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「のれん」に押しつぶされた東芝(佐々木実)

日本郵政が初めて赤字に転落した。2017年3月期連結決算の純損失は289億円。15年5月に買収した豪州の物流会社トール・ホールディングスの業績不振に伴い、4003億円もの特別損失を計上したことが原因である。

買収に失敗すると、なぜ損失が発生するのか。「のれん」という名の資産を減損処理しなければならないからだ。通常、企業を買収する際、買収額は買収される企業の純資産より大きい。買収した企業はこの差額を「のれん代」として、バランスシート(貸借対照表)の資産の部に計上する。買収の失敗が明らかになると、「のれん代」を減額しなければならず、損失が発生するわけである。

「のれん」は「ブランド力」とか「超過収益力」などと説明されることも多いが、買収の失敗は「のれん」の過大な評価から生じる。日本郵政はトールを約6200億円で買収したが、あとで巨額損失を被ったのは「のれん代」が巨額だったからにほかならない。

日本郵政の長門正貢社長は4月下旬の会見で、巨額買収劇の背景について「株式上場前に成長ストーリーを示したいという意図もあったのでは、と思う」と語った。買収当時、日本郵政は株式の上場を控えていた。トールの買収は弱点と見られていた郵便事業で「海外展開で成長」の「成長物語」を投資家にアピールするねらいがあった。法外な「のれん代」には、バラ色の成功物語の値段が上乗せされていたわけだ。

「シッポが犬を振り回す」というが、「のれん」はときに企業を振り回す。最悪の例が、東芝である。

東芝は2006年に米国の原子力会社ウェスティングハウス・エレクトリック(WH)を約6400億円で買収した。WHの純資産は約2400億円で、およそ4000億円を「のれん」に相当する無形資産として計上することになった(「のれん代」の3507億円とは別に「ブランド代(非償却無形資産)」として502億円を計上)。

現在、東芝は上場廃止さえ懸念されているが、迷走の原点はWHの買収だ。福島原発の事故後、巨額にのぼるのれん代の減損処理が必至だったにもかかわらず、東芝は「のれん代の償却は必要ない」と強弁し続けた。のちの不正な会計や不自然な企業買収を誘発する土壌をつくってしまった。「原子力ビジネスで成長」の夢から醒めたとたん、「のれん」に押しつぶされたのである。

「のれん」は不思議だ。企業の将来にわたる総合的な評価を、現時点で現金に換算するのだから、必ず不確実性が伴う。未来を正確に予測できないように、「のれん」を正確に算定することなどできない。

しかし一方で、「のれん」は企業を膨張させる。ソフトバンクは16年に英国のアーム・ホールディングスを約3兆3000億円で買収した際、約3兆500億円もの「のれん」という見えない資産を手に入れた。まるで魔法の杖だ。

結果的に買収が成功するか失敗するかにかかわらず、「のれん」には「物語」が潜む。資本主義の主役たる「企業」が商品として売り買いされるとき、資本主義に内在する幻想性が「のれん」となって姿を現す。そう解釈することもできるのではなかろうか。

(ささき みのる・ジャーナリスト。5月26日号)

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