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習近平国家主席が貿易の自由化を力説するも、中国の開放政策は停滞中

著:James Laurencesonシドニー工科大学 Deputy Director and Professor, Australia-China Relations Institute)

 世界経済を先導するアメリカと中国の対立が深刻化している。

 習近平中国国家主席は、火曜日 (1月17日) に開幕した世界経済フォーラム (WEF) の年次総会に出席した。中国国家主席の年次総会参加は初めてのことだ。注目を集める中、習氏は保護貿易主義をけん制する内容の基調演説を行った。中国からは習氏の他にも、中国一の富豪とされる不動産開発会社大連万達グループの王健林(ワン・ジエンリン)会長や、電子商取引会社最大手アリババ社のジャック・マー会長ら、民間大手企業の有力者が集結した。

 しかしトランプ次期大統領からの公式代表の派遣はなかった。トランプ氏は選挙運動中に「アメリカ・ファースト」を誓約に掲げ、自国の利益を第一とすることを繰り返し主張してきた。アメリカ・ファースト政策のひとつとして、環太平洋戦略的経済連携協定 (TPP) からの離脱を計画している。TPPはオーストラリアも参加する多国間貿易協定だが、トランプ氏は「最悪の結果を招く恐れがある」協定だと批判した。

 しかし習氏、トランプ氏双方の主張と、国際貿易・投資の現状にはずれがある。確かに中国は経済開放政策を推進し、大きな成果を上げてきた。しかしその勢いは最近になって失速しつつある。

◆貿易自由化に向けた中国の歩み

 トランプ次期大統領は、2001年に中国の世界貿易機関 (WTO) への加盟が承認されたことで、不公平な貿易によりアメリカ史上「最大規模の雇用損失に繋がった」と非難した。

 しかしトランプ氏の主張は間違っている。確かに、WTO加盟を果たしたことで、中国はアメリカを含む外国市場へのアクセスを拡大した。しかしそれと同時に、WTO加盟の条件として中国市場の開放を約束したことも事実である。

 WTO加盟以前の1997年には、中国の貿易加重平均関税率が15.1%の高さであったことを考えてみてほしい。当時の中国は農産品に対して41.1%、非農産品に対して13.2% と非常に高い関税率を適用していた。

 しかし中国は、2006年にはWTOに約束した水準まで関税率を引き下げた。農産品に対する平均関税率は16.0%、非農産品に対しては4.6% となり、全体では5.0%まで引き下げられた。

◆自由化の停滞

 トランプ氏が選挙戦に勝利した直後の昨年11月、習氏はペルーで開催されたアジア太平洋経済協力 (APEC) 会議に出席した。そこで地域の繁栄のためには市場の開放が極めて重要であると述べた上で、「中国は他国に対して門戸を閉ざしはしない。むしろさらなる開放を進める」と明言した。

 しかしこの頃から貿易改革に関する中国の発言と、実際の成果に矛盾が見られるようになり、それが世界経済における中国の牽引力を弱める結果となっている。

 中国はWTOに約束した水準までは自由化を進めたものの、それ以降はすっかりペースを落としている。最新のデータによると、輸入品全体に対する平均関税率は現在4.5% で、アメリカの2倍以上の水準にとどまっている。また他国の政府や生産者からは、関税以外にも貿易に対する障害があるとの苦情も相次ぐ

 国際投資についても貿易と同じことが言える。経済協力開発機構 (OECD) は、各国が外国直接投資 (FDI) に適用する制限指数に苦言を呈している。

 1997年には中国の制限指数は0.625で、ランキング対象国中トップだった。2006年には0.447まで下げ、依然として高い水準ではあるものの大きく改善した。さらに10年後、中国の制限指数は0.336に引き下げられたが、それでもアメリカの4.5倍の高さだ。国別ランキングではミャンマーと並び、フィリピンに次ぐ2位に入った。

 少なくとも貿易に関しては、中国は二国間交渉をベースとした自由化を続けており、成果が出ていることも確かだ。現在、オーストラリアを始めとする10ヵ国に加え、東南アジア諸国連合 (ASEAN) とも自由貿易協定を結んでいる。

 2015年末に中国・オーストラリア自由貿易協定が締結され、中国への輸入品に係る様々な規制が緩和された。

 例えばオーストラリア産ワインは、今年からわずか5.6% の関税率で中国に輸入される。他国のワイン輸出業者が14% の関税率に苦しむ中、2年後にはオーストラリア産ワインに対する関税が撤廃される見込みだ。去年中国へのワイン輸出量が55% も増加したほどオーストラリア産ワインの需要が高まったのも頷ける。

◆今後の展望

 オーストラリアにとっては、中国との自由貿易協定は実り多い結果となった。一方で中国は、開放的な世界経済を支える国として世界の支持を集めたいのであれば、さらなる譲歩が必要である。

 これに関し、重要な進展があるかもしれない。今月上旬、中国政府は外国投資に対し、より多くの産業を開放する新たな政策を承認したと、中国の国営メディアが報じた。報道によれば新政策は間もなく発表される。

 中国は開放経済を推進し、国際社会におけるの真のリーダーの座に上り詰めようとしている。その要因として、国際貿易・投資に対する中国国民の支持が挙げられる。ピュー研究所が2014年に実施した調査によると、中国人の67% が、貿易により雇用機会が増加すると回答した。対してアメリカ人でそのように回答したのは15% しかいなかった。また貿易が賃金の増加に繋がると回答したのは、アメリカ人の10% に対し、中国人は61% という結果となった。外国企業が自国の企業を買収することについても、中国人は比較的寛容な態度を示している。

 グローバリゼーションを望むのは中国ばかりではない。アジア全域で肯定的な意見が見られる。

 オーストラリアの主要二大政党も、開放経済が自国の利益を最大にすると見ている。そのためオーストラリアの貿易政策は、アメリカやブレグジットの進むEUよりも、近隣のアジア諸国と協調する方針となるだろう。

 オーストラリアでは、トランプ次期大統領を支持するという人でさえ、開放経済に対しては肯定的だ。このような国民の後押しも得て、オーストラリアの貿易政策はさらに開放へと向かうだろう。オーストラリア国民は、貿易自由化により貿易赤字が増し、オーストラリアの雇用が奪われると危惧するどころか、アジアを最大の貿易黒字を得られる重要な市場として認めているのである。実際、オーストラリア製品は中国を始めとするアジア諸国で多く買われており、昨年は440億オーストラリアドルもの対アジア貿易黒字が得られている。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by t.sato via Conyac

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