「ガラスの崖」とは……
業績が低迷し危機的な状態の企業では男性よりも女性がCEOに起用される傾向にあることを示す言葉。失敗のリスクが高いこともあり、実際に失敗すると「だから女性は幹部に向かない」という偏見につながる危険性がある。

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「ガラスの崖」という言葉を知っていますか? 企業が危機的状況のとき女性がトップに立つ傾向を指し、イギリスでは、「業績の低い会社ほど女性の幹部が多い」という傾向や、「男性幹部が解雇されるのは27%、女性幹部が解雇されるのは38%」という数値を示した調査結果も出ています。とはいえ、そこに因果関係があるかどうかは、まだ解明されていません。

クリスティーナ・アメージャン●一橋大学 大学院商学研究科教授。2012年4月より現職。カリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネス博士課程修了。三菱重工業や日本取引所グループの社外取締役を歴任。

ただ、かつて業績不振だったヤフーがライバル社のグーグルの副社長であったマリッサ・メイヤーさんをCEOに抜擢したことをはじめ、イギリス首相のテリーザ・メイさん、日本では大塚家具の大塚久美子さん、東京都知事の小池百合子さんなど、何かとドラマティックなストーリーが注目を集めていることもあり、危機的な状況の企業や組織のトップには「何となく」女性が多いような印象を受け、記憶に残っているのも確かです。

その裏では、さまざまな仮説が考えられています。女性のほうが男性より安定的な経営をするだろうと期待を受けて就任する、女性は危機的なときにもあまりリサーチをせずに引き受ける、そもそもチャンスが少ないからこそ女性は依頼があればチャレンジする……。

本当の原因はわかりませんが、男性がCEOになるのは「ガラスの崖」といわれるような状況よりも、クッションのような居心地のいいときが多く、そのほうが問題ではないかという提起もされています。

■自分が抜擢されたとき気をつけておきたいこと

「ガラスの崖」がどのくらい信頼性のあることなのかはさておき、もし読者の女性が、CEOとはいかないまでも幹部やリーダー的な立場に抜擢されたとき、気をつけたいことは確実にあります。それについて、いくつかお伝えしておきましょう。

まず、自分が抜擢された理由を知ることが大切です。

一億総活躍といわれる中で、会社が数字目標を達成させるために、「とりあえず」女性をポジショニングすることもあるでしょう。すなわち、実際の働きを期待されていない場合が非常に怖い。ちょっとした失敗で、それこそ崖から突き落とされ、「やっぱり女性はできない」と言われかねません。

イラスト=宮原葉月

責任を持って仕事をするためには、自身の経験は足りているか、周りのサポートは確保できるか、メンターとなる人生の先輩はいるか、リソースは十分かどうかを見極めるべきです。現状を知り、足りない部分は学び、努力をして高める必要があります。

そのときに大事なポイントとして、女性に対する評価やフィードバックには偏りがあるということも知っておきましょう。最近ではアメリカのヒラリーとトランプの比較において「ヒラリーは笑顔が足りない」と言われました。男性なら真面目な顔をしていれば「一生懸命国のことを考えている」と言われるところを、女性であるだけで批判される。オリンピック選手でも、素晴らしいプレーをした後、男性はその内容について質問を受けるのに、女性は夫や子ども、家庭のことを取り沙汰されることがよくあります。

このように、男女の評価に偏りがあることを認識しておく必要があります。自分が受けた評価やフィードバックのうち、どれが本当に自分にとって大切な情報で、どれが相手のつまらない偏見なのかを見極めるためには、メンターが有効です。社内であれば違う部署の先輩、違う会社や違う業界の大先輩が頼りになります。複数の男女のメンターがいると、さまざまな視点からアドバイスをもらえます。

また、「女性だから」という期待やプレッシャーを受けるようなら、それは無視したほうがいい。「わが社の女性のロールモデルになりなさい」と言われても、余計なことを背負う必要はありません。もし「女性だから」という声が聞こえたら、「これは私の問題ではなく、あちらの問題」と振り分けることです。

そして、最も大切なことですが、女性には、自分がやりたいことをしっかりと貫いてほしい。所属する会社が大企業であっても、昭和のサラリーマンのような人生を目指す必要はありません。この仕事を引き受けることでいい経験になるのか、人生のためになるのか、そういう基準を持つことです。

働く女性にとってのこれまでの主な問題は、産休や育休、時短勤務などの制度だったかもしれませんが、今はさらに次のステップに目を向けるとき。女性は厳しい環境の中で働いているだけに、やる気があれば一生懸命頑張ることができます。会社も、そういう人を大事にするべき時代です。

■チャレンジするべき素晴らしい崖

もう一度「ガラスの崖」に戻りましょう。「ガラスの崖」といわれるような状況でも、男性が怖じ気づいて挑戦しない崖の上に女性が立つことは素晴らしいことです。「自分がやりたい」「今こそ貢献したい」「混乱しているときだからこそ頑張ろう」という精神は素晴らしい。

でも、その崖に挑む前に、もう一度思い描いてください。切り立った崖の上に立つために、登山家にはどんなことが必要でしょうか。サポートしてくれる仲間を集め、自分の経験によってチャレンジする崖を決め、ロープや道具を充実させて、危険な天候のときには断念するだけの判断力も持ち合わせていなければなりません。そのチェックはしっかりと行いましょう。非常に危険なチャレンジですが、成し遂げたとき、その達成感は素晴らしいはずです。崖の上に立ってみて、会社が嫌になったら、会社を出ればよいという選択肢もお忘れなく。

見通しを立て、準備ができたなら、ぜひ「ガラスの崖」にチャレンジしてください。応援しています。

▼「ガラスの崖」を乗り切るための3つの心得

1.社内外問わず、メンターを持とう
自分だけの判断では不安なとき、ネガティブになったときに、相談できる複数の先輩がいると、さまざまな視点からアドバイスをもらえます。

2.プレッシャーは無視してOK
仕事に関係のない余計なプレッシャーや期待は、無視してOK。「女性だから」「若いから」などではなく、「自分なりにできること」を心がけて。

3.やりたいことを貫こう!
つまらない昭和の男性のしきたりに合わせる必要はありません。リスクを負ってチャレンジするからには、本当にやりたいことを貫く覚悟で臨みましょう。

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