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保釈制度を基礎の基礎から解説しよう

「保釈」という言葉はマスコミ報道などでもよく目にするが、意外と誤解の多い制度だ。

典型的な誤解としては、「悪いことをしたのに金を積めば出られるのはおかしい」といった意見が散見される。

保釈制度を理解するためには、前提となっている大原則から理解する必要がある。

以下、無罪推定という大原則から説き起こして、「保釈金はどの程度か」「実際どのくらい保釈が認められるか」といった実務的な事項まで解説を試みよう。

1.無罪推定の原則→有罪が確定するまでは自由の身

無罪推定の原則とは、「何人も、有罪判決が確定するまでは犯罪者として取り扱われない」という原則だ。

有罪判決確定まで罪人とは決まらないから罪人として取り扱われないというのは、考えれば当然の話だ。有罪判決を待たずに罪人として扱ってよいなら裁判はいらないことになる。

有罪判決確定まで罪人として扱われないということは、被疑者・被告人は、私たちと同様の自由な市民であるということだ。*1

この「被疑者・被告人は自由な市民」というのが、保釈制度を理解する出発点となる。

2.自由な市民なのに身柄を拘束されるのはなぜか

被疑者・被告人が自由な市民である以上、身柄を拘束されたりせずに自由に社会生活を送ることができるのが本来あるべき姿だ。

しかし、捜査の段階では捜査機関が捜査をして起訴・不起訴を決定しなければならないし、起訴後は裁判を行わなければならない。

そこで、被疑者・被告人を自由にしておくと捜査や裁判に支障が出ると認められる場合に限り、身柄拘束が認められることになっている。

具体的には、住居不定、罪証隠滅のおそれ、逃亡のおそれのいずれかが認められる場合に被疑者・被告人は勾留される。

刑事訴訟法

第60条 裁判所は、被告人が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合で、左の各号の一にあたるときは、これを勾留することができる。

一  被告人が定まつた住居を有しないとき。

二  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

三  被告人が逃亡し又は逃亡すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

○2  勾留の期間は、公訴の提起があつた日から二箇月とする。特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。但し、第八十九条第一号、第三号、第四号又は第六号にあたる場合を除いては、更新は、一回に限るものとする。

○3  三十万円(刑法 、暴力行為等処罰に関する法律(大正十五年法律第六十号)及び経済関係罰則の整備に関する法律(昭和十九年法律第四号)の罪以外の罪については、当分の間、二万円)以下の罰金、拘留又は科料に当たる事件については、被告人が定まつた住居を有しない場合に限り、第一項の規定を適用する。

3.被疑者段階で勾留されていても起訴後は保釈が認められる

被疑者の段階で勾留された人が、勾留されたまま起訴されると、その勾留は自動的に被告人段階の勾留に切り替わって継続されることになっている。

しかし、起訴後は起訴前と違って、保釈という制度がある。起訴後に限って保釈が認められる実質的理由としては、

  • 裁判には少なくとも1か月程度、長ければ数年を要するから、その間ずっと自由な市民であるはずの被告人を拘束しておくのは人権を制約しすぎであること
  • 捜査機関は起訴前に被疑者を勾留までして充分に捜査をし、その結果有罪に持ち込めると判断して起訴したはず。ならば重要な証拠は捜査機関において確保済みであり、罪証隠滅のおそれは一般的に低下しているはずであること
  • 捜査段階では、被疑者は自由な市民とはいえ捜査の客体という側面があった。しかし裁判段階では、被疑者は検察官と対等な立場で対立する当事者である。いわば裁判所を審判として検察官と試合をするのが被告人だ。したがって、ゲームに参加する当事者のうち一方だけ身柄を拘束して閉じ込めておくというのは公平ではないこと

あたりを挙げることができるだろう。

そこで、刑事訴訟法89条は、保釈は請求があれば原則的に認められることを前提にしつつ、例外的な場合だけ保釈が認められないという建て付けの規定になっている。*2

第89条  保釈の請求があつたときは、次の場合を除いては、これを許さなければならない。

一  被告人が死刑又は無期若しくは短期一年以上の懲役若しくは禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

二  被告人が前に死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮に当たる罪につき有罪の宣告を受けたことがあるとき。

三  被告人が常習として長期三年以上の懲役又は禁錮に当たる罪を犯したものであるとき。

四  被告人が罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があるとき。

五  被告人が、被害者その他事件の審判に必要な知識を有すると認められる者若しくはその親族の身体若しくは財産に害を加え又はこれらの者を畏怖させる行為をすると疑うに足りる相当な理由があるとき。

六  被告人の氏名又は住居が分からないとき。

4.保釈保証金は逃亡しないための担保。150万円からだが立替制度あり

保釈請求が認められる場合は、裁判所に保釈保証金(以下「保釈金」という。)を納める。

この保釈保証金は逃亡しないための担保として納めるものだから、ちゃんと出頭して裁判が終われば全額返ってくる。

案外ここを知らない人が多いようで、刑事事件の依頼者に説明すると、「なんだ、返ってくるんですか」といった反応がよくある。

お金持ちの場合、低額では逃亡を防ぐだけの心理的強制力が期待できないから、保釈金は高額になる。

この点もかなり誤解があって、富裕な有名人が高額な保釈金を積んで保釈されたという報道があると、「金持ちなら金を積んで釈放されることができるのか。ずるい」といった反応がよく見られる。

いや、金持ちでなければもっと低額で保釈されますからね。

とはいえ、無職なら1万円でも保釈してくれるというわけではなく、事実上の下限はある。

一般的には150万円を下限と見ておけばよいだろう。(例外的に150万円を下回る場合もあるが。)

もっとも、150万円からという大金を急に用意せよと言われてもできない人は多い。そういった人でも保釈されるための方法はある。

(1)日本保釈支援協会を利用する

一般社団法人「日本保釈支援協会」というのがある。保釈金を立て替える事業をやっている機関だ。*3

  • 被告人本人ではなく家族等の関係者が申し込む必要がある
  • 数万円程度の手数料を取られる
  • 保釈金を全額立て替えてくれる場合もあるが、全額は立て替えてくれず一部自己負担を求められる場合もある(ただしこれは保釈金の一部だから返ってくるが。)

といった制約はあるが、これをクリアできる人には便利な機関だ。審査手続も簡易で迅速。私もよく利用している。

(2)全国弁護士協同組合連合会の保釈保証書発行事業を利用する

全国弁護士協同組合連合会(全弁協)は、保釈保証金そのものを立て替えるのではなく、裁判所に提出する保釈保証書を発行してくれるという事業をやっている。

これは、全弁協が発行する保釈保証書の提出をもってひとまず保釈金に替え、万一被告人が逃亡などした場合には全弁協が保釈金を負担するという仕組みだ。

こちらは前記の保釈支援協会よりも新しい制度なのだが、使い勝手の悪い制度だという評判もあって、私は利用したことがない。

今は改善されているかもしれないので、興味があったら調べてみるとよい。

5.実際のところ保釈はどのくらい認められるか

保釈金は用意できるとしても、裁判所が罪証隠滅のおそれなどを理由に保釈を不相当と判断したら保釈は認められない。

では、実際のところ保釈はどの程度認められているか。

勾留された被告人の数を分母とし、保釈許可数を分子とした「保釈率」という指標がある。保釈率は2015年のデータで26.41%だ。

保釈率は1990年には25.25%だったのが、以後年々低下し、2003年には半分以下の11.74%になった。

しかしそこから年々上昇し、最新のデータでは1990年を上回る水準となっている。

この保釈率は、あくまで勾留された被告人数が分母なので、そもそも保釈請求していない人も含んでいる点に注意が必要だ。保釈請求をした場合に認められる割合はもっと高い。

統計はないが、請求すれば少なくとも半分以上は保釈されるというのが私の体感だ。*4

以前は、「否認していると保釈されない」と言われていた。今でも否認は罪証隠滅・逃亡のおそれを示す材料として考慮されてしまう可能性はある。しかし、否認していても保釈されるケースは増えてきていると思う。

また、有罪になった場合に実刑確実とみられる被告人も保釈は認められにくいと言われてきたが、最近は意外と認められるという印象がある。

このあたりは実務をやっての体感で述べているからデータは出せないが、徐々にとはいえ「人質司法」が改善されてきているなと感じる。

弁護士 三浦 義隆

おおたかの森法律事務所

http://otakalaw.com/

*1:被疑者とは捜査機関から疑いをかけられた起訴前の人を指す。被告人とは起訴された人。

*2:刑訴法89条の保釈を「権利保釈」という。もっとも、実務上、裁判所はそう簡単に権利保釈は認めず、同法90条のいわゆる「裁量保釈」で認めるのが一般的。この点はフリーハンドを確保しておきたいという裁判所の意図のあらわれだろう。

*3:最近は保釈保証書発行事業もやっているらしいが私は利用したことがないのでよく知らない。興味があったら同協会のウェブサイトで確認してほしい。

*4:保釈成功率は各弁護士の方針の違いにより変わってくると思う。きわどい事案でも積極的に保釈請求する熱心な弁護士の保釈成功率はむしろ下がる傾向があるといえる。保釈請求で全勝しているとか勝率9割を超えているとかいう弁護士がいたら、それは最初から諦めて保釈請求しない割合が高いせいだとしか考えられないからお勧めしない。保釈に限らず、弁護士業は難しい案件をやっている人ほど勝ったり負けたりするものなので、高すぎる勝率を誇る人は総じて信用に値しないから注意。

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